Society5.0の実現に向けたスマートシティの推進

「新ノーマライゼーション」2020年5月号

内閣府政策調査員
土屋俊博(つちやとしひろ)

スマートシティとは何なのか

「Society5.0(ソサエティゴーテンゼロ)」という言葉をご存知でしょうか。これまでの人類の歴史は、1.狩猟社会、2.農耕社会、3.工業社会、4.情報社会、という文明の進化を経てきました。Society5.0とはその先の、我が国が目指すべき未来社会の姿を表した言葉です。この概念は平成28年1月に策定された「第5期科学技術基本計画」において提唱されました。これまでの情報社会との大きな違いは、IoT(Internet of Things)ですべての人とモノがつながり、さまざまな知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、社会の課題や困難を克服します。また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合あえる社会、一人ひとりが快適で活躍できる社会を理想としています。内閣府では、このSociety5.0を現実世界に実装したものをスマートシティと位置付けています。

図1 Society5.0による人間中心の社会
図1 Society5.0による人間中心の社会拡大図・テキスト

「スマートシティ官民連携プラットフォーム」について

近年、「AIやIoTなどの先進技術を使って地域の課題解決を行う」いわゆるスマートシティのモデル作りを推進する事業が、政府や地方自治体の主導のもと、全国各地で数多く進められてきました。しかし、地域ごとに行われる事業は、事業終了後の自立的・持続的な運営と発展が課題となっていました。

こうした問題意識の下、平成31年3月、政府ではスマートシティ事業に関する基本方針(1.ビジョンの明確化、2.アーキテクチャによる全体俯瞰、3.相互運用性の確保、4.拡張性の確保、5.組織・体制の整備)を制定し、関係府省が連携してスマートシティに重点的に取り組んでいくこととなりました。また、令和元年8月に合計459の自治体・企業・研究機関などを会員とする「スマートシティ官民連携プラットフォーム」を4府省(内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省)共同で設立しました。このプラットフォームには、スマートシティに関わる関係府省の他、政府が行うスマートシティ関連事業の実施者に採択された企業、大学・研究機関、地方公共団体等が参加しています。

プラットフォーム設立以来、上記事業を一元的に参照できるWebサイト2)を公開しました。また、関係府省が個別地域におけるスマートシティ事業に対する実装を支援したり、会員間で共通的な課題の検討・対策を行う「分科会」を設け、情報交換や自治体と企業のマッチング等を展開しています。このプラットフォームを軸に、官民が一体となって全国各地のスマートシティの取組を強力に推進していきます。

障害者の暮らしがどう変わっていくのか

これまでの社会では、経済や組織といったシステムが優先され、個々の能力などに応じて個人が受けるモノやサービスに格差が生じている面がありました。Society 5.0では、ビッグデータを踏まえたAIやロボットが今まで人間が行っていた作業や調整を代行・支援するため、日々の煩雑で不得手な作業などから解放され、誰もが快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることができるようになります。例えば、医療・介護の領域では、図2に示したような新たな価値を享受することができると期待されています。

図2 新たな価値の事例(医療・介護)
図2 新たな価値の事例(医療・介護)拡大図・テキスト

具体的な実証事例を紹介します。大分県では、内閣府地方創生推進事務局の「未来技術社会実装事業」を活用し、民間事業者が開発した遠隔操作ロボット「アバター」を社会に実装し、多様な分野に用いることで、さまざまな地域課題の解決を目指しています。

このアバターにはさまざまなタイプがありますが、操縦者は遠隔地からロボットを通じて会話をしたり、移動したり、手を使った作業を行うことなどができます。今後、外出が困難な学生が自宅や病院から学校の授業を受ける、部活動に参加するというような使い方や、遠隔地からのショッピング、また、障害者が離れた場所にいながら就労をするといった活用が考えられます。

大分県では、アバターの社会実装に向けて「入院中の生徒がアバターを通じて部活動に参加する実証実験」や「遠隔地からの買い物体験などの実証実験」を実施する中で、課題の洗い出しや、地域住民にアバターについての理解を深めてもらうといった、実装に向けた技術的な検討や環境整備に取り組んでいるところです3)

また、他県での独自の取組として、ALS患者などの重度障害者が分身ロボットを遠隔操作しカフェでお客様対応を行うといった、障害者が自宅や病院にいながらにして働くための実証実験なども行われているようです。

これは一人ひとりの人間が中心となる社会であり、決してAIやロボットに支配され、監視されるような未来ではありません。また、我が国のみならず世界のさまざまな課題の解決や、国連の「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals:SDGs)の達成にも通じるものです。

我が国は、先端技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れ、イノベーションから新たな価値が創造されることにより、誰もが快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることのできる人間中心の社会「Society 5.0」を世界に先駆けて実現していきます。


【参考】

1)内閣府Webサイト
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/

2)スマートシティ官民連携プラットフォームWebサイト
http://www.mlit.go.jp/scpf/

3)遠隔操作ロボットアバターを通じた世界最先端地方創生モデルの実現
http://www.mlit.go.jp/scpf/projects/docs/smartcityproject_co(1)%2014_oita-ken.pdf
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kinmirai/pdf/1814_kinmirai_ooita.pdf

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