eスポーツと障害者

「新ノーマライゼーション」2020年10月号

一般社団法人ソーシャルインクルージョン世田谷 代表理事
望月雅之(もちづきまさゆき)

皆さん、「eスポーツ」という言葉をご存知ですか? eスポーツとはパソコンやゲーム機を使ったビデオゲームの対戦を、スポーツ競技として表す時に使う言葉です。近年、海外ではスポーツ興行として多くの観客が集まり、トップ選手に高額な賞金が支払われるようになったことで、俄然(がぜん)注目を集めるようになりました。近い将来、オリンピック種目に追加されるという期待も出てきています。日本でも数年ほど前から活発に大会が開催され、多くのチームが結成されています。ある調査では中学生男子の「なりたい職業」の第2位にeスポーツプレイヤーがランクインしました。eスポーツ産業としての市場規模は全世界で2020年に1,165億円、23年には1,758億円に達するともいわれ、成長が期待される今注目の新産業です(日本国内の市場規模は2019年で61.2億円、2023年には153億円と予想されています)。

eスポーツはパソコンやゲーム機、スマートフォンを使用するため、フィジカルスポーツに比べ障害者にとってハンデが少ない、あるいは全くないのが特徴です。障害者が健常者と同じ土俵で戦うことができるのです。また、eスポーツは一人だけでは成立しません。eスポーツをパソコンやスマートフォンなどのIT機器とインターネットを駆使し、離れた場所にいる他の人とチームプレイで協力する、対戦相手とゲームによるコミュニケーションを取りながら成果を出す行為と捉えると、これはそのまま仕事に置き換えられるのではないでしょうか。私はeスポーツが障害者の就労拡大に貢献するのではないかと考え、2年程前から活動しています。

今回は障害者とeスポーツによる就労の事例や、今後の展望・課題などをご紹介します。

まず、2019年8月にBASE株式会社が日本で初めて障害者eスポーツプレイヤーをアスリートとして雇用しました。現在2名の選手が同社に所属し大会参加などで活躍しています。プロプレイヤーとして活動するだけでなく、彼らの在宅勤務のノウハウがコロナ自粛期間の社員のテレワークに役に立ったり、社員と一緒にチームを組むことでメンバーの士気や一体感が向上したりといった効果もあったそうです。

11月には日本で初めて障害者の就労支援を目的にしたeスポーツ大会「ePARA(イーパラ)」が東京で開催されました。

12月にはビーウィズ株式会社がeスポーツコーチとプレイヤーをマッチングするサービス「JOZ(ジョーズ)」を開始し、このサービスにも障害者eスポーツプレイヤーが参加しています。また、ePARAで活躍したプレイヤーが同社に社員として採用されました。

2020年1月には史上初めて東京都が主催者に名を連ねたeスポーツイベント「東京eスポーツフェスタ」で「eスポーツにおけるダイバーシティの可能性」と題しパネルディスカッションが行われ、障害のある方がeスポーツに取り組むことで広がるさまざまな可能性や、課題にどう対応していくのか活発な議論が行われました。

その後、社会全体がコロナの自粛期間に入りましたが、eスポーツはオンラインで在宅でも参加できるという特徴を生かし、さまざまなイベントがオンラインに場所を移し開催されるようになりました。前述のePARAも2020年は完全オンラインで6月に開催され、私もパネラー及び出場選手として参加しました。観戦者はYouTube Liveでのライブ視聴でイベントに参加できました。オンライン大会では出演・出場者だけでなく、多くの裏方スタッフがSNSやチャットで連絡を取り大会の運営にあたります。ePARA2020では在宅障害者がスタッフとして運営に携わり、選手としてだけでなくeスポーツが障害者の就労チャンス拡大に結びつくことを示した大会であったといえるでしょう。そのほか、2020年6月に群馬県にオープンしたeスポーツ専攻の就労継続支援B型事業所「ONEGAME」をはじめ、障害者就労支援事業所がeスポーツを導入した事例や、障害者が参加する地方発のeスポーツ大会の開催が各地から報告されるようになるなど、2019年から2020年にかけては障害者によるeスポーツへの取り組みがその効用と共に知られ始めた時期といえるのではないでしょうか。

図 2021年障害者eスポーツ展望拡大図・テキスト

一方で課題もあります。まず1つ目は障害者プレイヤーの競技レベルの向上です。競技レベルを向上するためにはeスポーツ(ゲーム)のアクセシビリティを改善し、あらゆる人がeスポーツをプレイできるようにソフト・ハード面の工夫や配慮が必要です。重度障害者の方の中にはeスポーツが社会に向けたコミュニケーションの窓になっているケースもあり、就労に結びつくという視点だけでなくリハビリテーションやQOLの向上のためにも、障害者がeスポーツに参加しやすくなるように環境を整えることが強く望まれます。ゲーム機やパソコン、周辺機器メーカー、ゲームソフト開発会社による操作性の改善だけでなく、実際に障害のためにプレイに制限がある、できなくなっている方向けに現場で個別の調整をサポートすることも必要です。今年設立された(一社)ユニバーサルeスポーツネットワークは、体験会やオンライン相談で障害者のeスポーツへの参加を支援しています。このような支援の輪が広がることでeスポーツに参加できる障害者が増え、競技レベルの向上に繋がり、トップレベルで競えるプレイヤーが増加すると期待しています。

2つ目はeスポーツ産業が健全に発展していくことです。野球やサッカーなどのいわゆるプロスポーツ産業の収入の柱は、入場料・広告及びスポンサー収入・放映権料・グッズ売上といわれており、これらがバランスよく収益を上げることで経営が成り立っています。日本国内のeスポーツ産業の現状は売上の75%がスポンサー収入となっており、参加するプレイヤーの層を厚くすることや、プレイはしないけれど応援や観戦はする一般層の方々を巻き込む裾野の拡大が欠かせません。私は障害者eスポーツプレイヤーの活躍や、社会貢献的な側面が裾野拡大の一助となると考えます。eスポーツ産業の発展に伴い障害者の就労機会も増えていくことでしょう。

3つ目は障害者の就労に関する考え方を少し変えていくことです。障害者の就労は個人の生産性が課題となり、なかなか賃金・工賃が上がらないとういう現実があります。eスポーツとその周辺の業務は個人では成り立ちません。障害のある方が、共同作業に参加することで、チームの中でハンデを乗り越えるために創意工夫が生まれ、組織やチーム全体の生産性が向上することを示せれば、待遇の改善に繋がると確信しています。

最後になりますが、私が考えるあるべき姿は、「eスポーツの世界で障害者というカテゴリーが無くなること」です。私も大好きなeスポーツの世界でこのような未来が実現できるよう、微力ながら活動を続けていきます。

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