視覚障害のある子どもの就学前の支援と教育~取り組みの現状と課題~

「新ノーマライゼーション」2020年6月号

宮城教育大学 名誉教授
猪平眞理(いのひらまり)

1.早期支援の現状

見えない、見えにくいという視覚に障害のある子どもの就学前の支援や教育は全国では主として各都道府県の視覚特別支援学校(盲学校等を含む、以下視覚支援校と略)が担っています。幼児の主要な教育指導は視覚支援校の幼稚部や幼児教室で行われていますが、さらに各校で0歳からの乳幼児の養育相談や指導等の早期の支援活動も取り組まれています。

視覚障害は対象とする子どもが非常に少ない障害種別です。乳幼児期の支援では他の障害児の場合には身近な地域に福祉や医療機関に通園等の支援施設がありますが、視覚障害児の専門的支援を行う施設は全国にもごくわずかです。また、発達支援センターなどの相談機関でも視覚障害への専門的な相談には対応されにくい状況があります。

文科省基本調査では特別支援学校の全体の総在籍数は2019年度14万4,000人と増加が著しい中、視覚支援校の在籍数はそのうちの2,700人ほど、視覚障害はますます少数の障害種別となっています。

視覚支援校は全国の65校で就学前の乳幼児の支援や教育が行われています。しかし視覚支援校は47都道府県のうち37府県ではただ1校の存在で、視覚障害の専門的支援を受けるためには、遠隔地から通うこととなり、幼子を連れた親子の負担は多大なものです。

早期の相談支援や幼児の教育指導を受ける子どもたちには視覚の疾患だけでなく、知的な遅れや肢体不自由等の障害のある重複障害児も多く、幼稚部在籍児では7割にも達し、育児学級等に通う0~2歳児の比率はさらに高い状況です。

一方、全国的に視覚に障害のある子どもの一般の保育園、幼稚園の受け入れが増えており、また重複障害児は療育機関等の支援も必要であるため、視覚支援校と双方への並行通園の増加が顕著です。

2.乳幼児期の支援・指導の取り組み

人は外界の情報を五感から取り入れていますが、80%以上は視覚から得るという視覚優位の生活を送っています。

図1は視覚に障害がある場合に子どもの発達に及ぼす影響を表した概略図です

図1 視覚障害が子どもの発達に及ぼす影響
図1 視覚障害が子どもの発達に及ぼす影響拡大図・テキスト

子どもに見えない、見えにくい状況があると、事物の視覚的概念やイメージ、空間情報に不足をきたします。それは身辺の様子を即座に把握することが困難となり、運動や行動に制限を生じさせます。また見よう見まねという視覚的模倣の難しさを伴い、これらの要因は単独にあるいは相乗して学びに制約を受けるというものです。

ここでは乳幼児期の視覚障害の特性に対応する配慮や支援の内容を、根幹となる項目を挙げて概説します。

保護者支援

保護者は我が子の視覚の障害によって心を大きく動揺し、疾患の治療なども加わって養育の不安を増大させます。視覚からの情報の不足で人や物、環境への自発的な興味をもちにくい子どもは、共にかかわり、楽しんでくれる人とともに外界への関心を広げます。保護者には安心感が得られ、子どもに明るい声かけや温かい積極的なふれあいができることを必要とします。

同じ障害の子どもをもつ保護者相互の交流は他にはない支え合う力になるため、出会いの少ない視覚障害児の保護者の集いは支援活動の大事な取り組みとなっています。

運動能力の向上・身体づくり

視覚に障害のある子どもは自らの身の安全の確認が難しく、身体の動きや動作に誘われる運動のきっかけが持ちにくくなります。そのため身近な生活の場での安全で安心のできる環境づくりをし、自ら楽しんで跳んだりはねたり身体を動かせるようにして身体の発達を誘います。大人や子ども同士と絡み合い転げ回るような身体全体で触れあう動きが捉えやすく、遊具の利用も運動意欲を高めます。

