視覚障害や聴覚障害のある幼児児童生徒の教育

「新ノーマライゼーション」2020年6月号

文部科学省初等中等教育局特別支援教育課
特別支援教育調査官
庄司美千代(しょうじみちよ)

本稿では、視覚障害や聴覚障害のある子供の幼稚園から高等学校段階までの教育、すなわち初等中等教育の概要について紹介します。

1.視覚障害や聴覚障害のある子供の学びの場

視覚障害や聴覚障害のある子供は、特別支援学校や小中学校に置かれた特別支援学級に在籍していたり、通常の学級に在籍しながら障害に応じた特別の指導を通級による指導の教室で受けていたりするなど、多様な学びの場で学習しています。

特別支援学校の対象となる障害の状態等については、次のように示されています。

特別支援学校(視覚障害)の対象

両眼の視力がおおむね0.3未満のもの又は視力以外の視機能障害が高度のもののうち、拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が不可能又は著しく困難な程度のもの。(学校教育法施行令第22条の3)

特別支援学校(聴覚障害)の対象

両耳の聴力レベルがおおむね60デシベル以上のもののうち、補聴器等の使用によっても通常の話声を解することが不可能又は著しく困難な程度のもの。(学校教育法施行令第22条の3)

平成25年に就学制度が改正されました。上記に示した一定程度の障害のある児童生徒の就学先決定について、従前、特別支援学校への就学を原則とし、例外的に小中学校への就学を可能としていた仕組みを、市町村教育委員会が、個々の障害の状態等を踏まえ、総合的な観点から就学先を決定する仕組みに改め、その際、本人・保護者の意向を可能な限り尊重することとしました。

令和元年5月現在、特別支援学校(視覚障害)は82校で5,083名が在籍、特別支援学校(聴覚障害)は118校で8,175名の在籍者数となっています。

また、小中学校に置かれた特別支援学級(弱視)は537学級で627名が在籍、特別支援学級(難聴)は1,294学級で1,893名が在籍しています。通級による指導を受けている児童生徒は、弱視の通級指導教室では約200名、難聴では約2,200名が指導を受けています。

なお、特別支援学級や通級による指導の対象となる障害の状態等については、平成25年10月4日付け25文科初第756号初等中等教育局長通知で示しており、以下の資料からご覧になれます。

「教育支援資料~障害のある子供の就学手続と早期からの一貫した支援の充実~」平成25年10月文部科学省初等中等教育局特別支援教育課
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1340250.htm(文部科学省HPに掲載)

※平成19年度から特別支援教育制度に移行し、複数の障害を併せ有する子供については、それぞれの障害種に集計をしているため、ここでの在籍者数は、盲学校や聾学校の在籍者数の合計と一致していません。

2.学校教育の目標と内容

(1)特別支援学校の教育の目的と目標

特別支援学校の教育の目的は、学校教育法に定められています。

学校教育法 第八章 特別支援教育

第七十二条 特別支援学校は、視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。以下同じ。)に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施す1とともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授ける2ことを目的とする。

※下線と1、2は筆者が付したもの

下線1の「準ずる教育」というのは、例えば、特別支援学校の小学部であれば、小学校における教育と同一の目標や内容の教育を施すことです。したがって、特別支援学校の小学部では、小学校と同様に各教科等の学習を行っています。

下線2は、特別支援学校に設けられた目的です。これを踏まえ、特別支援学校には、「自立活動」という特別の指導の領域が設けられています。

このような教育の目的を踏まえ、特別支援学校では、図1のような教育課程(カリキュラム)を編成しています。また、子供の障害の状態等により特に必要がある場合、特別な教育課程を編成することができるようになっています。文部科学省では、各学校が作成する教育課程の基準となる特別支援学校学習指導要領を公示しています。

図1 特別支援学校のカリキュラムのイメージ
図1 特別支援学校のカリキュラムのイメージ拡大図・テキスト

(2)特別支援学校の教育の内容

1.各教科等の指導

国語や社会など、各教科の目標と内容は、小学校等と同一ですが、子供が学習内容を理解し必要な技能を身に付けたり、豊かな思考力や判断力、学びに向かう意欲や態度を身に付けたりするためには、個々の子供の障害の状態や特性及び心身の発達の段階等を十分考慮して指導することが求められます。

