韓国の新しい障害認定基準の検討状況

李美貞(韓国HANSHIN大学民主社会政策研究院研究委員)

韓国の障害認定制度が今年7月から新しく変わる予定である。これまでの韓国の障害認定制度は医学モデルに基づき障害の有無を判断し、障害の重さを決めた。すなわち、医学検査の結果で障害の重さを測り、重い順に1から6まで数字を付けた障害等級である。そして、障害等級は障害福祉サービス、障害年金、税金減額など国や地方自治団体が提供するすべての支援策の基準として長い間使われてきた。

障害等級1の場合はすべての福祉サービスを受けられ、障害年金もあり、税金も多く減額される一方、障害等級4から障害等級6の場合は必要なサービスが受けられない状況であった。そのため障害者団体や専門家から障害等級に基づいた障害認定制度に対する反論や反発が多くあった。

その理由の一つ目は、障害認定制度が医学的なモデルであり、障害をもつ者の様々な環境を反映できず、人それぞれに合う必要なサービスが提供されない。二つ目は、障害等級が同じであれば提供されるサービスの量も同じであり、重複障害を持つ者は単一障害を持つ者と比べサービスの量が足りず苦労していた。三つ目は、身体的障害(身体障害)と精神的障害(精神、知的、発達)間のサービス量の差異があった。障害福祉サービスのほとんど身体的障害を対象にしており、精神および知的や発達障害のサービスは少なかった。

そのような指摘を受け、保健福祉部(日本の厚生労働省)は障害等級を基にした障害認定制度を変えるため、2014年から専門家らを集め研究を始めた。まず、海外の障害認定制度を分析し、医学的モデルではなく社会的モデルを考え、韓国の状況に合う障害者総合支援調査票の初版が作られた。その後、モデル事業を実施し調査票の妥当性を確認しながら障害者総合支援調査票の内容を見直した。

しかし、研究を実施し、障害者総合支援調査票(案)を作ったが、障害者団体や専門家の大きな反発で、障害認定制度を変えるまでは迷いがあった。障害等級に基づいた障害認定制度は韓国の障害者関連制度や政策のベースとして長い間使われており、関わっている行政も保健福祉部だけではなく、雇用労働部、教育部など行政全体に及んでいた。すなわち、障害認定制度を変えるというのは障害関連政策や制度を全般的に変えることでもあり、行政全体が新しい障害認定制度に取り入れないとできないことでもある。また、障害をもつ者が受けられる福祉サービスと直接に関わるため、敏感な部分でもあった。

このような問題があり、保健福祉部は障害認定制度の問題を認識し研究を行いながら実施まで難しさを感じていた。その中で2017年韓国の大統領選挙があり、現在の文在寅大統領が障害認定制度を変える障害等級制度の廃止をマニフェストで取り上げた。さらに就任後には国家運営のための大きな課題(国政課題)として2019年7月までに障害等級制度の廃止を完了することを公表した。

このような動きに合わせ、障害者総合支援調査について2017年末まで研究を重ねるとともに3回のモデル事業を実施し調査票を確定した。障害者総合支援調査では障害者福祉法に規定されている障害を持つ者の定義や国と地方自治団体の責任を中心に検討した。障害者総合支援調査体系は、国と地方自治団体が、障害をもつ者が日常生活や社会生活を営むために必要なサービスの総量を測定し支援する内容で構成され、国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health;ICF)のコードを活用した。また、今まで障害認定の根拠になっていた医師の診断書は障害者総合支援調査の結果が客観的に認められるのかを判断する参考資料として活用されるように変わった。

障害をもつ者に必要なサービスの総量は障害者総合支援調査票の調査結果を点数化し、それを計算式にかけたものである。その計算式は18時間を基準に設定されており、計算の結果は時間として現れた。18時間は1日の時間の中で寝る時間を除外した時間を意味し、障害をもつ者も障害のない者にも同じように提供されるものである。障害と関係なく、誰でも障害者総合支援調査の計算の結果が一定時間以上であれば、障害として考えるように設計された。

必要なサービス時間の最短と最長の基準については行政側と研究者らが討論し、話し合った。最短時間については一日一時間以上のサービスが必要なものを対象にした。また、提供されるサービスの最長時間については当初18時間を設定したが国の予算の問題もあり、まず16.5時間にした。16.5時間は会社や学校に通っている最重度の者に提供される時間であり、会社や学校などの社会生活していない最重度の者には14.5時間が提供される。

障害者総合支援調査を通じてサービスの総量が決まるが、サービスの総量が急に低下したり増加したりすると障害者当事者からの反発が行われる恐れがあった。そこで、行政は多くの障害を持つ者に変化がないよう障害者総合支援調査票の点数を今まで障害を持つ者に提供された活動支援制度((日本の生活介護と似ている)に合わせ、調整した。

そのため、2014年にはADL関連項目16、IADL関連項目10、認知・感覚・精神・行動関連項目29、社会活動項目2、世帯の特性に関する項目4で構成された障害総合支援調査票(案)が完成した2017年にはADL関連項目12、IADL関連項目8、認知・行動特性に関する項目8、社会活動の項目2、世帯の特性に関する項目4に項目が減った。また、項目ごとに与えた点数も変わった。一方、社会活動や世帯の特性については変えなかった。世帯の特性としては一人暮らしの有無又は周りに世話する人がいるかどうか、社会的弱者で構成している世帯、家族の社会生活の有無、居住先の階数(階段及びエレベーターの設置有無)などが含まれている。

このように障害者総合支援調査は表面的に変化が無さそうに見えるが、その中身は障害等級ではなく個人のサービス必要度によって測定されるものである。

ただし、サービスの量が減少した一部の障害をもつ者や中度で単一の障害をもつ者は、障害者総合支援調査に反発し、障害類型ごとに調査票を作ろうという声も上がっている。

韓国政府は医学的モデルではなく社会的モデルに基づいた新しい障害認定制度をつくるため工夫しているが、すべての障害を持つ者や団体から賛同を得ていないため、2019年1月31日国務総理をはじめ障害者団体や専門家代表13人、各行政部省の長官が参加した「第20次障害者政策調整委員会」を開き、障害者福祉サービスについては、まず、約束通り、2019年7月から障害総合支援調査を基にした障害認定制度を実施することにした。

従って、2019年7月から 障害を持つ者に提供する様々なサービスの中で、活動支援をはじめ緊急安全お知らせサービス、夜間巡回訪問サービス、歩行訓練支援サービス、補助機器支援サービスなどには優先的に障害者総合支援調査の結果が導入される。また、2020年には移動支援に関するサービスに適用し、2022年までは所得や雇用部分にも適用を拡大する予定である。

また、税金減額や割引など現金支援が行われる部分ではより客観的な判断が必要なため、今まで使われてきた等級制度を維持することにした。ただ、1級から6級までの等級は、今年7月から、1級から3級までは「障害程度が重い障害者」に、4級から6級までは「障害程度が重くない障害者」に2段階に単純化することに代わることになった。

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