障害者とeスポーツの取り組み~アクセシビリティの支援と活動の広がり

「新ノーマライゼーション」2020年10月号

北海道医療センター
田中栄一(たなかえいいち)

障害者とeスポーツが話題に!

eスポーツだと、道具の工夫やいくつかのルールの変更だけで、障害の程度や有無にとらわれないで誰とでも一緒に楽しめます。これまで、このような垣根を超えて、競い合える場があったでしょうか? この利点に気づけた先駆者たちは、各地で障害者をサポートするeスポーツイベントに力を入れ始めています。共生社会を考える上で、この一緒の舞台というのはとても重要です。それは、何ができるのか、何ができないのかをお互いに気づけるからです。

eスポーツの舞台で出会えたことをきかっけに、お互いがどのように支え合うのか?を考えるスタートラインに、ようやく立てるのです(図1)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図1はウェブには掲載しておりません。

参加条件が壁に!

eスポーツ大会の中には、大会主催者が用意するキーボードやマウス、そして、ゲームメーカー公式のコントローラのみが使用を許され、使いやすいように工夫された道具の持ち込みを禁止している場合があります。これは、一般スポーツにも見られる道具の優劣による差が生じない配慮かと思われますが、もしかすると、普通のコントローラを利用できない障害者が参加を望んでいることを、大会運営やその他多くの一般ユーザーから気づかれていないことが背景にあるのかもしれません。参加条件で公式コントローラーのみ、とされている場合には、手が不自由で操作できない方が存在することにも配慮して、開催ルールを考えてほしいと思います。しかし、この参加条件よりももっと深刻な課題があります。それは、障害のある方が、そもそも、eスポーツタイトルにあるような、複雑な操作が必要な対戦型ゲームを、一般の方と同じように始められない状況にあることです。

手が不自由だからゲームができないのは当たり前!

筋ジストロフィーのような力の弱い障害の子どもたちの遊びといえば、テレビゲームが人気です。

野球やサッカーなど、身体運動の大きな活動では、クラスメイトと一緒に遊べなくても、テレビゲームだったら仲間になれます。今の彼らは、オンラインゲームで役割を分担し、チームでプレイするのにとても熱心です。お互いに声を掛け合い、普段では見られない、まるで高校生の部活動のような活気のある様子に驚かされます。うまく戦略が噛み合わなかった時は反省会。どうすれば、仲間が動きやすいように支援できるのか? 自分勝手なプレイでは決して勝てないことを学んでいるようです(図2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図2はウェブには掲載しておりません。

しかし、そんな彼らの貴重なコミュニティーの場も、身体の筋力が徐々に弱くなっていくと、動きの早い操作がうまくいかずに、だんだんと一緒に遊ぶことから遠ざかっていきます。努力が実らないこうした障害をもつ方たちは、「だって、しょうがない」と、物事への関心の低さをつくります。でもそれではもったいないと思いませんか?

ゲームアクセシビリティへの取り組み

仲間づくりの大切なツールであるゲームを始められるように、北海道医療センター(前:八雲病院)では、個々の身体状況に合わせたゲーム環境をサポートしています。

手に不自由を抱える人は、キャラクターの操作部分、アクションボタンがそれぞれ自由に配置できることがポイントです。例えば、頭や両手両足の全身の動きを使うことで、格闘ゲームでも一般ユーザーと楽しめます(図3)。最近は、技術の進歩で、わずかな目の動きを利用する視線入力デバイスでゲームができる方法も開発され、ますます選択肢が多くなり、道具を工夫すれば始められる環境が生まれつつあります。こうしたゲーム操作での配慮された工夫は、ゲームアクセシビリティと呼ばれています。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図3はウェブには掲載しておりません。

どこに相談するの?

この広がりつつあるゲームアクセシビリティですが、インターネットで工夫情報を検索しようにも、日本語では、まだ多くの先駆事例の蓄積がありませんし、実際に道具を試せる機会がありません。また、他のスポーツと同じように、身体にあった道具や方法でないと、パフォーマンスを発揮できないばかりか、かえって身体を悪くしてしまうこともあるので、自分にあったサポートが必要となりますが、国内では、そのような相談する窓口がないのが現状です。これでは、障害のある方が、ちょっとゲームで楽しんでみようと思える状況になりません。

一方、海外では、各地で障害のある方へのゲーム操作支援団体があり、長く活動を続けています(SpecialEffect:https://www.specialeffect.org.uk/)。そこでは、障害に合わせた工夫情報や道具が入手でき、自分の可能性を発見できる機会が提供されています。

以前、海外のゲームサポートしている方から、「日本の障害者は、ゲームで遊ばないの?」と尋ねられたことがあります。「海外ではSNSやブログで、ゲームが使えないことを障害者自身が発信している。でも、日本人からの発信は見当たらないよ」。文化の違いで片付けるのは簡単ですが、できないことを発信しないと、困っていることにも気づかれないし、何も始まりません。

僕たちの情報発信

eスポーツチームのメンバーは、障害のある方が容易にゲームを始められる環境を目指して情報発信を始めました。チームの吉成健太朗さんは、ゲーム内のアクセシビリティの要素をwebサイトで、まとめて公開しています(アグルゲーマーズ:https://aglgamers.com/)。彼には、せっかく購入したゲームが、操作ができなくて遊ぶのを諦めてしまった経験がたくさんありました。「ゲームは実際に使ってみないと容易に遊べるかどうかがわからない。このサイトは道標になればと思って作りました。障害の有無にかかわらず多くの人に使ってほしい」と、アクセシビリティの大切さを訴えます。また、チームメンバーの有志が集まり、ゲームやろうぜProject(https://www.gyp55.com/)で、相談にも応じられるようにしています。彼らの一致した思いは、「一緒に楽しめる仲間を作りたい」それが、原点です。

eスポーツの面白さは触れてみないと決してわかりません。ぜひ、この機会に、始めてみませんか? お気軽にお問い合わせください。

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