地域の農産物を活かした商品づくり~企業と連携した仕事の広がりとやりがい~

「新ノーマライゼーション」2020年7月号

社会福祉法人さつき会 統括管理者
上田浩司(うえだひろし)

社会福祉法人さつき会は、福岡県宗像市で障がい者の支援を行っています。宗像市は、福岡都市圏のベッドタウンとして栄えてきた市で、海も山もある自然豊かな場所です。その宗像市に当法人が運営する「玄海はまゆう学園」(以下、当施設)はあります。当施設の畑で、芋を育てて焼酎にするという取り組みに挑戦しました。

最初のきっかけは、福岡県が障がい者の工賃アップを目的に、専門家を派遣し、今行っている作業を発展させていく事業に参加したことでした。当施設は、社会福祉法人稲築福祉会の「誠心園」(嘉麻市)と共に農業を通じた工賃アップに取り組むことになりました。最初は農業の技術指導や販路開拓の支援なのかと思いましたが、2施設で育てた芋を、小林酒造本店に納め、焼酎を造り、その焼酎を販売することになりました。それに向けて、派遣された中小企業診断士と県職員、酒造会社で打ち合わせを重ねていきました。

当施設は日中、生活介護の事業を行っている入所施設で、それまでもサツマイモは育てていましたが、施設のみんなでレクリエーションとして芋掘りをして焼き芋にして食べる程度でした。それが焼酎を造ることになり、初年度はサツマイモを800kg生産しました。農薬も使わず育てるので、暑い中草取りをしたり、虫を取り除いたり、これまでよりも作付け面積が広いので、初年度は大変苦労しながら収穫しました。

収穫後は酒造会社に納品し、今度はその工場でサツマイモを洗ったり、切ったりする、仕込みの作業も行いました。普段施設の中でしか仕事をしていない利用者が工場で働けるというのは新鮮な体験で、利用者の新しい仕事にもなりました。

仕込んだ焼酎は数か月後本格芋焼酎「自立」として完成しました。福祉施設としては珍しく、酒販の免許も取得し、自ら販売を行いました。県産品の販売会やショッピングモールでの販売会にも参加し、初年度は1か月ほどで完売しました。翌年から生産販売を続け、今は3種類の焼酎「自立」「赤浜姫」「黒浜姫」を造り、10年続いています。

この焼酎造りにより、単なるサツマイモ作りがお金を稼げる仕事になりました。しっかりサツマイモを育てたら、それを酒造会社が買い取ってくれます。そして、サツマイモを納品したら仕込みをお願いしている酒造会社で、自分たちが育てたサツマイモを洗ったり切ったりする仕事がもらえます。また、酒造会社が忙しい時期に、他の銘柄の焼酎の仕事までさせてもらえることになりました。そして、焼酎が出来上がったら、それを仕入れて販売することで利益が出ます。

自分たちで育てたサツマイモをもとに、そのサツマイモの買取による売り上げ、仕込みの作業工賃、販売利益と三段階で稼ぐことができ、利用者に配分することができました。

この取り組みは、県の力を借りて、サツマイモ作りをしっかりした事業にする仕組みづくり、さらに言うと、企業と連携して工賃アップができるという、新たなモデルを構築できたのが非常に価値があるものだと感じています。おかげさまで、その後もお酒造りの事業を継続するとともに、いろいろな取り組みに派生していきました。

利用者だけでなく、この事業に関わった施設職員も、この取り組みの良さを感じています。800kgから始めたサツマイモ作りは、最盛期は2tものサツマイモを生産するようになりました。確かにサツマイモ作りは大変ですが、それで得られるものは大きいと思います。

当時これに関わった利用者は、出来上がった焼酎をお客さんが飲んで喜んでくれるのがうれしいと話していました。また、今までもらったことがなかった工賃をもらえて、お母さんが喜んでくれるのがうれしいとも話していました。工賃が出ることで、みんなで外食に行ったり、好きなものを買いに出かけるという楽しみも増えました。

その数年後、この焼酎造りのモデルが当法人のB型事業所「はまゆうワークセンター」へと派生していきます。宗像市は農業の盛んな地域ですが、人手不足で収穫する人がいない温州みかんの木がありました。それを収穫、出荷、販売して、その収益を農家の方と折半するという取り組みに挑戦しました。地元の道の駅はお客さんが多く、九州で一番の売り上げを誇り、魚介類や農産物などさまざまな品物が並び、飛ぶように売れていました。そこで販売すれば大丈夫だろうと簡単に考えていました。ところが実際に販売すると上手くいきません。農産物直売所は買う側からすると地産地消で新鮮な農産品が安く手に入ります。逆に生産者側からすると同じような品物が同じ時期に大量に集まるので、値段が非常に安くなってしまいます。これではせっかくみんなで頑張って収穫したのに工賃アップにつながりません。しかし値段を安くしないと売れず、みかんは長く持たないので腐ってしまいます。

この状況をどうにかしないといけない時に、焼酎を造ってもらった小林酒造本店を思い出しました。みかんをお酒にできないかと工場長に連絡したら、絞った状態で冷凍して工場に出荷すれば、みかんのお酒にできるとのことでした。さっそくみんなでみかん絞りの作業を始めました。普段から漬物等食品系の仕事をやっていたので、割とスムーズに取り組むことができました。1週間かけて100リットルもの果汁を生産し、その後見事にみかんのお酒「はま姫」が完成しました。飲食店にも置いていただき、今もみかんのお酒は製造販売を続けています。

その後も甘夏を加工して有名洋菓子店とのコラボ商品を作ったり、宗像市から、離島にある甘夏を使った特産品開発の委託を受けて、ドレッシングを製造したりしました。こういった商品が道の駅でヒットし、ドレッシングをはじめ、焼酎やみかんのお酒が宗像市のふるさと納税の返礼品としても採用され、市のふるさと納税額の向上に貢献しました。

サツマイモからの焼酎造り、みかんのお酒やドレッシング作りと、さまざまな取り組みを通し、施設が企業と連携する大切さを実感しました。施設でできることは限られていますが、酒造会社と連携することで芋作りに付加価値が生まれ、洋菓子店と連携することでみかんの販路が確保できました。施設として新しいことをしたように見えますが、これはとても普通のことで、自動車メーカーも部品メーカーや販売店などさまざまな企業が連携して1台の車がお客さんの手に届いています。この当たり前のことに県の焼酎の事業で気づかされました。

また、このような取り組みを成し遂げることで、利用者が社会に貢献し、活躍して、自立できる、そんな場ができたことをうれしく思いました。

福祉施設でする仕事が、地域のためになったり、誰かに喜んでもらえたりするのは働いている本人もうれしいものだと思います。支援されるだけではなく、こちらが人のためになる。こういう取り組みを通じて、障がい者が活躍し、自立していく場を今後もつくっていきたいと思っています。

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