行政の動き-「スーパーシティ」構想について

「新ノーマライゼーション」2020年9月号

内閣府地方創生推進事務局 政策調査員
西村将麻(にしむらしょうま)

「スーパーシティ」構想が生まれた背景

世界を見渡せば、AIやビッグデータを活用し、社会の在り方を根本から変えるような都市設計の動きが急速に進展しています。例えば、中国の杭州やスペインのバルセロナ等では、民間企業が行政と連携し新しい街・新しい生活の実現に向けてプロジェクトが動いており、それらの事例は、新規開発型である「グリーンフィールド型」、既成市街地をつくり変える「ブラウンフィールド型」と様態はさまざまです。

しかし、住民目線に立ち、生活全般にわたって最先端技術を実装し、実際の暮らしを大きく変えるような、いわば「まるごと未来都市」なるものは、まだ世界各国を見ても実現はされていません。これは我が国でも同様で、実現のために必要な要素技術はほぼ揃っているにもかかわらず、それらを実践・実装する環境が揃ってなかったことが要因と考えられます。そこで、内閣府では、国家戦略特区制度を活用し、大胆な規制改革とともに最先端技術を暮らしに実装していく「スーパーシティ」構想を推進し、世界に先駆けた「まるごと未来都市」を実現することを目指しています。

「スーパーシティ」構想とは

「スーパーシティ」構想は、移動・物流・支払い・行政・医療介護・教育・エネルギー・環境・防犯・防災等の複数分野の取組を、一つのデータ連携基盤の上で連携させ、住民目線で実際の暮らしに同時に実装することで地域の社会課題の解決を目指すものです。2020年6月3日に公布された改正国家戦略特区法では、その実現のために、複数の規制改革を同時・一体・迅速に推進するとともに、データ連携基盤に対しAPI(Application Programming Interface)をオープンにすることを義務づけ、複数分野サービス間の連携や、あるいは他の都市との連携・展開をしやすくすることを目指しています。

「スーパーシティ」構想によって生活はどう変わるのか

では、複数分野の規制改革とともに、データ連携基盤の上で複数分野の取組を連携させることで、住民の生活はどのように変わるのでしょうか。仮想事例として、一例をご紹介します。免許を返納する高齢者が急増している街で、高齢者にアンケートを取ると、1日に自由に使えるお金が非常に限られているとのこと。これでタクシーを利用することになると、病院等に行くことはできても帰って来られません。また、市内のタクシーも大幅な減少傾向にあり、ドライバーも高齢化。そもそも十分なタクシーサービスの供給が危ぶまれています。そこで、市民の車を活用したボランティアタクシーサービスの実装を目指しています。病院等の利用料金の支払いも、協力してくれたドライバーへの支払いも市内独自のボランティアポイントで。また、病院等の予約とタクシーの配車予約を連動させ、施設の予約時間に合わせてボランティアタクシーが自宅まで迎えに来てくれる仕組みを構築することで、高齢者の移動課題を解決しようという内容です。

これは、高齢者の移動課題の解決という、比較的絞られた生活上の課題に対して設計されたスーパーシティにおける事業の内容ですが、これがさらに大きな社会的課題の設定に応えるものになればなるほど、さまざまなサービスが、より大規模に連携・稼動していくことになろうかと思います。

「スーパーシティ」構想を取り巻く環境

「スーパーシティ」構想においては、データ連携基盤の整備や、サービスアプリケーションの提供等、事業者が果たす役割が大変重要です。そこで、内閣府は、スーパーシティを目指す自治体と、スーパーシティに参画意向のある事業者の間の知見の橋渡しやマッチングを行うことを目的に、「スーパーシティ」構想に関連する知見や技術を持つ企業がバーチャルの展示ブースを常時SNS上に出展することができるコミュニティ、「スーパーシティ・オープンラボ」を開設し、100社以上の事業者に参画いただいております。並行して、昨年9月より「スーパーシティ」構想自治体アイディア公募を実施し、56団体から提案をいただいており、「スーパーシティ」構想への関心の高さを実感しています。

おわりに

「スーパーシティ」構想が、技術実証事業の寄せ集めで終わるのか、生活に根付いた社会実装プロジェクトとして住民の生活を便利に変えるものになるかどうかは、「スーパーシティで解決したい社会的課題が明確化されているか」という点にかかっています。社会的課題の明確化とその解決に向けた動きの鍵は、住民の皆さんの地域力、コミュニティ力、そしてそれを支えるコミュニケーションが握っているのではないかと考えています。

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