児童発達支援の現状と課題

「新ノーマライゼーション」2020年6月号

上智社会福祉専門学校 特任教員
大塚晃(おおつかあきら)

はじめに

障害のある子どもの支援がクローズアップされています。平成25年より施行されている障害者差別解消法の見直しにおいても、障害のある女性や障害児等への差別に関する検討が必要であるとされています。このような状況の中、視覚や聴覚に障害のある児童の発達支援の現状と課題について説明します。

1.児童発達支援の背景

わが国は、平成元年に子どもの権利条約を批准しました。子どもの権利条約の中でも子どもに特有な権利とは、子どもは発達途上にある、未成熟な存在であるために特別な保護や援助を必要とする特質があり、原則的・原理的な権利条項として、最善の利益原則、生存・発達の保障、健康・医療への権利、教育への権利等を重要視するものです。今回取り上げる児童発達支援は、従来は療育と呼ばれていたものですが、子どもは発達支援を受けることが権利であることを保障するものです。

また、わが国における障害者権利条約の批准・発効、障害者差別解消法の施行に伴い「障害に基づく差別」を禁止するとともに、また、それぞれの障害児者に「合理的配慮」を提供していく必要があります。障害のある子どもの児童発達支援等における、合理的配慮が大きな課題となっています。

2.児童発達支援の法的位置づけ

平成22年12月の児童福祉法の改正により、従来の障害児施設は、障害児通所支援と障害児入所支援(それぞれ医療型と福祉型がある)となり、平成24年度から施行されています。障害児通所支援では、日常生活における基本的な動作の指導、知識技能の付与、集団生活への適応訓練等を行う児童発達支援センター、授業の終了後または休業日に生活能力の向上のために必要な訓練、社会との交流の促進を行う放課後等デイサービス、保育所等を訪問し、当該施設における障害児以外の児童との集団生活への適応のための専門的な支援を行う保育等訪問支援などが新たな児童福祉サービとして児童福祉法に位置づけられました。

その後、児童発達支援事業や放課後等デイサービス事業は、右肩上がりで事業者数、利用者数も増加し、それに伴い提供するサービスの質に課題があることが指摘されました。それを受けて放課後等デイサービスガイドラインが平成27年4月に、続いて、児童発達支援ガイドラインが平成29年7月に国から発出されました。

3.視覚・聴覚障害児支援の療育について

視覚・聴覚障害児の教育は、日本の障害児教育における先駆的役割を果たしてきました。1878年に京都盲唖院が設立され、日本における障害児教育が誕生しました。教育分野においては、盲学校(現在の特別支援学校)等において、視覚害児の教育内容・支援が確立してきました。戦後の児童福祉法において障害児の支援は「知的障害児通園施設」「肢体不自由児通園施設」「難聴幼児通園施設」の3つが規定されましたが、視覚障害児の具体的な支援策は規定されませんでした。障害者自立支援法が改正され、通園施設は障害種別の枠が取り払われましたが、これまでの歴史的背景も含め福祉の分野からは専門的な支援は曖昧になりました。一方、そのような状況の中でも、視覚や聴覚障害を主として対象とした、児童発達支援や放課後デイサービスの支援が全国で行われています。

4.「児童発達支援ガイドライン」と視覚障害児・聴覚障害児

「児童発達支援ガイドライン」は、児童発達支援について、障害のある子ども等に質の高い発達支援を提供するため、児童発達支援事業における児童発達支援の内容や運営及びこれに関連する事項を定めたものです。具体的支援内容は、

(1)発達支援

ア 本人への発達支援については、1.健康・生活、2.運動・感覚、3.認知・行動、4.言語・コミュニケーション、5.人間関係・社会性の5領域で行う。

イ 保育所等への積極的な移行支援を行う。

(2)さまざまな家族支援を行う。

(3)地域支援により、子どもが地域で生活していける体制整備を行う。

これにより、児童発達支援センター・事業所が提供すべき具体的なサービスとして、発達支援、家族支援、地域支援が規定されました。また、これら支援は、児童発達支援計画に必要な支援内容を設定するものであり、「根拠に基づいた実践」となりました。

運動・感覚の領域においては、視覚・聴覚障害児については、保有する感覚(視覚、聴覚、触覚等)を十分に活用できるよう、遊び等を通して支援する。保有する感覚器官を用いて状況を把握しやすくするよう眼鏡や補聴器等の各種の補助機器を活用できるよう支援する。

認知・行動の領域においては、視覚、聴覚、触覚等の感覚を十分活用して、必要な情報を収集して認知機能の発達を促す支援を行う。環境から情報を取得し、そこから必要なメッセージを選択し、行動につなげるという一連の認知過程の発達を支援する。

言語・コミュニケーション領域においては、言語の受容及び表出、コミュニケーションの基礎的能力の向上、コミュニケーション手段の選択と活用を支援する。支援内容として、具体的な事物や体験と言葉の意味を結びつける等により、体系的な言語の習得、自発的な発声を促す支援をする。話し言葉や各種の文字・記号等を用いて、相手の意図を理解したり、自分の考えを伝えたりするなど、言語を受容し表出する支援を行う。個々に配慮された場面における人との相互作用を通して、共同注意の獲得等を含めたコミュニケーション能力の向上のための支援を行う。指差し、身振り、サイン等を用いて、環境の理解と意思の伝達ができるよう支援する。各種の文字・記号、絵カード、機器等のコミュニケーション手段を適切に選択、活用し、環境の理解と意思の伝達が円滑にできるよう支援する。手話、点字、音声、文字、触覚、平易な表現等による多様なコミュニケーション手段を活用し、環境の理解と意思の伝達ができるよう支援するとされています。

児童発達支援センター・事業所から保育所等への移行の支援として、視覚に障害のある子どもに対しては、聴覚、触覚及び保有する視覚等を十分に活用しながら、さまざまな体験を通して身近な物の存在を知り、興味・関心や意欲を育てていくことが必要であること。また、ボディイメージを育て、身の回りの具体的な事物・事象や動作と言葉とを結び付けて基礎的な概念の形成を図るようにすることが必要であること。聴覚に障害のある子どもに対しては、保有する聴覚や視覚的な情報等を十分に活用して言葉の習得と概念の形成を図る指導を進める必要があること。また、言葉を用いて人との関わりを深めたり、日常生活に必要な知識を広げたりする態度や習慣を育てる必要があることとされています。

「児童発達支援ガイドライン」の概要拡大図・テキスト

さいごに

障害のある児童については、乳児期、学齢期、成人期というライフステージに応じて、医療、保健、福祉、教育及び労働などの関係機関が連携して支援することが求められています。これまでも各地域の取り組みでは、障害児施設の療育の内容が学校に伝わらず、障害児本人が困難に直面する例がありました。このように、保育所から学校へ、学校から働く場へなどの移行期の支援を連携によりスムーズなものとするよう、情報を共有して支援していく「多職種協働(interdisciplinary)」というアプローチがますます重要になってくるでしょう。

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