地域共生社会開発プログムの紹介

公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 参与 上野悦子

平成28年と平成29年に当協会が、(一社)草の根ささえあいプロジェクト(名古屋)のご協力により実施した地域共生社会開発プログラムは、規模や特徴の異なる地域でもそれぞれに成果を見せている。本プログラムの概要と実施状況を紹介する。

【これまでの経緯】

平成27年に当協会は東京で第三回アジア太平洋CBR会議を共催した。46の国と地域から約600人が集まり、CBRについての実践発表や意見交換等を行った。これに先立ち、日本を含むアジア太平洋地域でCBID*の好事例を収集することになり、実践例からインクルージョンの条件を整理した。その条件とは、①CBIDの概念(障害のある人を含む困りごとのある人が暮らしやすくなる地域を実現すること)をもとにしている。②そのためには専門的支援だけではなく生活全般を視野にいれた包括的な取り組みであること。③市民を含むよりおおくの関係者との連携を促すことである。

東京での第3回アジア太平洋CBR会議を踏まえ、日本国内で実施するためのプログラムの開発に向けて、平成28年、29年に日本財団のご助成をいただき、国内での試行的実践を行った。試行的実践を踏まえ、平成29年に「地域共生社会開発プログラム」を開発した。このプログラムの中核となっているのは、「できることもちよりワークショップ」(草の根ささえあいプロジェクト)である。

【プログラムの概要】

地域共生社会開発プログラムは、①地域課題に携わる地域のキーパーソンでプログラムを開催したいという人材の発掘、②ワークショップを実施するための声掛けを含む事前準備(事例作成など)、③「できることもちよりワークショップ」開催、④そして終了後のフォローアップで構成される一連のプログラムである。「できることもちよりワークショップ」は課題解決を目指すものではなく、解決策を探す一歩手前の段階で、住民の意識が困り事のある人に関心をもちなんとかしたいという気持ちを引き起こすことに貢献することを主眼とするものである。

【試行的実践の状況】

日本財団のご助成をいただき、平成28年と29年に次の地域で実施した。その概要と成果は以下のとおりである。

平成28年度実施地域

実施地域 富山県入善町 松本市(新村地区) 名古屋市
人口 26,819 243,300(3,237) 2,292,644
実施者 NPO法人工房あおの丘 地域組織、松本大学、松本市 (一社)しん
領域 障害者就労生活支援 高齢者・地域の人々 精神障害の地域支援
ファシリテーター NPOの代表者 松本大学卒業後地区に配属されたインターン生 団体のスタッフ
成果 異業種交流ネットワークの誕生と継続的開催。 2回目、3回目のWS(ワークショップ)を行い、具体的支援につながる。 参加者による行動:恋活パーティ、マルシェ、夏祭り・映画祭等


平成29年度実施地域

実施地域 黒部市 松本市 愛知県大府市
人口 412,943 鎌田地区19,426
奈川地区717
91,623
実施者 NPO法人宇奈月自立塾 松本市鎌田地区組織、奈川地区組織、松本大学 共和病院(精神科病床をもつ)
領域 子ども・若者支援 高齢者・地域の人々 退院後の患者さんの地域での支援へのつなぎ
感想・その後の進展 WSは新鮮で知ってもらう必要を感じた。事例づくりに思いをこめた。 松本大学卒業生がインターン生(松本市の協力)として地区に配属され、つながっている。 WSへの参加呼びかけによる地域とのつながりの向上。

【成果と参加者の感想】

平成28年度実施の成果については次のとおりである。

〇入善町:ワークショップ終了後主催者と参加者の有志により「BSにいかわ」という異業種交流会が設立され、その後、2、3か月に一回の頻度で継続されている。地元の新聞でもその活動が連載された。

〇松本市:新村地区では民生委員が替わったことから再度ワークショップを開催、さらに具体的な支援につながるよう3回目も開催された。

〇名古屋市:参加者の一人が障害のある人の地域での経験を増やしたいと、恋活パーティや夏祭りなどを開催。いろいろな人がかかわり、その波及効果により参加者が増加した。

平成28年実施地域の参加者に1年後に感想を聞いたところ以下のとおりである。①一年経っても忘れず、主催者から誘われたらまた参加する、という人も多い。②困りごとのある人のことへの理解がすすみ、実際には少数であるが、行動を起こした人が現れ、その行動から影響を受けた人が現れるという動きが起きたこともわかった。

なぜ参加した時の気持ちを忘れずにいるのかについては、事例の作成をとおして困りごとのある人のことを具体的に理解し、自らができる支援のイメージにつながったことが困りごとを想像し、支援の疑似体験ができたことによるものと考えられ、地域でのネットワークづくりにつながるのである。

【私が「できること」の発見】

事例は実例ではないが、実際に近い内容にして困りごとのある人とその家族構成が示され、参加者ができることをたくさん出しやすいように工夫されている。「できること」は本人だけではなく家族にも向けられるため、たくさんのインフォーマルな「できること」がポストイットに貼り出される。福祉の専門家も個人としてできることを出し合う。他の人の「できること」を見てそういうことでいいんだ、という気づきあいや自信が参加者におきる。具体的にどのようなことが出されたかというと「お墓参りに同行できる」とか、発達障害のある本人が絵を描くことが好きという事例では、「いっしょに美術館に行くことができる」とか、母親が障害のある息子と認知症の義父の負担が大きい例では、「お母さんを時々お茶に誘うことができる」とか「お父さんが家族のことをもっと考えるよう説得する」などだ。
 ワークショップはグループメンバーの途中交代により同じ事例に対して別の人が出来ることを出し合う。自分たちではこれ以上アイデアは出ないと思っていたら、他の人が追加を出しているのを見て、発見につながったり助けられた気持ちを持つことができると言える。

【今後に向けて】

厚労省の地域共生社会の実現においては、住民参加の実施が重要で、住民の意識が変わる仕組みが必要とされるので、本プログラムでは、以上のように参加者が体験することがそのニーズに応えられるものと考えられる。

今後の具体的な活動は次のとおり。

①プロモーションビデオの作成、②体験研修会の開催、③コーディネーター研修の開催。

プロモーションビデオは全国への広報のために必要である。体験研修会はこのプログラムの一部を体験してもらうためである。コーディネーター研修は、このプログラムを実施したい人に伝える人材の養成である。

さらに海外へ日本の取り組み発信し、今後それぞれの国や地域での展開につながることを目指す取り組みを検討したいと考えている。
*CBID(Community-based Inclusive Development)

ワークショップで良いと思う付箋にシールを貼っているところ

ワークショップでの付箋を貼っているところ


富山県入善町でのワークショップ風景(2016年)

ワークショップ風景

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