生活協同組合とSDGs

「新ノーマライゼーション」2020年4月号

日本生活協同組合連合会
執行役員・渉外広報本部長
伊藤治郎(いとうじろう)

「生協」とは「消費生活協同組合」のことで、厚生労働省が所管する「消費生活協同組合法(生協法)」に基づく非営利の組織です。生協は、自らのくらしを守り、より良いくらしを願う消費者が出資し、生協の商品・サービスを利用し、そして運営にも参加するということが特徴です。

現代につながる生協は、19世紀のイギリスで、労働者たちがお金を出し合って混ぜ物のない食品を仕入れ、正しい量目・公正な価格で販売したことがスタートだといわれています。

日本の生協の全国組織である日本生活協同組合連合会(以下、日本生協連)には全国319の生協が加盟し、その事業高の合計は約3.5兆円です。

生協の事業の中心は、宅配と店舗による購買事業、共済事業と介護保険事業を中心とした福祉事業です。

生協の大きな特徴は、一般の小売業ではお客様である組合員が自ら活動を行い、運営にも参加していることです。食の安全に関する学習、産直の生産者との交流、環境問題への取り組み、助け合いの活動、そして昨今頻発化、深刻化する自然災害におけるボランティアや募金等の活動が全国の生協で行われています。

持続可能な開発目標(SDGs)は、2015年に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中で記載された2030年に向けて全世界が取り組む目標で、17の目標と169のターゲットから構成されています。日本生協連と全国の生協は、これまで生協が取り組んできたさまざまな課題はSDGsと大変親和性があるという認識に立ち、2018年6月の通常総会で「コープSDGs行動宣言」を採択しました。

SDGsの目標8は、「すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワークを推進する」です。全国の生協では、多様な人々が尊厳をもって働ける職場を提供する取り組みを行っています。その一例として、大阪いずみ市民生協(本部:堺市、2018年度末・組合員数53万人、供給高930億円)による農業生産・障がい者雇用・リサイクルを同時に実現している事例を紹介します。

同生協では、2010年に「特例子会社(株)ハートコープいずみ」と「農業生産法人(株)いずみエコロジーファーム」を設立しました。ハートコープいずみは生協の事業で回収されたカタログや牛乳パックをリサイクル業者に販売する事業、宅配事業に用いる資材の洗浄・清掃に加え、店舗で発生する食品残渣(ざんさ)から堆肥を製造する事業を行っています。そしてその堆肥(たいひ)を用いてエコロジーファームで葉物野菜などの農産物を育て、いずみ市民生協で組合員に供給するという「食品リサイクル・ループ」を実現しています。また、エコロジーファームでは2012年に就労継続支援A型事業所「ハートランド事業部」を立ち上げ、障がい者の雇用機会をさらに広げています。2018年度末現在、エコロジーファーム(ハートランド事業部)を除いたいずみ市民生協グループ全体の障がい者雇用率は5.27%を達成しています。さらに同生協は、2015年に生活困窮者自立支援制度に基づく就労訓練事業(中間的就労)の実施事業者の認定を受け、さまざまな理由から働くことに困難を抱えている方の就労支援にも取り組んでいます。

生協は人と人とのつながりを基礎とする助け合いの組織です。SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」持続可能な世界に少しでも近づくよう努力してまいります。


1 法的には就労継続支援A型事業所は障がい者雇用率にカウントされませんが、ハートランド事業部を含めると6.13%となります。

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