視覚障害者がeスポーツを楽しむための課題

「新ノーマライゼーション」2020年10月号

日本視覚障害者ICTネットワーク(JBICT.Net)運営スタッフ
辻勝利(つじかつとし)

私は先天性の全盲の視覚障害者です。

子どもの頃からコンピューターゲームが好きで、これまでにさまざまなゲームで遊んできました。目が見えないことで楽しめるゲームは多いわけではありませんが、中には画面を見ることのできない私が熱中できるゲームもあります。その一つが格闘ゲームで、中でもストリートファイターは現在も私が楽しんでいるゲームの一つです。

今回は、目が見えない私が、どうやってストリートファイターを楽しんでいるのか、また、ゲームをプレイする上でどんなことを課題と感じているのかをご紹介します。

ストリートファイターでどうやって遊ぶのか

ストリートファイターは、プレイヤーと対戦相手が1対1で戦う格闘ゲームです。コントローラーの左右の矢印キーで相手がいる方向に移動し、キャラクターごとに決められた操作で技を出して戦いを進めます。

画面を見ることのできない私が敵がいる方向を知る方法は2つあります。

1.相手に向かって技が出せるかどうかを確認する。
2.相手の足音や声の音の方向を確認する。

ストリートファイターのキャラクターが使用する技の多くは、自分がいる位置から相手がいる方向に向けて技を出すためのボタンを操作しないと、出せないようになっています。例えば波動拳であれば、相手が右にいる場合は操作の最後に右矢印を押すのですが、相手が左にいると技が出ないので、自分から見て敵が左にいることが想像できます。同じ技を左に向けて出そうとしている間に敵の攻撃を受けてしまうことはありますが、基本的にはこれで敵と自分の位置関係を知ることができます。

音による位置関係の把握は、最近私がストリートファイターをプレイする時に最も重視している方法です。

ストリートファイターシリーズでは、かなり以前から画面上のキャラクターの位置関係が音のバランスの変化でも表現されています。例えば自分のキャラクターが左にいれば、キャラクターの足音や掛け声は左側から再生されます。右にいる敵の声や足音なども、右から左側に向かって少しずつ進んできたりするので、相手が自分に向かって移動してきていることがわかります。どちらかの技が決まって相手との位置関係が変わると、それに伴って自分のキャラクターの位置が右に変化したことも音の動きで把握することができます。このような音の動きを、ヘッドホンで聴き取りながらゲームを進めていくのです。

関連して、自分が操作しているキャラクターや対戦中の相手が誰なのかも、音で判断することができます。ストリートファイターⅤの場合、自分が使うキャラクターを選ぶ時は、キャラクターの選択画面でコントローラーの矢印キーを動かした後、決定ボタンを押すとどのキャラクターが選択されたのかがアナウンスされます。もしも他のキャラクターを選択したい時は、キャンセルすることで選択画面の状態に戻ることができるので、確実に自分が使いたいキャラクターを選ぶことができます。

実際の試合が始まると、冒頭に対戦相手が簡単なコメントを話すので、それを聞くことで自分の対戦相手が誰なのかを把握することができます。また、対戦中に聞こえる技の名前でも、相手が誰なのかを知ることができます。このように、少しゲームに慣れていけば、音を頼りにゲームを進めることはそれほど難しいことではありません。

現在の私のレベルでは、コンピューターが相手の時はゲームの難易度を上げても勝ち進むことができますが、オンラインでの対戦では5回に1回くらいしか勝つことができません。それだけ、世界中のプレイヤーたちが強いということなのですが、負けてしまってももっと練習して強くなりたいと思う気持ちがこのゲームを飽きさせないのだと思います。

オンライン対戦では、私が視覚障害者で音だけを頼りにゲームをプレイしていることは相手には伝わりませんし、そこには、ゲームに勝ちたいという対戦相手がいるだけ、ということがeスポーツの魅力だと思います。

私がeスポーツという言葉を知ったのは実はごく最近で、まだ大会などに参加した経験はありませんが、コンピューターを相手にしたゲームであれば私もある程度のところまで勝ち進むことができることから、しっかりトレーニングして自分の使い慣れたキャラクターの技をマスターすれば、eスポーツの大会に出て世界中の格闘家たちと戦うことも夢ではないと感じています。

テレビゲームで遊ぶ時の問題点

私がストリートファイターⅤで遊び始めたのは、2017年です。せっかくならこれまで体験したことのないインターネット対戦もできたら楽しいだろうなと思って、当時発売されていた最新版を購入しました。

パソコン上でゲームを起動すると、画面に表示された内容は私が使っている画面読み上げソフトでは全く確認することができず、ゲームのメニューにどんな項目があるのか、どうやったらゲームを進められるのかといった情報は、コントローラーのカーソルキーをどちらの方向に何度押したかといった細かい動きを一つずつ覚えて実行するしかないのが現状です。幸いなことに、コントローラーのカーソルを動かした時に小さな音がするので、その数を数えて自分が現在どのメニュー項目を操作しようとしているのかを想像することができます。

また、メニュー項目の中には、コンピューターと対戦するための「ARCADE」、2つ目のコントローラーを持っている相手と対戦する「VERSUS」、ゲームの細かい設定を変更するための「OPTION」のように、決定した項目名を声でアナウンスしてくれる項目もあるので、普段一人でプレイする時にはさほど問題を感じることはありません。とはいえ、メニュー項目も、以前プレイしていたストリートファイターシリーズと比較すると数が増えており、頻繁にプレイしなければすぐにどんな順番で並んでいたかを忘れてしまいます。

オンライン対戦をするためのメニューも、細かい設定があるので私は一人で操作することができませんが、一度画面を見てもらって設定してしまえば、一人でオンラインゲームに参加することは可能です。

ストリートファイターに限らず、独力で私たち視覚障害者が十分に楽しめるようにするためには、すべてのメニュー項目に音声によるガイドを付けるなどの改善が必要ですが、私は、今日の技術があればそれは決して不可能ではないと考えています。

最近は、私がプレイしているストリートファイター以外にも、オンラインで対戦できる格闘ゲームがたくさんあります。音を頼りにキャラクターの位置を把握したり、ゲーム中のメニュー項目を私たち視覚障害者がわかりやすい形で提供するゲームも少しずつ出てきているとも聞いています。

数十年かけて仕事や日常生活で視覚障害者がコンピューターを利用できるような技術が開発されてきましたが、eスポーツをはじめとしたエンターテインメントの領域においては、まだ私たちが十分にそれを楽しめるだけの技術がそろっていないのが現状です。

しかし、多様なプレイヤーがゲームを楽しめるような開発の取り組みは少しずつ広がってきており、近い将来、私たち視覚障害者も皆さんと一緒にeスポーツの大会を盛り上げていける日が来ると思います。

オンラインで世界中のプレイヤーと対戦できる日まで、私もしっかり技術を磨きたいと思います。

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