行政の動き-犯罪をした高齢者等に対する「入口支援」の取組について

「新ノーマライゼーション」2020年10月号

法務省大臣官房秘書課企画再犯防止推進室

1.はじめに

我が国における刑法犯検挙人員の総数は減少傾向にありますが、その全体に占める65歳以上の高齢者の割合は増加傾向にあり、平成30年においては21.7%となっています。また、平成29年に刑務所等から出所した受刑者のうち、出所してから2年以内に再び受刑のため刑務所等に入所する者の割合(2年以内再入率)をみても、全体が16.9%であるのに対し、65歳以上の高齢者は22.3%と、全世代の中でも最も高くなっています。

以上のことから、高齢者による犯罪への対策は、刑事政策における重要な課題の一つとなっています。

高齢者による犯罪の特徴として、窃盗、特に万引きが他の年齢層と比べて多いことが挙げられます。万引きのように比較的軽微な犯罪の場合、検挙されても、起訴猶予や保護観察の付かない執行猶予など、刑事施設や保護観察所による指導・支援につながらない形で刑事司法手続が終結する場合が多く、結果として、社会の中で安定的な生活基盤を確保することができず、再び犯罪に至ってしまうケースも少なくありません。

政府においては、平成28年12月に施行された「再犯の防止等の推進に関する法律」(平成28年法律第104号)や、平成29年に閣議決定された「再犯防止推進計画」(以下「推進計画」といいます。)等に基づき、関係府省庁が連携して再犯防止の取組を進めています。推進計画においては、高齢者等、福祉ニーズを有する者の再犯を防止するためには、対象者が刑事司法手続から離れた後、地域において「息の長い」支援につなげることが重要であることを踏まえ、犯罪をした者等に対する「保健医療・福祉サービスの利用の促進」を重点課題の一つとして掲げています。本稿でご紹介する「入口支援」も、高齢者をはじめとした福祉ニーズを有する者を、地域の中で適切な行政サービス等につなぐための取組の一つです。

図1 刑法犯検挙者人員(年齢層別)・高齢者率の推移(平成元年~平成30年)
図1 刑法犯検挙者人員(年齢層別)・高齢者率の推移(平成元年~平成30年)拡大図・テキスト

注 1 警察庁の統計及び警察庁交通局の資料による。
2 犯行時の年齢による。
3 平成14年から26年は、危険運転致死傷を含む。
4 「高齢者率」は、刑法犯検挙人員に占める高齢者の比率をいう。

図2 刑法犯 高齢者の検挙人員の罪名別構成比(平成30年)
図2 刑法犯 高齢者の検挙人員の罪名別構成比(平成30年)拡大図・テキスト

注 1 警察庁の統計による。
2 犯行時の年齢による。
3 「横領」は、遺失物等横領を含む。
4 ( )内は、人員である。

2.「入口支援」とは

「入口支援」とは、矯正施設(刑務所や少年院など)に入所する前の段階で、高齢又は障害のある被疑者等の福祉的支援を必要とする者に対して、検察庁、保護観察所、弁護士等が、関係機関・団体等と連携し、身柄釈放時等に福祉サービス等に橋渡しする取組のことをいいます(矯正施設から出所した後の社会復帰に向けて行う「出口支援」と対比して、手続のより早い段階におけるこのような取組を、便宜上「入口支援」と呼んでいます)。

犯罪をした高齢者や障害のある人については、

  • 福祉に関する適切な情報提供やアセスメント等を受けにくく、適切な支援にもつながりにくい
  • 生活困窮や健康不安、アルコール依存などの課題が複合的に重なり合っており、地域移行のための配慮が必要

といったさまざまな問題を有しており、これらが再犯のリスクになっている可能性があります。

法務省においては、平成25年度から、地方検察庁における入口支援の実施のための担当職員の配置や、地方検察庁と保護観察所とが連携して起訴猶予等が見込まれる者を対象に釈放後の福祉サービス等の利用に向けた調整等を実施する取組等を順次進めています。

3.「入口支援の実施方策等の在り方に関する検討会」について

法務省及び厚生労働省は、推進計画に掲げられた具体的施策の一つである「刑事司法関係機関と保健医療・福祉関係機関等との連携の在り方の検討」を行うため、平成29年度、法務省大臣官房政策総括審議官及び両省の課長級を構成員とする「入口支援の実施方策等の在り方に関する検討会」を立ち上げました。この検討会では、実務者及び有識者からのヒアリングを実施した上で、入口支援の現状・課題等を整理するとともに、それらの課題解決に向けた今後の取組の方向性等について検討を重ね、令和2年3月、以下のような課題について、検討結果を報告書として取りまとめました。

○対象者のアセスメントに関する課題

勾留中の対象者を釈放時に福祉サービス等につなぐためには、法令に基づく限られた身柄拘束期間のうちに調整を行う必要があります。そのため、対象者の特性や必要な福祉サービスに関するアセスメントを、迅速かつ的確に行うことが求められます。また、福祉サービス等につなぐことが必要と認められるケースであっても、対象者自身が福祉サービス等の利用を望まない場合もあることから、入口支援においては、本人の意向に沿いつつ、福祉サービス等の利用に対する適切な動機付けを図ることも重要です。

現在も、検察庁において、庁内に配置された非常勤の社会福祉士や、保護観察所の職員等と連携して、個々の対象者のニーズに応じた釈放後の適切な支援内容を検討していますが、今後も、対象者の動機付けを図りつつ、的確かつ迅速なアセスメントを実施するため、関係機関間において、事例の蓄積・共有等を進めていくこととしています。

○地域におけるコーディネート機関との連携に関する課題

刑事司法関係機関においては、複雑な課題を抱えるケースの福祉的ニーズに対応するための知見を十分に有していないのが実情です。また、刑事司法手続から離れた対象者を地域の中で適切な支援につなげるためには、刑事司法関係機関が、地域の社会資源を十分に把握することに加え、対象者の支援のコーディネーターとなり得る機関と連携を深めていく必要があります。

この点、矯正施設の出所者に対する支援としては、平成21年度から、厚生労働省によって事業化された地域生活定着支援センターがコーディネートを担い、出所後、適切な帰住先のない高齢者等について、速やかに必要な福祉サービスへつなぐ取組(特別調整)が行われています。入口支援においても、法務省が平成30年度から開始した「地域再犯防止推進モデル事業」で地域生活定着支援センターを活用した取組が実績を挙げていることから、今後、こうした取組を全国に普及させるための検討を進めていくこととしています。

4.おわりに

紙幅の都合上、本稿では割愛させていただきますが、令和2年3月に取りまとめられた報告書においては、このほかにも、刑事司法関係機関から福祉関係機関に対して、支援に必要な対象者の情報を円滑に提供することや、福祉ニーズを抱える犯罪をした者等を支援することについて、関係者の更なる理解を得ること等といった課題にも触れていますので、法務省ホームページに公開している全文をぜひご覧ください。

再犯防止の取組を実効性のあるものとするためには、福祉分野をはじめとする関係機関の皆様のご理解とお力添えが不可欠です。読者の皆様におかれても、再犯防止施策の動向にご関心をお寄せいただければ幸いです。


【参考資料】

 令和元年版犯罪白書による。

 令和元年版犯罪白書による。

  http://www.moj.go.jp/hisho/saihanboushi/hisho04_00039.html

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