行政の動き-読書バリアフリー基本計画の策定について

「新ノーマライゼーション」2020年8月号

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課自立支援振興室

令和元年6月28日に施行された視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(以下「読書バリアフリー法」という。)は、障害の有無にかかわらず全ての国民が等しく読書を通じて、文字・活字文化の恵沢(けいたく)を享受することができる社会の実現に向けて、視覚障害のある方などの読書環境の整備を総合的かつ計画的に推進していこうとするものです。

読書バリアフリー法の規定に基づき、障害当事者を含む関係者協議会からのご意見を踏まえたうえで、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画(以下「読書バリアフリー基本計画」という。)が令和2年7月14日に策定されました。

読書バリアフリー基本計画では、読書バリアフリー法に規定する3つの基本理念を基本的な方針として、具体的な施策に取り組むこととされています。

図 視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画【概要】(読書バリアフリ一基本計画)拡大図・テキスト

1.アクセシブルな電子書籍等の普及及びアクセシブルな書籍の継続的な提供

アクセシブルな電子書籍等(音声読み上げ対応の電子書籍、デイジー図書、オーディオブック、テキストデータ等)の普及を図るとともに、アクセシブルな電子書籍等を利用するための端末機器等を視覚障害者等がより円滑に使える環境を整備することが必要です。

また、障害の状況によって端末機器等を使えない場合や、紙や布といった現物の書籍が必要とされる場面・ニーズもあるため、引き続きアクセシブルな書籍(点字図書、拡大図書その他の視覚障害者等がその内容を容易に認識することができる書籍)の提供を継続するための取組も必要です。

更に、書籍利用のためのアクセシビリティのみならず、書籍の入手や利用に係るアクセシビリティの改善・向上にも合わせて取り組む必要があります。

2.アクセシブルな書籍等の量的拡充・質の向上

アクセシブルな書籍及びアクセシブルな電子書籍等(以下「アクセシブルな書籍等」という。)の量的拡充に対応するため、公立図書館、大学及び高等専門学校の附属図書館、学校図書館(以下「公立図書館等」という。)、点字図書館、国立国会図書館において、各々の果たすべき役割に応じ、アクセシブルな書籍等を充実させるとともに、製作されたアクセシブルな書籍等の共有に向けた図書館間の連携やネットワークを構築することが重要です。また、質の向上のために、書籍等の製作に係る基準の作成や、製作に従事する者の研修が必要です。

加えて、これまでに製作された書籍等について、書籍・電子書籍等の形態を問わずアクセシブルなものにし、長期的にデータとして保存するための取組や、製作者が効率的に作業できるよう出版者から製作者に電子データを提供する仕組みを構築することが効果的です。

3.視覚障害者等の障害の種類・程度に応じた配慮

視覚障害者等の障害の種類及び程度によって、アクセシブルといえる書籍等の提供媒体や利用方法は異なるため、読書環境の整備を進めるに当たっては、個々の障害に対応したニーズを的確に把握し、障害の特性に応じた適切な形態の書籍等を用意することが必要です。

令和2(2020)年度から令和6(2024)年度の対象期間においては、以下の基本的施策に取り組み、視覚障害者等の読書環境の整備を推進することとされています。

(1)視覚障害者等による図書館の利用に係る体制の整備等

公立図書館等及び国立国会図書館について、点字図書館とも連携して、アクセシブルな書籍等の充実、アクセシブルな書籍等の円滑な利用のための支援の充実その他の視覚障害者等によるこれらの図書館の利用に係る体制整備を図る。また、点字図書館については、アクセシブルな書籍等の充実、公立図書館等に対する利用に関する情報提供、視覚障害者による十分かつ円滑な利用の推進を図る。

(2)インターネットを利用したサービスの提供体制の強化

インターネットにより視覚障害者等に提供する全国的なネットワーク(以下「サピエ」という。)の運営に対する支援を行い、アクセシブルな書籍等の十分かつ円滑な利用を促進する。また、国立国会図書館、サピエの運営者、公立図書館等、点字図書館及び特定電子書籍等(著作権法の規定により製作されるアクセシブルな電子書籍等)の製作を行う者の間の連携強化を図り、インターネットを利用したサービスの提供体制の強化を図る。

(3)特定書籍・特定電子書籍等の製作の支援

特定書籍(著作権法の規定により製作されるアクセシブルな書籍)・特定電子書籍等の製作支援のため、製作に係る基準の作成等、質の向上を図るための取組に対する支援を行う。

(4)アクセシブルな電子書籍等の販売等の促進等

アクセシブルな電子書籍等の販売等が促進されるよう、技術の進歩を適切に反映した規格等の普及の促進、著作権者と出版者との契約に関する情報提供その他の必要な施策の推進を図る。また、視覚障害者等への合理的配慮の提供の観点から、出版者からの視覚障害者等に対する書籍に係る電磁的記録の提供を促進するため、その環境の整備に関する関係者間における検討に対する支援その他の必要な施策の推進を図る。

(5)外国からのアクセシブルな電子書籍等の入手のための環境整備

視覚障害者等がアクセシブルな電子書籍等であってインターネットにより送信することができるものを外国から十分かつ円滑に入手することができるよう、相談体制の整備その他のその入手のための環境の整備を図る。

(6)端末機器等及びこれに関する情報の入手支援、情報通信技術の習得支援

アクセシブルな電子書籍等を利用するための端末機器等、これに関する情報及びこれを利用するのに必要な情報通信技術について視覚障害者等が入手及び習得するため、必要な支援等を行う。

(7)アクセシブルな電子書籍等・端末機器等に係る先端的技術等の研究開発の推進等

アクセシブルな電子書籍等及びこれを利用するための端末機器等について、視覚障害者等の利便性の一層の向上を図るため、これらに係る先端的な技術等に関する研究開発及びその成果の普及に必要な施策の推進を図る。

(8)製作人材・図書館サービス人材の育成等

特定書籍・特定電子書籍等の製作及びアクセシブルな書籍等の利用のための支援に関する人材について、これらの養成、資質の向上及び確保に係る支援を行い、円滑な利用を促進する。また、公立図書館等及び国立国会図書館において、アクセシブルな書籍等の円滑な利用のための支援の充実のため、司書等を対象とした研修及び養成において、視覚障害者等に対する図書館サービスについて取り上げ、司書等の資質の向上を図る。

読書バリアフリー基本計画は当面の取組の方向性を示したものであり、今後、更に実態把握を行い、より具体的な目標や達成時期等についての検討や定期的な評価を行っていく必要があります。

また、取組を着実に推進していくためには、多くの関係者の理解が必要であり、丁寧な周知を行うとともに、国において、引き続き、関係者間による協議会を設置し、課題の解決に向けた取組を実施していくこととされています。

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