障害のあるなしにかかわらず、すべての人が働きやすい環境でおいしいものを作る~恋する豚研究所の取り組み~

「新ノーマライゼーション」2020年7月号

社会福祉法人福祉楽団栗源事業部 事業部長
山根正敬(やまねまさのり)

私たちは、「恋する豚研究所」というブランドで、2012年より千葉県香取市で豚肉・豚肉加工品の製造・販売、しゃぶしゃぶやスチームハンバーグを提供するレストランを運営しています。恋する豚研究所という名前は「豚が恋をすると幸せを感じ、健康で健やかに育つだろう」というイメージからきたものです。そのイメージを実現させるために発酵飼料を中心としたえさづくりから取り組んでいるアリタホックサイエンス(在田農場)一農場のみの豚を使用しています。商品のパッケージデザインや建物のデザインにもクリエイターに入ってもらうことで、ブランドを作り上げてきました。また、2年前より隣の敷地に「1K good neighbors」ブランドで、スイートポテトの製造販売や農林産物の生産等を行っています。

福祉サービスとしては、就労継続支援A型・B型事業所にて現在42名の働きづらさを抱えた人たちが利用しています。

A型事業の作業内容は、工場内作業(精肉スライスや包丁での整形、加工品製造、包装、梱包、機械の洗浄など)、食堂作業(下膳や食器洗浄、仕込みなど)、清掃作業(掃き掃除や拭き掃除など)、事務作業(パソコン入力や販促物作成など)などです。

B型事業ではスイートポテトの製造(皮むき、裏ごし、ドリンク作りなど)、サツマイモ栽培を中心とした畑作業(苗取り、植え付け、除草剤散布、収穫、仕分け、出荷など)、林業作業(間伐、運搬、薪割り、結束など)を行っています。

大変ありがたいことに、少しずつ認知度が広がり、平日は150~200名、週末には500~600名の人がいらっしゃり、レストランは1時間待ちになることもしばしばです。

ところで、全国数ある福祉事業所で作られている食品のなかには、作ることが目的になっていておいしくないものや、努力しておいしい商品を作っても、パッケージがいまひとつで売れていない商品もあります。福祉事業所でも質が高く、価値に見合った価格で売れる商品を作り出せれば、市場では評価してもらうことができると考えています。

商品や料理を目の前にした時に、人は何を基準に日々選択しているのでしょう。きっと、味、価格、見た目、デザイン、カッコ良さ、安心感…といったところではないでしょうか。お客さんにとっては、「障害者が作っているので買ってください」ではなく、きちんとおいしいものを作り、その良さを知って正当な価格で買ってもらうことが重要だと考えています。

障害者施設ですので、特性にあった仕事や本人に寄り添う支援は大事ですが、それが前面に出てしまうと「売れる商品」「一般のお客様の視点」というものがずれてしまいます。市民まつりやバザーで売上10万円を達成するのも大切ですが、“1年に1、2度”10万円を稼ぐよりも、“毎日”10万円稼げるように商品を売ってくれるお店を探したり、“毎日”20万円をレストランで売上げたりすることのほうが重要です。

日頃の関わりでいうと、自分たちはできる限り「障害者」と「健常者」という対立的な視点で捉えないようにしています。「人は誰でも苦手なことは必ずあり、そうしたものがたまたま表に出ていないだけで、自分たちだって同じですよ」ということを、日々職員には伝えています。

もちろん、働きやすいように手順書やマニュアルを作成したり、見える化や構造化をしたりと対応は行っていますが、障害のある職員のためになにか特別なことを行っているつもりは一切ありません。手順書やマニュアルがあることは、誰にとっても働きやすさにつながるはずです。

当施設では、障害のある職員のサポートは、各部門の所属長をはじめとした一般の職員とともに、連絡を密にしながら協力して取り組んでいます。すべての職員に、障害のある職員との関わりを大切にしてほしいと思っています。統計的にみると、日本では約13人に1人の割合で障害者手帳を所持していますが、障害のある人と接する機会はそう多くありません。だからこそ、あまりプラスではない障害者のイメージができあがってしまいます。しかし、実際に一緒に働いてみると、障害のある人にしかない良さや、できることの幅広さ、素直さなども感じられるはずです。

清掃作業を担当するKさんは「掃除をしていくなかで、施設がきれいになっていくことがうれしい」と話し、食堂担当のIさんは、「来てくれた多くのお客さんに気持ちのいい挨拶ができるように頑張っています」とのこと。

小中学校の職業体験の子どもたちが毎年来ますが、具体的な業務の多くは、障害のある職員から教えてもらっています。しかもその職員の仕事が早い。「福祉」「障害者」は支援する対象と捉えていた多くの子どもたちが、逆に障害のある人から職業支援を受けているわけです。体験の終わりには「(いい意味で)障害ということがよくわからなかったです」という感想を言う子どもが多いです。こういうことがまさに障害を理解する教育なんじゃないかと、密かに思っています。

もちろん、日々簡単には解決しない問題も多々発生しますから、その時に支援員が間に入ったり、直接話を聞いたりして対応しています。発生する問題は、人間関係のもつれがほとんどですから、支援員もなるべく早い段階で間に入るようにすることを意識しています。各部門のリーダーは現場をうまくまわすことが主な仕事ですので、じっくり話を聞くことも難しいことが多いです。また、多くの職員はここで働くまで、障害のある人と一緒に働いたことがないので、障害のある人とのコミュニケーションの取り方や物事の伝え方などは、私たち支援員が伝えることが多いです。

「障害者だから」という理由で寄り添いすぎず、すべての職員が働きやすいようにするという視点が大事だと思っています。

4月、5月は、新型コロナウィルスの影響で食堂やスイートポテトの売上が7割減になってしまいました。以前の生活に100%戻るとは思えませんので、今は通販事業に力を入れています。ただ、日本全体で豚肉の消費量が減っているわけではないので、もう少し私たちの商品を置いてくれるお店を増やしてもらえるよう必死に営業しています。

また、恋する豚研究所の隣ではスイートポテト以外にも、ジャムの製造・販売を始める予定です。サツマイモや薪、木工品の販売も広げていきたいと考えています。香取市周辺には、おいしいものを作っている農家さんがたくさんいるのに、少し形が悪いだけで廃棄されてしまう野菜や果物がたくさんあります。それらを活用して価値を高めた製品づくりをしたいと思っています。

今後は障害のある人だけではなく、刑余者や比較的元気な高齢者も一緒に働ける空間にしたいと考えています。自分たちの挑戦はまだまだ始まったばかりです。

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