東京パラ・選手を支える人-選手の「眼」となって変化し続けているプレー状況を素早く的確に伝える~ブラインドサッカー®は究極のコミュニケーションゲーム~

「新ノーマライゼーション」2020年6月号

ブラインドサッカー男子日本代表チーム コーチ
中川英治(なかがわえいじ)

昭和49年、北海道生まれ。ブラインドサッカー日本代表コーチ・ガイド、クーバー・コーチング・ジャパン所属。スクールコーチ時代に数々のJリーガーを育成。平成27年、ブラインドサッカー日本代表コーチ・ガイドに就任。

東京2020パラリンピックの正式種目である、5人制サッカー(Football 5-a-side)は、ブラインドサッカーとも呼ばれています。

ルールはフットサルをもとに考案されており、縦40mのサイドラインにはサイドフェンス(壁)が設置されボールがラインアウトしないように工夫されているなど、視覚に障がいをもった選手でもプレーができるようにデザインされています。1チームはゴールキーパーを含む、5人の選手で構成され、フィールドプレーヤーの4人がB1クラスの全盲の視覚障がい者の選手です。

縦40mのフィールドを3分割し、それぞれのゾーンをゴールキーパー、監督(センターガイド)、そして、ガイド(コーラー)がそのゾーン内のフィールドプレーヤーへ指示を送ることができます。視覚障がいのある選手と晴眼者もしくは弱視者のゴールキーパー、監督、ガイドが、コミュニケーションを取りながら、意思の疎通を図り、共に協力し合いながらプレーをする競技です。

この究極のコミュニケーションゲームは、5人制サッカーという競技名となっていますが、私は選手5人と監督(センターガイド)、ガイドの7人でプレーをする、7人制サッカーだと考えています。

ブラインドサッカーのプレーのプロセスを「認知→予測→判断→決断→実行→記憶」のサイクルとした時に、私の務めるガイドという役割は、選手がプレーの実行をするまでのプロセスの手助けをすることです。プレーを実行するためには、感覚器でプレー状況の情報を収集し、把握(認知)することが前提となります。しかしながら、人間が情報収集するのに87%は目から得る視覚情報だといわれています。視覚に障がいのある選手たちは、視覚の次に情報収集率の高い聴覚を主に用いてプレー状況の認知をすることとなります。ボールや自分、味方選手、相手選手の位置情報やスペースの有無など、プレー状況が刻一刻と変化し続ける競技特性のため、視覚以外の聴覚や触覚などでどこまで認知レベルを上げることができるのかが、パフォーマンス発揮のために重要となります。そのためプレー中は、私はガイドとして、選手の「眼」となり、スピーディーに変化し続けていくプレー状況を素早く認知できるように言語情報を音声情報(聴覚情報)で選手たちに与えていく役割を担っています。プレー中はガイドから発信された言語情報の量が多すぎたり、分かりづらかったりすると、当然、情報を受信するのにも処理するにも時間を要してしまい、ガイドからの情報発信時と選手のプレー実行時にタイムラグが生まれ、プレー状況がさらに変化していることで判断や決断のミスが発生することや、情報処理に時間がかかることでプレー実行までのスピードが遅くなることもあり得ます。

視覚障がい者の競技であるブラインドサッカーですが、このように晴眼者もプレーにおいて非常に重要な役割を担う競技特性から、日本ブラインドサッカー協会がビジョンに掲げる、「ブラインドサッカーを通じて視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会を実現する」ということをまさに体現している競技です。

東京2020パラリンピックでは、選手たちが100%のパフォーマンスを発揮し、この大舞台で輝けるよう、選手たちの「眼」となり、選手たちと共に闘っていきます。

応援よろしくお願いいたします。

menu