東京パラ・選手を支える人-医・科学研究に基づいたパラリンピックアスリートの支援―体力測定の観点から―

「新ノーマライゼーション」2020年4月号

独立行政法人日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンター
国立スポーツ科学センター スポーツ科学部 研究員
袴田智子(はかまだのりこ)

独立行政法人日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンター 国立スポーツ科学センター スポーツ科学部研究員。日本体育大学大学院博士後期課程修了、日本体育大学スポーツ・トレーニングセンター助教を経て現職。主に形態・身体組成に関する研究に従事。所属学会:日本バイオメカニクス学会、日本体育学会、日本体力医学会、国際バイオメカニクス学会、アメリカスポーツ医学会など。

競技者を対象とした体力測定は、主に、選手自身のコンディション把握、トレーニング効果を確認する目的で実施されます。国立スポーツ科学センター(以下、JISS)では、2001年よりオリンピックアスリートを対象に体力測定を行ってきましたが、2015年からは、パラリンピックアスリートについても、オリンピックアスリートと同様に体力測定を実施しています。

JISSではパラリンピックアスリートを受け入れる以前は、オリンピックアスリートのみを対象に支援と研究を行ってきたため、JISSで得られた知見をパラリンピックアスリートにあてはめようとした場合、それまでのノウハウや経験、リソースだけでは、パラリンピックアスリートに対して十分な対応ができないことが考えられました。そこで、トライアルとして、オリンピック競技の知見やJISSの持つ知見を活用しやすい競技から測定項目・プロトコルの設定を行い、体力測定を実施しました。

現在では、夏季・冬季の競技を合わせて5競技8種別、年間では延べ70名程度のパラリンピックアスリートの測定を行っています。オフシーズンのトレーニング効果の確認やシーズン前のコンディションをチェックするために、ほとんどの競技で年間2回程度測定を実施しています。障がい種別でみると、肢体不自由(欠損、四肢麻痺、脊髄損傷)、視覚障がい、知的障がい等を実施しました。

体力測定を実施する中で、パラリンピックアスリート特有の課題も浮き彫りになってきました。例えば、同じ「座位」の選手であっても、両脚が麻痺の選手もいれば、両脚切断の選手もいます。また、脊髄損傷のレベルもさまざまであり、それ故に「座位」として測定方法を確立しても、脚の状態や座位姿勢時のバランスを保持する能力の違いによっては、測定時に使用する機器の座面や背もたれ、体幹や上体を固定するアタッチメント等を変える必要が出てきます。

また、選手の中には、手術等により体内の一部を金属で固定している選手も少なくありません。測定項目によっては、体内に金属が入っていると、測定自体ができない場合があります(例:MRIによる筋横断面積の測定等)。そのため、選手の障がい特性については、障がい種別やクラスを問診することはもちろんのこと、どのような運動が可能であるか、また運動する上での制約条件はあるのか等、選手それぞれの状態を前もって詳細に確認しておくことが、その後の測定項目の設定やプロトコル作成をする上で大変重要となります。

上記のような課題を確認し、安全かつ確実に体力測定を実施し、選手の競技力向上に即したサポートを行うためには、さまざまな分野の専門家と連携を図る必要があります。体力測定を安全に実施するには、メディカルドクターや理学療法士との連携は欠かせません。得られた値を基に選手個々にあった課題を解決するには、トレーニング指導員、心理・栄養等の研究員との連携も必須になります。また、義手・義足・車いす等、用具を扱う専門家の情報も必要になります。

JISSでは、パラリンピック選手の課題について、各分野に配置されたパラリンピック専門スタッフと協議し、医学・科学・情報のそれぞれの分野が垣根を越え、包括的にアスリートのサポートに携わることを目指しており、このようなサポート体制は、特にパラリンピック競技において必要不可欠であると感じています。

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