海外への支援活動-AAR Japanの海外における障害分野の活動

「新ノーマライゼーション」2020年9月号

特定非営利活動法人難民を助ける会[AAR Japan]
支援事業部マネージャー
野際紗綾子(のぎわさやこ)

1.AAR Japanと障害と開発

特定非営利活動法人難民を助ける会 [AAR Japan](以下、AAR)は、インドシナ難民を支援するために、政治・思想・宗教に偏らない市民団体として、前会長の相馬雪香が設立を呼びかけました。1979年以来の活動実績を持ち、国連に公認・登録された国際NGOです。団体名には「難民」が含まれますが、活動では、緊急支援、障害と開発、地雷対策、感染症対策、提言・啓発を5つの柱としています。

本稿では、海外における障害分野の活動について、これまでの歴史と現在の活動についてご紹介し、課題や今後の展望について考えます。

2.タイの難民キャンプから、東南アジアの国々へ(1980年代後半~2000年代)

1981年の国際障害者年を契機に、世界では障害への理解が促進されつつありました。しかしながら、1980年代後半、タイの難民キャンプには、多くの障害者が身を寄せていることが分かりました。そこでAARは、車いす等の補助具を配布しました。

きっかけは難民キャンプにおける「配布」でしたが、その後、東南アジアの国々では、車いすそのものが自国で生産されておらず、しっかり普及していないことが判明しました。そこで、1994年にはカンボジアで、2001年にはラオスで車いす事業を開始するなど、中長期的な取り組みが始まりました。

その頃、ミャンマーでは障害者のための職業訓練校が、タジキスタンやアフガニスタンでは障害者のためのリハビリテーション施設の充実等の活動が進みました。

2006年12月に障害者権利条約が国連総会で採択され、各国政府の関心も高まる中、AARでは、2000年代はアジア地域を中心に、障害分野の活動を本格化させていきました。ラオスは、車いす事業を開始してから約10年で、車いすが同国の全県に届くようになり、事業の最終年には、車いすの査定、製造、配布、修理技術に加え、海外からの資金援助機関も含めて現地政府機関である保健省に引き継がれました。

3.災害時の障害者支援を本格化(2000年代後半から2010年代)

2008年5月。軍事政権下のミャンマーで240万人のサイクロン被災者への緊急支援のため現地入りした際、私が驚いたのは、「障害者へは、緊急支援物資のみならず情報すら届いていません」という被災障害者からのメッセージでした。多くの方々からのご寄付に加え、ジャパン・プラットフォーム(JPF)の大型助成金を活用しました。当時、JPFのガイドラインには被災障害者の支援は含まれていませんでしたが、現状をご理解いただき、大規模な支援を行うことができました。

その後もインドネシア地震(2009年)、パキスタン水害(2010年)、フィリピン台風(2013年)、東日本大震災(2011年)、九州豪雨(2017年)等の災害が相次いでいますが、災害時の障害者支援の必要性や重要性は、国内外で理解されるようになってきています。

災害や紛争等の緊急人道支援の現場では、『スフィアハンドブック』という支援の手引書がNGOや赤十字等の関連機関によって作られ、7年ごとに改訂されていますが、2011年の改訂版から、「権利保護の原則」として、障害者が、すべての分野において配慮されるべきと明記されるようになりました。

食糧、水衛生、保健医療、仮設住居といった緊急人道支援におけるどの分野においても、障害者の権利を認識する必要性を、「最低基準(最低限守らなければならない基準)」と定めたのは大きな一歩であったのではないかと考えます。

加えて2018年、『高齢者や障害者のための包括的な人道支援基準』が『スフィアハンドブック』の姉妹本として発行されました。これらの基準の実践を通じた、障害者権利条約の第11条(危険のある状況及び人道上の緊急事態)やインチョン戦略の目標7(障害インクルーシブな災害リスク軽減および災害対応を保障すること)の実現への貢献を期待しています。

4.インクルーシブ教育と障害インクルーシブな開発と防災・減災の取組み(2010年代~2020年)

2013年からは、障害の有無にかかわらず、すべての子どもが学校に通えるよう、カンボジア、タジキスタンやハイチ等でインクルーシブ教育事業を実施し、活動は主に、校舎のバリアフリー化、教員や関係者への研修(ToT)、啓発活動といった要素から構成されています。今後はパキスタンやアフガニスタン、ミャンマーでも活動を実施する予定です。

また、ミャンマーでは、災害後に地域に根差したリハビリテーション(CBR)/地域に根差したインクルーシブな開発(CBID)の活動を実施し、福島をはじめとする東北地方においては、東日本大震災からの復興に向けて、約10年にわたり福祉施設の販路拡大等の支援や平時からの準備を進めてきました。

アジア太平洋CBR会議をはじめとする関連の国際会議や障害や教育分野の学会や関連誌においてもAARの支援事例を発表し、活動現場の経験・知見を国内外に提言・発信する試みも続けています。

5.新型コロナウイルスと障害(2020年~)

新型コロナウイルスの感染拡大が世界規模で続く中、AARは海外で実施している人道支援事業への影響をできるだけ抑えながら、安全・健康面に配慮して現地駐在員を在宅勤務としたり、日本に一時帰国させたりする緊急措置を、各国の事情に応じて講じました。同時に、事業地によっては、駐在員が日本から遠隔で海外事務所職員と連絡を取り合いながら、活動地域において、感染拡大を防ぐためのマスクやアルコール消毒液といった衛生用品を障害児/者の家庭に配布するなどの活動をパキスタンやミャンマー等、複数の国で実施しています。

6.課題

日本国内で、未だ多くのNGOやNPOがボランティアのグループとみなされている中で、当会も、国内外の活動の規模も小さく、活動国や日本で、専門性や存在感を十分に示すことができていません。また、障害分野について職員や関係者が理解を深めながら、事業規模を拡大し、活動現場からの学びを、効果的に発信する必要があります。

7.今後の展望

2017年末に北京で開催された国際会議において、UNESCAPは「アジア太平洋地域で、災害時の障害者の死亡率は全体の死亡率の2~4倍である」と警鐘を鳴らしました。日本では、2016年相模原障害者殺傷事件、2018年強制不妊訴訟等がニュースでも取り上げられましたが、これらはナチスドイツ等の優性思想が未だ過去のものではないことを示唆していないでしょうか。

私たちにできることは何でしょうか。AARは障害分野の活動のみを行っている団体ではないものの、その弱みを強みにできるのではないかということです。なぜなら私たちは、これまで関心のなかった人々(そこには私たち自身も含まれます)が障害への理解を深める過程を学んできたからです。すべての人に優しい世界の実現に向けて、私たちは、これからも障害インクルーシブな活動を続け、発展させるよう、努力してまいります。

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