デイジー図書による読みの困難を持つ子ども達への支援の現状、課題

日本障害者リハビリテーション協会 参与 西澤達夫

■デイジー図書の種類と規格

視覚障害者のほか、手などの障害でページがめくれない人、発達障害等で印刷された文字情報を読むことが難しい人にも読みやすい図書です。

デイジー(DAISY)とは、Digital Accessible Information Systemの略で、日本では「アクセシブルな情報システム」と訳されています。視覚障害者や普通の印刷物を読むことが困難な人々のためのアクシブルな電子書籍の国際標準規格として、50カ国以上の会員団体で構成するデイジーコンソーシアム(本部スイス)により開発と維持が行なわれています。

2021年1月現在、国内で利用可能な3種類あるデイジー図書の内訳は、音声デイジーが約13万冊、次にテキストデイジーで1万1千冊、最も少ないのがマルチメディアデイジーの1,260冊で、今後児童書等での拡充が求められています。それぞれの特徴は以下の通りです。

●音声デイジー
図書や雑誌の内容を録音して音声にしたものです。

●テキストデイジー
文字(テキストデータ)を 再生機器の音声合成機能を使って読むことができます。ただし、音質や読み方は、再生機器の音声合成機能に依存します。
文字や画像をハイライトしながら、その部分の音声と一緒に読むことができます。

●マルチメディアデイジー
文字や画像をハイライトしながら、予め録音された音声と一緒に読むことができます。このため、読み方は製作時に確認済みであり、再生機器に依存しません。

次の表は、デイジーの種類とその特徴を比較したものです。いずれも読みたい部分に簡単に移動できる優れたナビゲーション機能を有しています。マルチメディアデイジーとテキストデイジーとは、似通った特徴を有しています。マルチメディアデイジーの音声は製作時に確認済であり、正しい読みが求められる義務教育段階での教科書や児童書等に最適ですが、音声の録音・校正と文字、画像との同期編集作業が必要になるため、製作に時間を要します。テキストデイジーは、それらの作業が不要なため、製作時間が短くて済むため、素早い情報提供が求められる用途向けにニーズが高まっています。

特徴 音声デイジー テキストデイジー マルチメディアデイジー
ページや、見出しで移動できる
読むスピードを変更できる ✔(合成音声)
文字の大きさ、書体を変更できる  
背景色、文字の色を変更できる  
音声とハイライトした文字を、同期しながら読める   ✔(合成音声)
製作に要する期間
データサイズ 大+(音声+テキスト)

デイジー(DAISY)規格は、90年代に音声(視覚障害)中心でスタートし、2000年代に入って利用対象を印刷物の読み障害へと拡大しました。2001年にマルチメディアデイジーの規格であるDAISY2.02が登場し、国内のマルチメディアデイジー図書もこの規格で製作しています。

そして、2011年には、デイジーは、電子書籍の規格であるEPUB3と統合し、このEPUB3は、2020年に国際的な標準であるISOの規格となりました(ISO 23736:2020)。ただし、EPUB3自体は広く電子書籍全般を対象とした規格のため、少し遅れて2021年にEPUB3のアクセシビリティに関してもISOの規格になりました(ISO/23761:2021)。

これによりEPUB3の電子書籍がどこまでアクセシブルかを明示・規定できるため、利用者は、自分に読めるものを電子書店で選べるようになります。

このアクセシビリティに関するISO規格はデイジーコンソーシアムが中心となって原案を作成し、日本が国際規格提案を行ったものです。

そして、このISO規格に基づいて出版されたアクセシブルな電子書籍は、読みたいページへの移動や、文字の大きさ・色・フォント・背景の色を変えることができます。今後は、国内で製作されるマルチメディアデイジー図書も、製作・再生環境が整えばEPUB3に移行していくものと思われます。

■マルチメディアデイジーを必要とする子どもたち

マルチメディアデイジーを必要とする子どもたち図

上の図は、文部科学省が平成24年12月に実施した通常の学級に在籍する特別な支援を要する発達障害の可能性のある児童生徒の調査結果の内訳を示したものです。

通常学級で、発達障害の可能性のある児童総数は6.5%です。3つのカテゴリ-、LD、ADHD、自閉症スペクトラムがあります。円が重なっていて重複部分があることに注目してください。学習に著しい困難を持つ4.5%の内、特に読み書きに困難がある割合は2.4%、人数では約24万人で、この子どもたちが、マルチメディアデイジーによる読みの支援が有効であると考えられます。

