スマートシティの実現によるまちの課題解決

「新ノーマライゼーション」2020年5月号

国土交通省都市局都市計画課
都市交通係長
山崎明日香(やまざきあすか)

はじめに

経済発展の一方で、環境問題や高齢化など、解決すべき社会問題は複雑化しています。一方で、ICTの普及やビッグデータ、AI、IoT等の技術革新が急速に進展しており、先端技術等をあらゆる産業や社会生活に取り入れた社会のイノベーションを目指していくことが求められています。

こうした認識の下、現在、政府では、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させ、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会「Society5.0」を実現すべく取り組んでおり、スマートシティは、Society5.0の総合的なショーケースとなる中核的な取組として、その推進が求められています。スマートシティの実現を通じて、交通の不便さや災害時の脆弱性といったまちの課題が解決され、安全・安心なまちの実現や、まちにおけるサービスの向上を通じたあらゆる人々のQOLの向上を目指しています。

本稿では、国土交通省におけるスマートシティの推進に向けた取組について紹介します。

「スマートシティの実現に向けて~中間とりまとめ~」について

国土交通省においては、「スマートシティの実現に向けて~中間とりまとめ~」を2018年8月に策定しました。

スマートシティという言葉について、中間とりまとめにおいては、『都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区』と整理しました。スマートシティは、これまでのまちづくりとは異なるものであり、その取組にあたり次のような視点が重要です。

(1)技術オリエンテッドから課題オリエンテッドへ

技術を提供する側からの提案に対し、技術を使う側である自治体がまちづくりにどう活かすのか見えないまま実験を重ね、社会実装に結びつかない場合があります。技術に振り回されるのではなく、課題解決のために技術を使うという発想が重要であり、まちづくりの明確なビジョン、計画を持った上での取組みとすべきです。

(2)個別最適から全体最適へ

各種交通モードを総合的に捉えた政策検討のように、分野ごとに個別に考えるのではなく、分野横断で考え総合的に最適解を見い出すという取組が重要です。そのためには、各分野のデータを共通プラットフォーム上で統合的に管理・分析するなど、主体間の連携・協働とともに、データや技術を連携することが必要です。

(3)公共主体から公民連携へ

まちづくりを担う地方公共団体と、技術等を有する民間事業者、大学等とが、それぞれの強みを活かしながら共同で取り組む体制が重要です。さらに、持続的な取組には、自治体負担に頼るのではなく、収集されるデータを活用してビジネスを成立させることによって収益をあげ、その収益を活用して、情報基盤の維持管理・更新を継続していけるよう、関係者間の利害の調整等を行いながら、取組を推進していくことが求められます。

モデル事業の選定

平成31年3月から4月まで、民間企業、地方公共団体等からなるコンソーシアムを対象にスマートシティモデル事業の公募を実施した結果、73の提案がありました。

提案の中から、有識者の意見を踏まえ、先行モデルプロジェクトと重点事業化促進プロジェクトを選定しました(図)。先行モデルプロジェクト(15事業)は、スマートシティ実証調査予算を活用し、具体的な新しい取組への着手と成果やボトルネック等の分析等を実施するとともに、その共有を図ることにより、全体の取組を牽引するプロジェクトとなるべく支援するものです。また、重点事業化促進プロジェクト(23事業)は、専門家の派遣や計画策定支援等により、早期の事業実施を目指して支援するものです。


図拡大図・テキスト

モデル事業における取組は、モビリティ、防災、インフラ、エネルギー、環境など多岐にわたるものです。例えば、茨城県つくば市においては、顔認証技術を用いたバス乗降や決済サービス、バイタル情報や歩行者信号情報と連動したパーソナルモビリティ等の取組を通じ、あらゆる人が安心・安全・快適に移動できるまちの実現を目指しています。また、北海道札幌市においては、歩数に応じて付与される、公共交通等で使用可能な「健幸ポイント」をインセンティブとして行動変容を促すとともに、移動や健康のビッグデータを取得し、まちづくり・健康サービスに活用することで、健康と賑わいの向上を目指しています。

スマートシティの実装化に向けた課題

スマートシティの実装化に向けては、体制面・資金面等において自律的な取組とすることが非常に重要です。現在の各地の取組状況を踏まえ、実装化を進めるポイントは次の3点であると考えられます。

まず、取組を牽引し、関係者間調整を担う組織・人材が充実していることです。ICT技術だけではなく、経営や行政などさまざまな専門分野間の調整をし、取組を牽引する組織・人材が必要です。例えば、柏市におけるUDCK(柏の葉アーバンデザインセンター)や松山市におけるUDCM(松山アーバンデザインセンター)は、研究機関や民間企業との連携を通じて、プロジェクトを牽引する立場を担っています。

次に、プロジェクトに関する費用、特にランニングコストについて、各主体の便益等に応じ、適切な役割分担、費用負担を確立するとともに、マネタイズの方法論も含め、コンソーシアムにおいて持続的な資金計画のコンセンサスが得られていることです。

最後に、コンソーシアム構成員におけるデータ・導入技術等にかかる協調領域と競争領域との区分が明確化していることです。この際、可能な範囲で協調領域を広く確保し、構成員相互にデータ、導入技術を共有することが必要です。例えば東京都千代田区大丸有エリアでは、構成員が保有する電力使用量や人々の消費活動データ等を共有し、新たなサービスを創出する社会実験を民間イノベーションプラットフォームで検討しています。

国土交通省では、これらの課題を解決しスマートシティの実装を進めるため、モデル事業の推進を通じた成功モデルの創出とともに、その成果に基づくガイドラインの作成などにより、知見の共有を推進していきます。

おわりに

国土交通省としては、関係府省と共同で実施する官民連携プラットフォームの枠組みも活用しながら、モデルプロジェクト等に対する財政面、ノウハウ面の両方からの支援を行い、モデルプロジェクトをはじめスマートシティ関連事業を連携させ、効果的かつ重点的に支援していくことにより、できるだけ早期に成果を得るとともに、それを横展開していくことにより、全国各地でスマートシティが花開くように努めてまいります。


【参考】

1)国土交通省におけるスマートシティの取組
http://www.mlit.go.jp/toshi/tosiko/toshi_tosiko_tk_000040.html

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