スマートモビリティチャレンジの取組を通じた新しい地域MaaS創出に向けて

「新ノーマライゼーション」2020年5月号

経済産業省製造産業局自動車課 課長補佐
増田陽洋(ますだあきひろ)

1.「スマートモビリティチャレンジ」について

人や物を移動・輸送する交通の能力(可動性)を「モビリティ」と言います。

これまで、モビリティは車両を運転して移動したり物を運ぶことを指すことが一般的でした。しかし、クルマと通信技術が結びついたこと、スマートフォンやセンシングにより収集したデータをコンピュータや人工知能を活用し分析する技術が発達したことで、より広くサービスそのものを供給する手段と捉え直されるようになりました。この概念は「MaaS」(Mobility as a Service: モビリティ・アズ・ア・サービス)と呼ばれています。

すでに日本では人口減少が進んでおり、高齢者の運転免許返納も進んでいます。自家用車を自ら運転しなくても快適な生活を送ることができる未来に期待が高まっています。今の公共交通は、いくつかの課題を抱えています。その課題に対して、自治体・企業は新しい技術や仕組みの導入を目指して、数多くの実証実験の取組を行っています。

都市の規模や交通インフラの違いによって自家用車や公共交通の利便性は異なります。その多様な特徴を踏まえて、自治体や企業による自発的な取組を加速化するため、経済産業省と国土交通省は、令和元年4月に地域と企業の協働による新プロジェクト「スマートモビリティチャレンジ」を開始しました1)

こうしたモビリティサービスのデジタル化に伴う移動の最適化・高付加価値化は、人・モノ・サービスの移動情報が小売・医療・福祉等の異業種のデータ基盤と結びつくことでさらに付加価値の高いサービスにつながる可能性を秘めており、都市全体のデジタル化を進める「スマートシティ」の潮流においても重要な要素となります。そのため、「スマートモビリティチャレンジ」は、内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省を事務局とするスマートシティ官民連携プラットフォームにおいて、スマートシティ関連事業として位置付け、各省庁と連携して進めています。

2.令和元年度の地域支援の取組について

経済産業省と国土交通省は、2019年6月に支援対象地域・事業を選定しました。国土交通省は19の「先行モデル事業」を、経済産業省は13の「パイロット地域」を指定しています。重複を考慮すると、両省で28の地域となります。パイロット地域は、それぞれが抱える課題に対峙する将来構想を企画し、その実現に向けて実証実験を実施しています。ここでは、その取組の一部である群馬県前橋市、滋賀県大津市、福井県永平寺町、北海道上士幌町の内容をご紹介します(図1)。

図1 支援対象地域の取組事例
図1 支援対象地域の取組事例拡大図・テキスト

3.令和2年度のスマートモビリティチャレンジの方向性について

令和元年度の「スマートモビリティチャレンジ」の取組を推進する中で、13のパイロット地域から、以下のような課題を整理しています。

  • 大都市を除いて、多くの地域では旅客を運ぶ公共交通サービスだけでは収益を確保できず、行政からの補助金が必要不可欠になっている
  • 公共交通を担う運転手も高齢化が進行して、年々減少していくことから、ますます確保が困難になる
  • 新しい取組に挑戦する際に、既存の交通事業関係者からの理解を得る必要があり、十分な話し合いが求められている
  • シミュレーション等によって新しいモビリティサービスの導入に向けた分析を行い、その結果を行政の施策と連動させる必要がある

これらの課題を解決するために、令和2年度は地域それぞれの事情に寄り添い、地域特性を十分に見極め、その特性に応じたサービスの開発の支援に重点を置き、次の5点に取組むこととしています(図2)。

図2 令和2年度に向けたスマートモビリティチャレンジのコンセプト
図2 令和2年度に向けたスマートモビリティチャレンジのコンセプト拡大図・テキスト

4.障害福祉・医療の分野における新しい地域MaaS創出の推進について

日本におけるモビリティサービスについては、各地域においてさまざまな分野で取組が行われています。その中の一つとして、障害福祉・医療の分野における新たなモビリティサービスについても関心が高まりつつあり、その取組についても徐々に広がりを見せ始めています。例えば、以下のような事例があります。

福祉MaaS:介護者向けの相乗りサービス

群馬県高崎市のエムダブルエス日高が運営する福祉施設では、介護者向けの相乗りサービスを行っています。デイサービスの送迎バスに設置された自動ルート設定システム「福祉Mover」に、未来シェアのAI相乗りマッチングのシステムSAVS(サブス)を組み合わせることで、要介護・要支援者の移動を支援しています。

また、サービスを提供している福祉施設の利用者が、非通所日にアプリや電話を用いて相乗り送迎バスを予約し、自宅から目的地までを移動することができます。このように介護送迎車の空席を活用し、要介護者及び高齢者の移動手段の確保と移動機会の創出につなげる取組を行っています2)

医療MaaS

長野県伊那市はMONET Technologies株式会社、株式会社フィリップス・ジャパンと協業し、 2019年12月より「モバイルクリニック実証事業」を実施し、医療機器を搭載し、スマホアプリを通した予約、医療従事者との連携によるオンライン診療、クラウドシステムを活用した情報共有などが可能な車両「ヘルスケアモビリティ」を用いた遠隔診療のテスト運行を行っています3)

上記は一例ですが、障害福祉・医療の分野においてもMaaSを活用し、それぞれの地域課題を解決されることで、住民福祉の向上や地域経済の活性化が期待されています。

「スマートモビリティチャレンジ」では、このような課題を解決する新たな地域MaaSの創出を推進していくため、「地域新MaaS創出推進事業」として、先駆的に新しいモビリティサービスの実証実験や事業性分析等に協力いただける先進パイロット地域の公募を4月22日から開始しました4)

本事業では、前述の5つのチャレンジを支援しており、例えば、チャレンジ1(モビリティのマルチタスク化)として、福祉車両を活用した旅客輸送について、福祉有償運送事業者が、交通空白地有償運送制度を活用して旅客運送を行うことにより、交通空白の解消、事業性の向上、旅客の受容性等を検証することや、チャレンジ2(サービスのモビリティ化)として、移動診療車を活用し、最寄りの診療所までの移動が困難な患者の元にオンライン診療機器を搭載した移動診療車が訪問、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に準じてオンライン診療を実施するなどの取組を通じ、患者の受容性や限られた医療リソースでの医療アクセス向上への寄与度を検証することといった障害福祉・医療の分野についてのチャレンジの提案もお待ちしています。

経済産業省は、令和2年度も継続して、地域の意欲的な挑戦を後押ししていくとともに、地域特性や地域課題をより深く理解したうえで、継続的な試行錯誤を通じて検証結果に基づく課題を浮き彫りにし、サービスモデルのブラッシュアップを促すとともに、必要な環境整備が進むよう行政の施策にもフィードバックをしていきます。


【参考】

1)スマートモビリティチャレンジ
https://www.mobilitychallenge.go.jp/

2)エムダブルエス日高プレスリリース、各種報道
https://www.city.mitoyo.lg.jp/gyosei/sogo/4511.html

3)MONET Technologies株式会社プレスリリース
https://www.monet-technologies.com/news/press/2019/20191126_01

4)地域新MaaS創出推進事業の公募について
https://www.meti.go.jp/press/2020/04/20200422003/20200422003.html

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