「みんなが役割を持ち、喜びを持って、いきいきと働く」ということ!

「新ノーマライゼーション」2020年7月号

全国社会就労センター協議会 副会長
叶義文(かのうよしふみ)

人は「働く」ことにより、自分の役割(責任)を持ち、活躍の舞台が与えられることにより、自己実現・やりがいにもつながります。また、「働く」ことにより、他者とのつながり、他者から必要とされるだけでなく、社会貢献にもつながります。一方、生活のための収入を得るために働くという人も多いでしょう。いずれにしても、働くことによって人は多くのことを学ぶことになります。働くことを希望する重い障害がある人にとっても「働く場」が保障されるということはとても重要なことです。

現在、わが国おいても障害のある人たちの働く場はさまざまです。

(1)民間企業・行政機関

(2)特例子会社

※特例子会社とは、親会社の実雇用率に参入できる障害者雇用に特別の配慮をした子会社

(3)就労継続支援A型事業所(以下、A型事業所)

※必要な公的支援のもとでの働く場(雇用契約が前提、原則最低賃金以上の賃金支給)

(4)就労継続支援B型事業所(以下、B型事業所)

※必要な公的支援のもとでの働く場(雇用契約はなし、工賃支給)

(5)就労移行支援事業所

※一般就労に向けた支援を行う場

(6)生活介護(活動内容として生産活動を行っている場)

※日常的に介護が必要な人に介護を行うとともに、生産活動の機会を提供している場

(7)その他

2019年の働く人数の実績(全国)としては、1.特例子会社が約3万7,000人(517社)、2.A型事業所が約7万1,000人、3.B型事業所が約26万5,000人、4.就労移行支援事業所の利用が約3万4,000人となっていて、B型事業所が最も多くなっています。また、2018年度の全国の賃金・工賃の実績では、A型事業所の平均賃金は月7万6,887円、B型事業所の平均工賃は月1万6,118円となっていて、まだまだ低い水準となっています。

さて、私は全国社会就労センター協議会(通称:セルプ協)に所属し活動しています。セルプ協とは、1977年に全国の障害者の働く施設(旧法授産施設)の関係者が大同団結して結成された組織で、約1,400の施設・事業所がセルプ協に加入しています。セルプ協は各都道府県に設置され、就労支援、生活支援などのサービスを提供し、利用者の「働く・くらす」を支援しています。そのセルプ協が大切にしていることとして、次のことがあります。

一つは、一般就労を希望する人への就職に向けた支援・就職後の定着に向けた支援です。もう一つは、福祉的就労の充実です。それは、さまざまな理由により一般就労が難しい人たちに、働く場を提供し、働く喜びを持って、いきいきと働くことができるように支援することです。また、その人が年金と合わせて地域で経済的にも自立して暮らしていくことができるような工賃水準を目指していくことです。具体的には最低でも最低賃金の1/3以上の工賃支給を目指すことが目標です。

1999年、ILO(国際労働機関)総会において提唱された言葉として「ディーセント・ワーク」という言葉があります。「ディーセント・ワーク」とは、「働きがいのある人間らしい仕事」のことです。それは、生活の安定も含めて、人間としての尊厳を保てる生産的な仕事です。ILOはすべての人にこの「ディーセント・ワークの実現」を目指しています。2007年12月には国連の事務総長が、「ディーセント・ワーク」を障害者の分野でもっと実践するようにとも提唱しています。障害のある人たちは、さまざまな場で働いていますが、そのさまざまな場での働きの中で、この尊厳のある労働・人間らしい労働・生活の安定も含めた「ディーセント・ワークの推進」が求められているのです。

私が所属している法人(社会福祉法人キリスト者奉仕会)においても、就労移行支援事業、就労定着支援、A型・B型事業所、生活介護等に取り組んでいます。就労移行支援と就労定着支援では、企業等への就職を希望する障害のある方々へ、ハローワークや関係機関と連携しながら就職に向けた支援・就労後の定着支援等を行います。

B型事業所・生活介護(生産活動あり)の事業に取り組む「大牟田恵愛園」では、クリーニング作業を行っています。障害のある人たちが、病院や老人施設等の看護衣、病衣、私物、タオル、おしぼり等のクリーニングの仕事に取り組んでいます。そこでのB型事業所の平均工賃が約4万5,000円、みんながいきいきと働き、年金と合わせて地域生活が可能となる水準を目指して取り組んでいます。

また、もう一つの事業所「たんぽぽ」では、就労継続の場としてA型・B型事業に取り組んでいます。仕事の内容は、弁当事業やレストラン事業等です。1日約450個の弁当を作り、学校、市役所、企業、個人等に配達しています。また、「たんぽぽ」は病院の食堂を任せられて1日平均70食の昼食を病院食堂にて提供しています。「たんぽぽ」のA型事業所では月約10万3,000円の賃金、B型事業所では月約3万7,000円の工賃を支給しています。

そこで働く障害のある方々からはさまざまな声があります。例えば「体力的には落ちてきているが、仕事をすることは好きなので、今後もクリーニングの仕事を続けたい」「クリーニングの仕事は夏場は暑く、きつい時もあるけど、みんなと一緒に働けるのが楽しい!」「今、グループホームで生活をしているが、月3万円の工賃と障害基礎年金6万5,000円で合わせて1か月の収入は9万5,000円程度。グループホームの家賃、食費、光熱水費等の必要経費を引いたらあまり残らないが、何とか生活している。希望としてはもう少し工賃が上がればさらに生活が楽になると思う」などさまざまです。そのような中、「大牟田恵愛園」でも「たんぽぽ」でもほとんどの方々が継続して働き続けたいという希望を持たれています。やはり、自分の役割があり、働く場があることはその人にとってとても重要なのだということを改めて考えさせられます。さらに、仕事が楽しいと感じれるということはすばらしいことで、働く一人ひとりにとって楽しく、やりがいがあり、いきいきと働ける場であってほしいと願っています。

2006年12月に国連総会において「障害者権利条約」が採択されました。その条約の27条「労働及び雇用」には、「障害者が他の者と平等に労働についての権利を有すること」が謳(うた)われています。さらに、あらゆる形態の雇用に係るすべての事項(募集、採用及び雇用の条件、雇用の継続、昇進並びに安全かつ健康的な作業条件を含む)に関し、障害に基づく差別を禁止することが謳われています。

障害者の就労を考える時、「他の者との平等の権利」という点で言えば、まだまだ解決すべき課題は多く残されています。しかし、自分の役割を持ち、いきいきと働く場があることが重要であることは言うまでもありません。特に、重度障害があっても「働く」ことを希望する人たちに、まずは「働く場」が保障されることは極めて重要です。

昨今、障害のある人への就労支援のあり方についてはさまざまな議論がある中、大切なことは、働く場がしっかりと確保されること、さらに、そこでいきいきと働くことができ、その働きによりみんなと同じように地域社会で暮らすことができること。このことが実現されることがとても重要だと思っています。

各地では障害者就労支援のすばらしい実践がなされてきています。それらの実践から学び、障害があっても、みんながいきいきと働ける取り組みがますます充実していくことを願います。

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