このため、特別支援学校学習指導要領では、各教科の指導の配慮事項を障害種別に示しています。紙面の都合上、小・中学部の配慮事項の観点を紹介します。

〔視覚障害〕

1 的確な概念形成と言葉の活用
2 点字等の読み書きの指導
3 指導内容の精選等
4 コンピュータ等の情報機器や教材等の活用
5 見通しをもった学習活動の展開

〔聴覚障害〕

1 学習の基盤となる言語概念の形成と思考力の育成
2 読書に親しみ書いて表現する態度の育成
3 言葉等による意思の相互伝達
4 保有する聴覚の活用
5 指導内容の精選等
6 教材・教具やコンピュータ等の活用

また、子供の障害の状態等は、さまざまであることから、各教科等の指導においても個別の指導計画の作成が義務付けられています。

高等部も高等学校と同様の教科・科目等を学習していますが、特別支援学校(視覚障害)では、高等部本科で保健理療を、高等部専攻科では保健理療、理療、理学療法の教科を設けることができます。特別支援学校(聴覚障害)では、高等部本科で印刷、理容・美容、クリーニングを、高等部専攻科で理容・美容、歯科技工の教科を設けることができます。

2.自立活動の指導

自立活動の指導は、個々の子供が自立を目指し、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識、技能、態度及び習慣を養い、もって心身の調和的発達の基盤を培うことを目標としています。

自立活動の内容は6区分27項目を示していますが、個々の子供の障害の状態や特性及び心身の発達の段階等を踏まえ、個別の指導計画を作成し、具体的な指導目標と指導内容を設定して指導することとなっています。各教科の指導ではあらかじめ決められた内容を教科書などを使って教えますが、自立活動の指導はその子供のための指導を教師が具体的に作っていくところに大きな特徴があります。文部科学省が作成した自立活動の指導に関する解説書では、視覚障害のある小学部児童、聴覚障害のある高等部生徒、幼稚部幼児、盲ろうの中学部生徒について、実態把握から具体的な指導内容を設定するまでの例をそれぞれ示しています。

3.特別支援学校のセンター的機能

特別支援学校では、在籍する子供の指導に加え、地域の視覚障害教育又は聴覚障害教育のセンターとして早期からの教育相談、学校関係者への支援などを行っています。特に、視覚障害教育や聴覚障害教育においては、従前から早期発見・早期教育の重要性を踏まえ、0歳からの教育相談活動などを行ってきました。このような取組の意義を踏まえ、平成18年の学校教育法一部改正により特別支援学校のセンター的機能が明確に位置付けられました。

文部科学省が平成27年に全国の特別支援学校を対象として調査した結果のうち、子供及び保護者からの相談件数を表1に示しています

表1 子供及び保護者からの相談件数(延べ件数)

  相談件数 乳児
(0~2歳)
幼児
(3~5歳)
小学生 中学生
高校生
その他※
国立 1,673 67 771 509 267 59
(4.0%) 46.1% 30.4% 16.0% 3.5%
公立 133,007 34,759 34,910 32,798 22,494 8,046
26.1% 26.2% 24.7% 17.0% 6.0%
私立 157 56 37 24 31 9
35.7% 23.6% 15.3% 19.7% 5.7%

※その他は、他の特別支援学校や卒業生など

子供や保護者からの相談は、合計134,837件となっており、このうち、0歳から5歳までの就学前乳幼児の相談は全体の5割以上を占めています。

相談内容としては、「就学や転学に係る相談・助言」「子供との接し方に係る相談・助言」「障害の状況等に係る実態把握・評価等」が主なものとして挙げられています。

また、視覚障害や聴覚障害のある子供を担任している教師や学校に対する公開講座や相談・支援、医療・保健・福祉等の関係機関との連携など、地域や学校の実情に応じた活動に尽力いただいています。

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