地域発~人をつなぐ地域をつなぐ-企業とタイアップした聴覚障害社員と聴覚障害社員を持つ上司を対象にした研修の取り組み

「新ノーマライゼーション」2020年7月号

社会福祉法人京都聴覚言語障害者福祉協会
法人事業本部 事業副本部長
内川大輔(うちかわだいすけ)

当法人は、1978年6月「京都市聴覚言語障害センター」の開所を機会に設立されました。社会福祉法人設立認可から一貫して聴覚障害者の暮らしの実態や願いを反映する事業の創造、聴覚障害者福祉の制度や施策づくりの先駆的役割を担ってきています。現在、聴覚障害児から高齢者までの支援を行っています。

2016年4月1日、障害者差別解消法及び改正障害者雇用促進法が施行されました。共通しているのは「合理的配慮の提供」が課されていることです。民間企業については、障害者差別解消法では努力義務ですが、障害者雇用促進法では法的義務を課されています。雇用関係によってパワーバランスが生まれているため、労働者側から使用者側に意見を言いにくいためです。

一般財団法人全日本ろうあ連盟が発行した「『障害者差別解消法』と『改正障害者雇用促進法』から考える~聴覚障害者への合理的配慮とは?『差別事例分析結果報告書』」では、差別を受けた経験の有無という問いの回答者811人のうち708人(87.4%)が差別を受けた経験があるとしています。差別を受けた場面別では、就労場面と回答した人数が289人と35.9%を超えています。データ分析から、民間企業で働く聴覚障害者は満足できる情報保障を受けられず困っていること、また使用者側も日常的なコミュニケーションの取り方や仕事上の情報保障について悩みを抱えていることがうかがえます。

当法人では、そういった社会ニーズに応えるために、聴覚障害社員(以下、聴障社員)がいる職場を対象にした研修プログラムを開発し、研修実施を働きかけてきました。ある時、株式会社堀場製作所グローバル人事部の担当者から、聴障社員だけでなく聴障社員を持つ上司からも多くの悩みが出されていることから、聴覚障害者に対する正しい理解を深めることに加えて聴障社員だけのグループと聴障社員を持つ上司だけのグループを作り、悩みを共有しあえるグループワーク研修を実施できないか、という相談が寄せられました。

さっそく、株式会社堀場製作所と打ち合わせをして、「聴覚障害者に対する正しい理解」と題して、「聴覚障害における基礎知識」並びに「合理的配慮の提供」を中心に講義し、そのあとにグループワークを実施することとなりました。聴障社員といっても聞こえの程度がさまざまであることから、当法人から手話通訳者を派遣し、また、UDトークを使用して文字による情報保障と一緒に情報保障環境を整えました。

研修の実施前後に変わったこと、研修を実施して思ったことを通信インタビューの形でご寄稿いただきました。

-聴障社員そして聴障社員を持つ上司の受講満足度:社員とその上司共に一定以上の受講満足を得てもらえました。特にHORIBAが真剣にこの問題にどう立ち向かえばよいのかを考えているという会社のメッセージを発信できました。

-研修の実施前、実施後の変化:上司の間では研修実施後に、どのようにUDトークを使用しているのか相談するようになりました。上司にとっては、「聴こえないこと」について理解を深めることができ、聴覚障害者にとっては、理解されないことへの不安、不満、あきらめなどの気持ちを共感してもらい、「一人でないことの安心感」を得てもらう機会になりました。

-研修を実施して思ったこと、当法人に期待したいこと:このような研修を重ねることによって、さらに聴覚障害者やその上司同士の悩みも共有できる場になると思います。今後は「業務の依頼の仕方、トラブルの解決方法」などを、事例をとおして、お世話になりたいと思っています。

当法人では、今後も社会ニーズに応えた研修プログラムを開発し、多様な地域社会の成り立ちに寄与していきます。

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