東京パラ・選手を支える人-木村選手と一緒にタンデムでゴールを目指す

「新ノーマライゼーション」2020年5月号

楽天ソシオビジネス株式会社
倉林巧和(くらばやしたくと)

群馬県立前橋工業高等学校から日本体育大学へ。同大学大学院卒業後、楽天ソシオビジネス株式会社に入社。全日本学生選手権や国民体育大会で優勝し、トラック中距離日本代表強化指定選手に選出される。2020年東京パラリンピックでは、タンデム自転車のパイロットとしてメダル獲得を目指している。

タンデム自転車と聞いて、2人乗りの自転車を思い浮かべる人はほとんどいないのではないでしょうか。パラリンピックの正式種目であるタンデム自転車では前に乗る選手(晴眼者)をパイロット、後ろに乗る選手(視覚障害者)をストーカーと呼びます。タンデム自転車は前後がチェーンで繋がっていて2つのペダルが同時に動くため、お互いの力が自転車を動かす推進力になります。パラリンピックにはロード競技で2種目(ロードレース、ロードタイムトライアル)、トラック競技で2種目(4kmインディヴィデュアルパーシュート、1kmタイムトライアル)の計4種目があり、ゴール着順やゴールタイムによって勝敗が決まります。

タンデム自転車のパイロットである私は、ストーカーである木村和平選手の目となり安全に走行することを一番に考えています。木村選手は先天性の弱視で、少しずつ視力が低下してきています。日本代表強化指定選手に選出され、2018年アジアパラ競技大会ロードタイムトライアル等で優勝の好成績を収めました。

パイロットの役割は走行進路の選択、立ち漕ぎの合図、ブレーキ、ギヤの変則などがあり、常に周りを見ることが大切です。

初めてレースに出場した際にはすべてが噛み合わず、力を出し切れずに終わってしまいました。特に難しいと感じたことは立ち漕ぎのタイミングです。自転車競技のレースでは立ち漕ぎを使いスピードを上げていきますが、タンデム自転車で立ち漕ぎをする時は前後の選手が同時に立ち漕ぎをするため、息を合わせるために「せーの」と掛け声をかける場合があります。私たちも当初は掛け声をかけていましたが、「せーの」と声をかけてから立ち上がるわずか数秒のずれが他の選手から引き離される原因になり、再度追い付くために力を使っていました。小さな無駄な力が蓄積することで最終順位が変動してしまうのが自転車競技の難しさであると痛感しました。また、レース中に他の海外選手を見ていると掛け声をかけている選手が少ないことに驚きました。

初レースからの反省を活かし帰国後のトレーニングから掛け声をやめ、私が立ち漕ぎをするタイミングで肘を外に開く合図を出しました。木村選手は弱視のため少し動きを大きくすることで認識しています。最初はうまくいきませんでしたがトレーニングを重ねるごとに上達し、今では2人ほぼ同時に立ち上がるまでになり、レースでも無駄な力を使うことがなくなりました。

私と木村選手がペアを組んでもうすぐ3年になりますが、東京パラリンピックで最高のパフォーマンスが発揮できるように、普段からコミュニケーションをしっかり取るようにしています。木村選手は競技中私に命を預けているといっても過言ではありませんので、少しでも不安な気持ちを取り払い、力強くペダルを踏んでほしいです。

現在、私たちは楽天ソシオビジネス株式会社で働きながら競技活動をしています。応援していただいている方のためにも東京パラリンピックではメダル獲得を目指して頑張ります。

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