障がい者e-スポーツ大会の開催

「新ノーマライゼーション」2020年10月号

一般社団法人障がい者e-スポーツ協会
田中喜陽(たなかよしあき)

一般社団法人障がい者e-スポーツ協会

最近、オンラインでも取り組めるeスポーツへの関心は、新型コロナウイルス感染拡大による自粛モードの追い風もあって、どんどん高まっています。海外に比べると日本は遅れていますので、まだまだ一般の方にまで浸透するには、時間がかかるかもしれませんが、今後、オリンピックの種目などに検討されていることから、その日も近いかもしれません。

eスポーツは障がいのある方でも気軽に取り組むことができ、またeスポーツは、他のプレイヤーとかかわり、協力していく機会も多いため、そこから社会とのつながりを感じたり、社会性を身につけたりできるという点でも優れています。eスポーツは、障がいのある方や生きづらさを抱える方に幅広い可能性を秘めています。

しかしながら、既存の大会に出場するには今からはじめとなるとレベルが高すぎたり、障がいの特性によっては一緒にプレイするのが難しかったりもします。初心者や周囲を気にしがちな方でも気軽に参加でき、大会を目標としてもらうためにも、オリンピックやパラリンピックのように障がいのある方向けのeスポーツ大会を全国に広げていきたいという想いから、2019年10月に「一般社団法人障がい者e-スポーツ協会(以下、本協会)」を設立しました。

もともと本協会理事長の竹本久保が障害者就労支援施設の運営をしていたことから、そのノウハウを活かし、一般のスポーツにコーチがいるように障がい者のeスポーツでも、ただゲームをするのではなく、アドバイスを受けることによって成長していくことを感じていただけるように、またゲームの依存症にならないように心身の健康管理もしながら取り組めるように、一人ひとりに配慮した環境をつくっています。

障がい者が自分らしさを表現できる場

障がい者が目標にできる大会を実施するために、まずは本協会の事務局を置いている姉妹法人である一般社団法人カレッジの就労継続支援B型事業所「オフィスカレッジ」にご協力いただき、2020年1月に「カレッジe-スポーツ大会」を開催しました。当日の競技には「ぷよぷよ」を使用しました。

eスポーツには、直感を生かせるものや反射的にできるもの、思考力や記憶力が試されるものなど、さまざまな競技があります。「カレッジe-スポーツ大会」の選手の中には障害者就労支援施設の利用者もいたのですが、普段は10分も座っていることができない方が1時間以上も集中して競技に取り組むなど、日頃とは違った一面を見ることができ、大きな気づきがたくさんありました。

これらの気づきを活かしながら、「第1回チャレンジドe-スポーツ杯」を開催することとしました。大会開催に向けて1つ1つ課題を解決し、賞金も設定し、近隣の事業所にも呼びかけて準備を進めました。

本来は、今年4月29日(祝)に開催する予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大から参加者やスタッフの健康を第一に考え、一旦は開催を延期としました。しかし、障がいのある方々が大会でベストを発揮しようと日頃から練習を積んできたので、どのような形であっても最小人数で開催することを決めました。

第1回チャレンジドe-スポーツ杯の開催

その後、7月24日(祝)に兵庫県明石市のオフィスカレッジにて、「第1回チャレンジドe-スポーツ杯」を開催しました。当日は出場選手11名をはじめ、家族や付き添いの方などとスタッフ・関係者を含む30名程度の規模で開催しました。明石市社会福祉協議会とサンテレビジョンにご後援いただき、地域のさまざまな障害者福祉施設などから協賛をしていただきました。

一般観覧の申し込みや取材の申し込みなどのお問い合わせも頂戴していましたが、新型コロナウイルス感染拡大を考慮し安全を第一に考えて、不本意ながらすべてお断りさせていただきました。

また、新型コロナウイルス感染拡大防止対策の観点はもちろん、さまざまな障がい者が参加される大会であることから、看護師も複数名配置して健康管理に取り組みました。

開会の挨拶は、主催者である本協会の竹本久保理事長より申し上げ、その後、来賓としてお越しいただきました兵庫県明石市の泉房穂市長より、ご挨拶を頂戴しました。審判からルール説明があり、競技が開始されました。

今回の大会は「Fortnite」を使用して競技を行いました。100人のプレイヤーが最後まで生き残るために他のプレイヤーと対戦するモードで、それぞれの選手の方に3回ずつプレイをしていただき、その結果に応じてポイントを付け、ポイントの総合で順位をつけました。選手全員の試合が終了するまでに2時間半程度かかりました。1人のプレイが1時間を超えることもありましたが、参加した選手たちは、それぞれがさまざまなプレイをし、最初から最後まで真剣に取り組んでいました。

その後、結果発表と表彰式があり、閉会の挨拶で大会が終了しました。

これからに向けて

ひとくちに障がい者eスポーツといっても、あるゲームは得意でも他のゲームになると不得意であったり、また、どのようにプレイするかによって得意なものが不得意になったり、その逆のこともあり、そういったところもeスポーツの面白さだと思います。逆を言えば、eスポーツは誰でも活躍できる可能性を秘めているということでもありますし、そういった視点から指導をしていくことで、どんどん成長できると考えています。

これをきっかけにして、ゲームに関する仕事に就くことを目指してみたり、さらには社会性を身につけてeスポーツ以外の場で活躍するきっかけになることで、国連の提唱する2030年までの世界の共通目標SDGs(持続可能な開発目標)でも言われている「誰一人取り残さない社会」の実現に向けた取り組みの1つになるのではないかと思います。

本来であれば、障がいのある方が目標にできる大会をどんどん開催できるといいのですが、新型コロナウイルス感染症の終息の目途がたたない中では、社会的にも経済的にも大会の開催が難しく、次回の大会の開催は未定です。今は、新型コロナウイルス感染症の終息を願って、そして終息した時にそれぞれが自分らしいプレイをできるように、心身の健康管理をしながら一人ひとりの成長を目指して日々取り組んでいます。

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