ITスキルを活かしてやりがいをもって働く~札幌チャレンジドの取り組み~

「新ノーマライゼーション」2020年7月号

特定非営利活動法人札幌チャレンジド
理事・就労支援グループリーダー
佐藤美貴(さとうみき)

私たち、NPO法人札幌チャレンジド(以下、札チャレ)は、2000年5月に発足、2001年4月にNPO法人化した「『ITでマザル、ハタラク、拓き合う。』社会を創ります」をモットーに、自立を目指す障がい者(チャレンジド)のための「キャリアデザインセンター」として活動を続けている団体です。

就労継続支援A型・就労移行支援事業を運営する多機能型福祉サービス事業所としての活動、放課後等デイサービス、札幌市障がい者ICTサポートセンター事務局として障害がある方へのパソコン指導等の活動、市民活動等を行っています。

その中の「就労継続支援A型事業」では、現在、約10社の企業と札チャレが継続した業務提携の中で「投稿動画監視業務」「海外航空運賃登録業務」「イベントサイトデータ登録業務」「Webアクセシビリティ業務」「イラスト・デザイン業務」等、PC利用のデスクワーク業務を用意し、約30名のチャレンジドが自分のスキル・特性を生かし担当業務に従事しています。業務提携をしている企業は地元北海道の企業もあれば、東京が拠点の企業もあります。札チャレでは、積極的な営業活動はしていません。チャレンジド一人ひとりがいただいた業務をコツコツと丁寧に積み重ねた実績が、業務の依頼を受けた企業から他の企業に口コミで広がり、理解を示してくださった企業が増え、今のような形態になりました。

IT関係の仕事は、障害によっては作業スピードや処理能力などにも多少の差はあるものの、PC周辺機器やツールなどといった働く環境づくりをすることで、障害のない人と変わらないパフォーマンスを発揮できる業務もあります。企業側でも一人ひとりの障害への理解をいただきながら、業務では一社会人として向き合ってくださることが彼らの働くモチベーションアップにつながっています。

メンバー30名の中には自宅から在宅で就労に励む方もおります。今でこそ、新型コロナウイルスの影響により、在宅勤務という言葉もすっかり社会化しましたが、私たちはコロナ禍以前より、それぞれの障害や生活・家庭の事情等を考慮し、完全在宅就労、通所・在宅混合就労と、その人に合わせた働き方づくりに取り組んでいます。

業務で使用するツールやアプリ、労務管理については、極力クラウド化を行っています。また、WEB会議ツール、ビジネスチャットなどのコミュニケーションツールを活用することで、通所と変わりない業務環境を自宅に構築し、離れた環境でも安心して仲間とコミュニケーションを取りながら業務を遂行しています。

現在、A型雇用5年目になる星勝哉(ほしかつや)さんは、通所でデータ入力業務を担当しています。内部障害(慢性腎不全)があり、週3回15時間を透析治療のための時間として必要としています。生涯続く通院と、星さんのもつ人柄の良さ・PCスキル、そして札チャレが請負うPC業務、通所・在宅といった多様な働き方をどのようにマッチングすれば、星さんらしい生き方ができるのかを本人と一緒に考えました。星さんは、クラウドツールなど最先端の技術に興味がある方ですので、それらを在宅環境に取り入れた場合のシミュレーション、実際の環境整備なども自ら行っていただきました。今は、体調面で不安な時は、通所から在宅勤務に切り替えをし、スムーズに業務ができるような勤務体制にしています。

本人のコミュニケーションスキルの高さも活かせるように、企業との関わりを見える化し、支援者を介さなくても社会とつながっている実感を直に感じられる働き方を星さんには構築しています。星さんは、「自己肯定力が上がり、札チャレに来た以前よりも気持ちが前向きに変わりました。マイナス思考だった私が変わった要因は、仕事の楽しさや、やりがいを感じて仕事をする日々を積み重ねてきたからだと思います」と今の気持ちを話しています。

A型雇用3年目の富澤亜優(とみさわあゆ)さんは、イベントサイト登録業務を担当しています。札チャレの放課後等デイサービスを利用終了後、高校卒業とともにA型利用を開始しました。先天性完全型心内膜症欠損症(無脾症候群)という、生まれながらにして重い障害をもつ方です。「脾臓」が無く、心臓の部屋が1つしかないため、きれいな血と体を回った後の酸素の少ない血が混ざって心臓が正常に機能しない障害になります。呼吸が苦しくなることがあり、酸素ボンベは欠かせません。現在、月1度受診、年4回の検査をしながら薬物治療を続けています。障害ゆえに、格段に障害のない人より体が疲れやすく、さらに疲れによって心臓に負担をかけられないため、基本的には通所、体調を崩しやすい季節や時期は在宅勤務としています。

働いた経験もなく、また、通所や在宅と多様な働き方の中、すんなりと周囲の状況・動きを受け入れ、チームワークよく勤務が継続できているのは、クラウドツールやチャットツールなどを用いたことにより、チーム一人ひとりの行動が見える化されたこと、自宅で働いていても質問や相談がすぐにできる安心した環境づくりの成果が大きいのかと思います。富澤さんは仕事に対して、「仕事をするようになってから、日頃から自身の体調管理、仕事へのモチベーション、責任感など、社会人として成長することができました。勤務が終わった時は、仲間と共に達成感を味わうことができます。自分に対する自己肯定感も上がります。仕事の成果は、イベントサイトを見ると表現として出ているのでとてもうれしい。イベントサイトを見た方や企業の役に立てることがとても楽しく、やりがいを感じます。現在は身体に負担なく働いているので、周囲の気遣いを無駄にせず体調管理に気をつけて、仕事への前向きな姿勢を変わらずに維持し続けたいです」と話しています。これからもその気持ちを保ち続けてもらえるように、私たちも日々、一人ひとりの障害や変化と向き合いながら関わりを続けていきます。

私たちが、障害者就労支援を進めていく上で意識をしていることは、就労支援がメインではあるものの、その人の背景にある家庭・生活環境はもちろん、歳を重ねるごとに変わるかもしれない障害程度とも丁寧に向き合い、一方で新しい働き方の模索、制度の活用、業務ツールの選定など、さまざまな方向から、一人ひとりのQOLの向上を目指して支援を続ける姿勢を持ち続けることです。立場上、「支援者」という役割ではありますが、チャレンジドから教わることや気づきを得ることは多々あります。

今後の私たちの活動の展開ですが、今年度から3年計画で北海道と札チャレの官民連携による障害者のテレワーク推進事業を開始しました。北海道の全市町村が、札幌市同様に福祉サービスが潤沢に行き届いているわけではない現実があり、たまたま居住地域や近隣に自分のスキルを活かせる就労福祉サービスがないために、やる気とスキルがあってもそれを活かしきれていない状態のチャレンジドが、北海道内にはまだまだ多くいるのではないかと感じています。そのようなチャレンジドとのつながりへの一環として、まだ始まったばかりの事業ではありますが、1人でも多くの方の能力を発揮できる機会の創出となればと願っています。

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