ひと~マイライフ-教科書の外で学びたい

「新ノーマライゼーション」2020年4月号

横山政輝(よこやままさき)

生まれつき弱視で、中学1年より筑波大学附属視覚特別支援学校で学ぶ。

高等部1年生の時に、ダスキン愛の輪基金が実施している、ダスキン障害者リーダー育成海外研修派遣事業ジュニアリーダー育成グループ研修生としてイギリスにて視覚障害者事情を学ぶ機会を得る。これを機に海外の視覚障害者事情に興味を持ち、タイやチェコの盲学校を訪れ交流を深める。2019年より国際基督教大学教養学部に在籍。

私は生まれつき弱視で、細かい文字や遠くのものを見ることが困難です。加えて暗い場所ではほとんどものが見えませんが、子どもの頃から外の世界への関心が強くあり冒険好きでした。両親や周りの人々も弱視をとりわけ心配することもなくハイキング、シュノーケリング、スキーなどのアウトドアに頻繁に連れていってくれました。

一方、勉学においては、小学校入学当初から文字の筆記が負担になりました。私が筆記する際にはコントラストをはっきりさせるため、文字を大きく、さらに濃く書く必要があり、急いで書く時や何度も消しゴムで修正したりすると、他人には識別不可能なほどに汚いノートになってしまいます。加えて漢字や英語のスペルを正確に記憶することも苦手で、小学校から高校卒業にいたるまで誤字脱字は常に通知表の改善点の欄の筆頭に挙げられていました。その他にも文章朗読に時間がかかること、眼が疲れてしまうことなどから座学が大嫌いでした。

座学が嫌いな一方で、私は自然科学や文化、歴史には強い関心をもっていたため、学校の特別授業や博物館で提供される体験学習を大変好んでいました。しかし、日本の博物館では、明るさを抑えた部屋に展示物をケースに入れ展示していることが一般的で、史跡においても保存のために一般の人が近づけない場所があり、近づけたとしても解説が読めないなど、弱視の私には不便を感じることが多々あります。最近では技術の進歩や体験学習への理解から音声案内や触察展示を増やしている傾向にありますが、どこの博物館を訪れても同じようなものしか触察の対象になっていないなど改善点はまだまだあると感じます。

そうした思いもあり、高等部1年生の時に参加したダスキン愛の輪基金のイギリス研修においては、イギリスの博物館や文化史跡における障害者へのアクセシビリティについて学ぶことを目標の1つとしていました。現地では大英博物館や国立炭鉱博物館の他、由緒ある劇場や大聖堂でのタッチツアーに参加し、古代エジプトの石像からエリザベス女王が座っていた椅子まで、貴重なコレクションを触察することができました。それぞれの施設ごとに特色もあり、特に炭鉱博物館は時代ごとの採掘作業の様子をマネキンや使用済みの機械を用いて、実際使われていた坑道の中に再現しており、それまで炭鉱に関してほとんど知識のなかった私でも、採掘技術の歴史を鮮明に記憶することができました。また、地方の町でも運河の門や古い井戸などの歴史遺産に触れたり動かしたりすることが自由にでき、体験学習がしやすい環境であることを実感しました。

これらの経験から、現在、大学の点訳サークルの活動の一環で近所にある博物館と協力して障害当事者が学習しやすい展示づくりを行っています。また、趣味として友人と古墳や城跡など触察しやすい遺跡を巡る体験型の歴史ツアーを企画実行しています。私のように教室の外に学びを求めている子どもたちのためにも、視覚文化の中で視覚以外の感覚の重要性を忘れがちな多くの人々のためにも、博物館や史跡、自然公園などの生涯学習の場を、より多くの人がさまざまな感覚を使って学ぶことができるような取り組みができればと考えています。

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