快適生活・暮らしのヒント-思いを伝える会話アイテムの工夫、他

「新ノーマライゼーション」2020年9月号

特定非営利活動法人日本失語症協議会 常任理事
江東・失語症のある方のコミュニケーションを豊かにする会 会長
進藤美也子(しんどうみやこ)

私の夫には、8年前に発症した脳梗塞の後遺症で右片麻痺と重い失語症があります。言いたいことや理解していることがあるのにそれを言葉にして言ったり文字に書いたりすることが困難です。また、こちらの話している内容も聞こえてはいますがすぐに理解できません。そんな夫との日常の会話や生活の楽しみを得るために工夫していることを3つご紹介いたします。

【ホワイトボード】

わが家では、就寝前に夫と確認しながら翌日の予定をホワイトボードに記載して部屋の見えるところに掛けています。夫は、何時に誰がリハビリに来るのかとか、私が帰宅する時間などは頭の中には入っていますが、自分が1日どういう行動を取るのかを目で見てすぐわかるところにいつも置いてあることで安心をして生活ができているようです。1日の予定は、後日その日の話題になった時に見られるように書き換える時に写真に撮って残しています。

また、夫は自分から言いたいことを言葉に発することが難しいのですが、文字にするとわかるので、私や家族と会話をする時は、会話がスムーズに進むように本人が言いたいことを察してホワイトボードに文字を書いて、夫がそれを指差しながら会話をしています。そのため家のあちこちにホワイトボードを置いて夫との会話に役立てています。お昼のメニューリストも作りました。外出先では携帯電話の手書きメモを利用しています。

【趣味は御朱印集め~写真の位置情報を活用】

旅行好きな夫と2人で車いすで旅行に行き、神社や仏閣で御朱印をいただいています。御朱印をもらったらその場を動かずにすぐに写真に収めるようにしています。後でリハビリのスタッフさんやお友達との会話で御朱印を見せると「これはどこでもらったの?」と必ず聞かれます。そんな時、写真を撮った場所の位置情報(地図)を提示すれば一目でどこだかわかります。名詞などの言葉はほとんど出ませんが、便利なIT機器を使いながら会話を膨らませています。

【薬の袋を切る手作りグッズ】

最後は、失語症ではなく麻痺のために作った自助具です。投薬が欠かせない夫ですが、片麻痺のため薬の袋を開けて中に入ったたくさんの錠剤をうまく出すことはなかなか大変です。そこでペーパースタンドのようなもので凹みを大きくして薬の袋が入るものを手作りしました。スタンドの凹みに薬の袋を挟み、はさみを使って左手で上部を切ります。スタンドは安価な紙粘土で軽くて扱いやすく、毎日のことが自分でできることで生活がしやすく自信にもなります。

失語症のある人は、家族でも会話するのに疲れる時もありますが、便利なIT機器で本人が困難なく使えるものを導入したり、ちょっとした工夫で生活のしやすさを支えていければと思っています。

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