また、音楽リズムは物事の理解や動作を促進する働きもあり、身体の動きと組み合わせることで、動きのイメージを描きやすくし、運動に楽しく能動的に取り組める手段となります。

生活動作の学び、身辺の自立

幼児期は多くの生活の基本的な所作動作を身近な人々の姿を見ることで習得していきます。

見えない子どものための動作の示し方には同じ方向からの共同動作で、例えばスプーンの使い方では大人は後方の同じ向きから、スプーンを持つ自分の手の上に子どもの手を乗せ、手の動き全体から感じとらせる過程が大事です。一方、見えにくい子どもには、動作を間近でしっかり見せることに努めていきます。補助をする時には事前の声かけをしながら、さまざまな場で具体的体験としての学びができるように配慮します。

触知覚の活用

盲児は「手で観る」という手段を活用します。弱視児にも見えにくさを補うための手立てとなります。触覚による情報収集はものに手指を置くだけではなく、手を伸ばし触れた指先や手のひらを意識的に動かして得られるものです。この触知覚を活用するには子どもの探索意欲が不可欠で、知りたい、確かめたいという気持ちの育成を心がけます。そして十分な時間的ゆとりをもち、子どもが両手で丁寧に触われるようにしたり、言葉の解説を添えたりすることなどに配慮していきます。

弱視幼児の視覚機能の促進

視覚は視機能の感受性が高い乳幼児期に事物の鮮明な映像を見ることによって発達していきます。弱視児の見え方には大きな個人差がありますが、早期から眼を意識的に使えるような支援が必要です。そのためには色調が明瞭な玩具や遊具の選択、肉太の輪郭線や大きめの図柄、文字で表された絵本の提示など見やすい環境づくり等によって見る意欲を高め、間近でじっくり見る態度を育てます。併せて目と手の協応する力を養うことも大切です。

3.今後の支援の拡充に向けて

視覚障害児の早期の支援活動には課題は多数あるのですが、今後の拡充のための提言を2つに絞って記したいと思います。

一つはアウトリーチ(外部支援)の拡大です。支援のスタートともなる活動の一つに医療機関で行われる院内相談があります。視覚支援校と連携し担当者が出張して受け持つ相談で、病院の診療に付随して実施されるものです。すでに長い実績を積んでいる地域があります。また、乳幼児の個々の家庭に出向く保健師訪問への同行などの訪問支援に強い要望もあります。どちらも保護者が最も不安な時期の支援となります。

一方、共生社会の構築や共働き家庭の増加が進む中、地域の保育園、幼稚園に在園する視覚障害児は今後も増える傾向にあり、保育機関への訪問相談は定期的な巡回相談として力を注がねばなりません。さらに重複する障害のある子どもが通う療育や通園施設とも交流を深める必要があります。

地域によっては視覚支援校のサテライト会場で乳幼児支援が行われるところもあります。これからはオンライン相談によるリモート支援も広がることと思います。支援を届ける形となるアウトリーチは、早期支援の要となる取り組みともいえます。

二つ目は早期支援の指導体制の充実です。視覚支援校で就学前の支援や指導の適切な活動が行われるには、視覚障害のある乳幼児への専門的指導力のある教員の配置と支援の場の確保が必須の条件整備となります。しかし、視覚支援校に支援や指導の核となる幼稚部の設置がない県がいまだに9つもあるように、視覚障害のある乳幼児の支援体制には脆弱さがみられます。

視覚障害児の支援の場は対象児の少なさのために限られ、通学の困難さがあるにもかかわらず視覚支援校の幼児教育の仕組みは在籍児数が基準となるなど、当事者のニーズに沿わないものとなっています。視覚支援校のより良い指導体制の充実には、特性に適合する施策の改善が望まれるところです。


【文献】

猪平眞理編著『視覚に障害のある乳幼児の育ちを支える』慶應義塾大学出版会2018年.p.20

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