行政の動き-新型コロナウイルス感染症による障害者雇用への影響について

「新ノーマライゼーション」2020年8月号

編集部

新型コロナウイルスは、感染予防と社会経済活動とを両立させなければならないという難しい命題を人類に突きつけており、特に経済面では世界的な規模で深刻な影を及ぼしています。8月17日の内閣府の発表によれば物価変動の影響を除いた実質国内総生産(GDP)は、リーマンショック時(2009年1-3月期)の過去最悪の落ち込みマイナス17.8%をさらに下回り、2020年4-6月期は前期比7.8%減少しました。今後1年続くと仮定した場合は27.8%のマイナスとなり、このままでは過去最悪を更新しかねないと言われています。

そのような中、当然、障害者の雇用状況にも少なからず影響が出ています。去る7月31日の厚生労働省労働政策審議会障害者雇用分科会で配布された資料に、民間団体等の調査結果とアンケート結果の報告が記載されていたので、「行政の動き」の場を借りて障害者雇用の現状を読者の方々と共有したいと思います。

まずは厚労省直轄のハローワーク業務統計(図1参照)です。解雇者数については、令和2年2月から6月で、対前年152人増の1,104人、前年比16%増になっています。新規求人数では令和2年5月のみで対前年6,776人減の11,972人、前年比36.1%減です。新規求職申込件数についても5月のみで3,854件減の13,999件、前年比21.6%減、就職件数も5月のみで3,080件減の6,814件、31.1%減、その結果5月の就職率は前年比6.7ポイント減の48.7%でした。対前年よりも悪化していることは確実ですが解雇者数以外は5月の1か月間の比較であり、一般労働者と比べれば減少幅は小規模であるとコメントしていますが、新型コロナの収束が見えていない以上、引き続き注視していく必要があります。

図1
図1拡大図・テキスト

発表資料には全障協(※注1)会員企業104社とSACEC(※注2)会員企業69社に行ったアンケート結果も掲載されています。厚労省はこれらの団体の協力を得て毎年7月15日現在の障害者雇用状況報告を行っており、この報告の方は令和2年度は新型コロナウイルス感染症の影響もあって8月31日に報告期限を延長しているとのことなので、今後その結果も発表されると思われます。

81社のうち6月頃までの障害者の雇用数を「増やした」と回答した社が18社22.2%、「維持した」と回答した社が63社77.8%でした。今後の見通しでは、86社中「増やす」と回答した社が31社36%、「維持する」と回答した社が55社64%でした。現状、見通しとも「減らした」、「減らす」と答えた社はありませんでした(図2)。

図2
図2拡大図・テキスト

今後の雇用拡大の見通しについての質問に対しては、69社中、「計画通り遂行する」が46社66.7%、「計画を縮小し遂行する」が7社10.1%、「計画を再検討する」が12社17.4%でした(図3)。

図3
図3拡大図・テキスト

図2及び図3ともに特例子会社として単独で報告している社とともに企業グループに特例子会社が含まれていたり、企業全体として報告している社もあり、一概には論じられませんが、多くは障害者雇用に理解がある企業のアンケート結果ということがいえます。しかしながら、コロナ禍の影響を受けて経済状況が悪化している中で、社会情勢を見極めながら採用計画を見直すことも視野に入れている、といった意見もありました。

全障協は令和2年6月29日付で厚生労働大臣あてに「障害者雇用施策に関する要望書」を会長名で提出しています。新型コロナウイルスの感染拡大に対処するよう求めている部分について、要望の文面と説明について抜粋します。

『要望事項-新型コロナウイルスの感染拡大により経済活動が縮小する中、障害者雇用の維持・拡大に取り組む中小企業に対する助成措置の拡充、調整金の増額等、緊急的な支援の一層の拡充をいただきたい。』

『説明-全障協会員企業にはクリーニング、リネンサプライ、機械加工業をはじめとして、新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動の縮小の影響を強く受ける中小企業が多く、その経営環境は極めて厳しいものとなっている。こうした中で、障害者の雇用の安定が確保されるよう、障害者雇用の維持・拡大に取り組む中小企業に対する助成措置の拡充、調整金・報奨金の増額、官公庁等による優先調達の推進等、緊急的な支援の一層の拡充をいただきたい。』と結んでいます。

別の調査(※注3)によれば、障害者雇用においても実施した雇用施策の第1位は「テレワーク導入、在宅勤務」であり、多くの障害者にとっては「通勤」に関するバリアをクリアすることは雇用条件の中では古くて新しい課題でしたが、今般のコロナ禍に見舞われたことによる多様な働き方を容認する社会の流れが、障害者雇用の業務内容やマネジメントを変える後押しとなるという見方もできるのではないでしょうか。

いずれにしても、経済状況が悪化している中で、障害者雇用にも影響が出ており、障害者の雇用に取り組んでいる企業への支援が求められています。


※注1 公益財団法人全国障害者雇用事業所協会:重度障害者を多数雇用し、職業能力の発揮を通じた社会参加の場を提供している全国約330の障害者雇用企業等で構成する団体

※注2 一般社団法人障害者雇用企業支援協会:障害者が自らの労働により自立する環境が作られることは、わが国の社会とって望ましい状態であるとの考えに基づき、雇用の領域において、企業に対し民間の立場からの支援を目的としている全国195社で組織する団体

※注3 パーソナルチャレンジ株式会社が実施した「新型コロナウイルスによる障害者の採用・雇用施策への影響」調査結果(2020年6月19日発表)

menu