見え方の例

次に読みの困難さについてです。これに関しては、頭脳の中の文字認識・音声認識等の課題ですから、実際の困難さは当事者でない限り分かりにくいところがあります。上の図にあるように文字がにじむ、ゆらぐ、鏡文字になったり文字がかすんだりといった見え方をする場合があるそうです。さらに見え方の問題だけでなく、「記号」である文字を「音」として認識することが困難だったり、名称を想起する速度が遅いことによって起こると言われています。その結果、逐次読み(すらすら読めない)、勝手に読んでしまう、単語の切れ目がわかりにくい。漢字が読みにくいなどが読みの困難となって現れます。

■デイジーで期待される効果=読みの負担低減

下の図は、デイジーで期待される効果を説明したものです。

まず、テキストがハイライトして、その部分を音声で喋ってくれるので、どこを読んでいるかがわかります。見て情報をとることが難しい場合は、音で情報をとれます。紙の教科書だと読みにくいので、読むこと自体に一生懸命でなかなか中身が入ってこない。これに対してデイジーを使うと、読みに関する負担が減って本来自分が持っている能力で、内容を理解することに使える。本来の学習の目的に自分の能力を使うことができるというのが、デイジーの効果です。

デイジーで期待される効果

次の表は、現状の紙ベースの場合とICTを使ったデイジー利用の場合を項目毎に比較したものです。この様にICTは、自由度、そして代替え手段が多く一人一人の困難さに応じたカスタマイズができるのが最大の特徴です。

項目 現状(紙) ICT(デイジー)
レイアウト 固定 可変(リフロー)
フォント 固定 可変
文字大きさ、向き 固定 可変
背景色、文字色 固定 可変
読み上げ -(代読) 録音音声、音声合成
注視 スリット ハイライト

■マルチメディアデイジー教科書による支援の現状

当協会では、平成20年度からボランティア団体等と協力して小中学校の発達障害など読みの困難がある児童生徒にマルチメディアデイジー教科書を製作・提供を行っています。

利用者クラフ推移

当初80名だった利用者は、昨年度は約1万2千人を超え、急速に普及しつつあります。上の図は、その状況をグラフで示したものですが、保護者や学校の教員が個別に申請する一般提供申請に加えて、教育委員会や、学校図書館からの一括申請が急速に増えつつあります。しかし令和元年度の実績11,805名という値は、前項で説明した読み書きに困難がある2.4%、24万人を分母になると、まだ5%程度で、まだまだ「普及している」にはほど遠い状況というのがおわかりいただけると思います。

県ごとの利用者グラフ

上の図は、都道府県ごとの児童・生徒の数(文部科学省のホームページに公開されている人数)に先ほどの2.4%をかけ分母とし、分子は、デイジー教科書の利用人数で表した普及率です。普及率として比較すると、20%を超える県と、1%程度に留まっている県との普及のバラつきが非常に大きく、デイジーの認知度に大きな差が存在していると考えられます。

利用者の学年毎の分布

上の図は、利用者の学年毎の分布です。棒グラフが学年ごとの利用者数で、折れ線グラフは、文部科学省が平成24年12月に実施した調査における学習面の著しい困難を持つ児童生徒の学年毎の比率で、この平均値が最初にご説明した4.5%です。
両者を比較すると、小学校3年生から上の学年は傾向が類似していますが、1、2年生はかなり乖離しています。この図から見て取れるのは、早期から何らかの読みに対するアセスメントと支援が必要ではないかということです。また、小学校に比較して中学校での利用が少ない点も気がかりです。

■ 今後の課題

マルチメディアデイジー教科書の普及状況からみた今後の課題は以下の通りです。

●効果的な読みの支援としての認知が進み、令和元年度はデイジー教科書の利用者が約1万2千名となったが、普及率5%で限定的、都道府県別の普及率の差が大きい。

●小学校低学年でのアセスメントから、読みの支援につなげていく仕組みとその定着が必要。解決策としては、まずは認知度を上げることに注力する必要があり、あらゆる機会を利用した周知活動が必要と考えています。今年度GIGAスクール構想で整備が進む1人1台の学習用端末整備が、その絶好の機会と捉えています。

また、言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、創造力を豊かなものにしていく読書活動が子どもにとって不可欠なため、教科書の提供だけでは不十分であり、教科書で推薦している図書等のマルチメディアデイジーによる提供が待たれています。

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