ICTを活用した共生社会の実現に向けたデータ利活用型スマートシティ推進の取組

「新ノーマライゼーション」2020年5月号

総務省情報流通行政局地域通信振興課

総務省では平成24年からICT(情報通信技術)を活用した街づくりを進めています。最初は実証事業で、全国27か所の地域で取り組んでいただきました。その成果を横展開していこうと考え、平成26年度の補正予算(平成27年度から実施)から、実証事業で得た成果の普及展開に取り組みました。こういった取組は主に、鳥獣被害対策などの単一分野でICTやデータを利活用するものでした。

平成28年度までは、そのような単一メニューを中心に進めてきましたが、今日では、総人口の減少や高齢化の進展、価値観の多様化等により、さまざまな課題が入り組んできています。高齢者や障害者を支援するとともに、男女共同参画や外国人との共生を実現し、誰もが豊かな人生を享受できるインクルーシブな社会を構築するため、単一メニューだけでは解決できない課題が顕在化してきていることから、より高次のICTを活用した街づくりを目指しています。

そのため、平成29年度からは、ICTとデータを利活用し、そこに住む人々のQOLを高めながら都市のインフラ・サービスの効率的な管理・運用を実現することにより、街の課題を解決しつつ活力を高める「データ利活用型スマートシティ」の推進に取り組んでいます。

データ利活用型スマートシティ推進のための主要な取組の一つとして、財政支援を行っています。支援に当たっては、自治体などの実施主体に、それぞれの課題に対してどういう解決策があるのかを検討、提案していただきます。それを外部の有識者も含めて評価し、優先的に取り組むべき案件には、初期投資・継続的な体制整備等にかかる経費の一部を補助しています(図)。


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データ利活用型スマートシティの根幹にあるのはデータプラットフォームです。いろいろな分野のデータを集めて統合し、他の分野にも使えるデータ連携基盤と呼ばれるものを構築してもらっています。採択実績としては、平成29年度は6件、平成30年度は3件、令和元年度は5件となっています。今年度も提案の公募を行っています。

各事業主体においては、実際にデータを収集し、それを活用して、自ら示していただいた目標を達成する方向に進めていただいています。それに加え、どのような活動ができるかも、それぞれの地域・団体に考えていただいています。

例えば、福島県会津若松市は、地域情報の入り口として、個人の属性(年齢、性別、家族構成、趣味嗜好等)に応じて、その人にとって必要な情報をピックアップしておすすめ表示するレコメンド型の情報提供プラットフォーム「会津若松+(プラス)」を提供しています。行政だけではなく、地域の企業などからの情報やサービスも併せて提供しているほか、「ガジェット」と呼んでいる部分では、除雪車ナビ、母子健康手帳、イベントカレンダーなどの情報も表示することができ、市民生活の利便性向上に役立っています。

また、兵庫県加古川市では、市民の安全・安心を守る「かこがわアプリ」を開発しています。このアプリには、子どもや認知症のため行方不明となるおそれのある高齢者の持つ見守りBLEタグをアプリから検知する機能のほか、居住地域及び現在地に応じて、緊急時に市からの防災情報などのお知らせをプッシュ通知で受け取ることができる機能等、パーソナライズされた情報を提供することができます。

日々多様な情報やサービスを享受できる社会で、自身に必要な情報やサービスのコントロールが煩雑になっていますが、このような取組によって、一人ひとりのユーザーに合わせたパーソナライズされた情報提供が今後も期待されます。

また、情報発信手段はスマートフォンだけにとどまらずケーブルテレビをプラットフォームとしたサービスも増えています。例えば、長野県伊那市では、人口減少社会における少子高齢化や地域機能の低下等のさらなる進行が予測される中で、今後も増加し続ける交通弱者、買物弱者、医療弱者等の支援に向け、ケーブルテレビをプラットフォームとする簡便で多用途リクエストシステムの構築により、将来にわたり地域で暮らし続けることのできる環境の整備を図っています。日頃から慣れ親しんだテレビリモコンのデータ放送用ボタンの操作のみで、ドローン物流による買物サービスや、AIにより最適化されたドアツードア乗合タクシーの呼び出し、遠隔医療サービス、遠隔地の家族等による物忘れ防止のためのアラート機能や見守りといった各種サービスを、障害のある方へのAI乗合タクシー料金の割引と併せて享受することができ、将来にわたり地域で暮らし続けることのできる環境の整備を図ります。

このようにケーブルテレビ等の日頃から慣れ親しんでいる媒体を使用するなどにより、誰一人取り残さず、各人にとって使いやすい手段で、また家に居ながら行政サービス等の支援を享受でき、生活の利便性や快適性が今後も向上することが期待されます。

以上のとおり、スマートシティに取り組むうえで大切なことは、地域ごとの課題の見極めと、民間企業等の持つ技術の活用です。総務省の財政支援は初年度だけなので、その後は各市町村の単費や地域の企業等の協力もいただいて実装を継続していかなければなりません。事業の継続ということが、もう一つの重要なポイントです。

せっかくプラットフォームを作ったとしても、10人しかデータを使っていないとなると効果が期待できないため、地域の住民に幅広く使っていただく必要があります。そこにどうアプローチしていくかが課題です。平成24年から進めてきたICTを活用した街づくりの成果を見ても、やはり首長の熱意、ビジョンが重要です。有識者の方々も、実証事業が成功した地域は、必ず首長にやる気があったと口を揃えます。首長が、その地域において実現すべきビジョンや解決すべき課題を明らかにし、スマートシティという手段によりビジョンの実現や課題の解決を目指すという地域が進むべき道を示すことで、住民をはじめとする地域の方々も同じ方向を向いて取り組んでいくことができるようになります。そのため、総務省が財政支援を行うに当たっては、有識者と対象自治体の首長等との意見交換会を開催しています。

これまで、先進的な取組を行う都市・地域への財政支援を中心に取り組んできましたが、規模の大きな自治体における取組に限定されがちで、今後は中小規模の自治体への横展開や都市間連携を進める取組が必要になると考えています。

令和2年度からは、財政支援に加えて、ノウハウ・リソースに乏しい自治体でもスマートシティに取り組むことで地域課題の解決をできるようなアプローチを検討し、今後も中小規模の自治体も含めた全国でのスマートシティの展開を推進し、ICTの活用による共生社会の実現を目指していきます。


BLE(Bluetooth Low Energy):Bluetoothの低消費電力の規格。

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