国際リハビリテーション協会(RI)の最近の動き

(公財)日本障害者リハビリテーション協会 副会長 松井亮輔

国際リハビリテーション協会(以下、RI)は、毎年、各地域持ち回りで、年次総会、役員会および専門委員会などを開催しているが、今年は、10月30日(水)から11月2日(土)にかけてモスクワ市内のホテル・イズマイロヴォ(Izumailovo)および国家経済達成展示センター(VDNKh)の会議室で総会などが開催された。その総会にあわせ、今年新設されたRI卓越賞の表彰式などが行われた。以下では、その賞および創設4年目を迎えるRI世界障害開発基金(GDDF)およびアフリカ基金(AF)の内容を中心に紹介することとする。

会場となった国家経済達成展示センター(VDNKh)

国家経済達成展示センターの写真

1.2019年RI卓越賞の創設

RI卓越賞は、今年マカオの財団からRIに寄付された100万ドルを基金として新設されたもので、国連障害者権利条約の目的にそって、障害者の人権およびインクルージョンを推進するうえで、世界的に卓越した貢献をしてきた団体または個人を顕彰することを意図。その具体的な表彰対象としては、①人道分野、②リハビリテーション分野、および③革新的取組みが挙げられている。

この賞についてRI加盟団体に公募したところ、全体で64団体・個人の推薦があったという。9月下旬に北京で開かれた審査委員会(委員は、RI会長、事務局長および各地域担当副会長などから構成)で審査した結果、3団体・個人が選ばれ、その表彰式が11月1日夕、モスクワ市内の歴史的にも著名なホテル・メトロポール・モスクワで行われた。参加者は、受賞関係者(エチオピア、スリランカおよびエクアドルの各大使を含む。)、招待者(ナイジェリアのダンラミ・ウマル・バシャル国連障害者権利委員会委員長を含む。)、中国障害者舞台芸術団員(約100名。表彰式後の祝賀会で公演)およびRI関係者などをあわせ、全体で300名以上にのぼる。

受賞団体・個人名とその表彰理由は、つぎのとおり。
・人道分野の受賞団体:エチオピアのアルファろう学校(表彰理由:音のない世界の人びとのためのシンフォニーを作曲してきたこと)
・リハビリテーション分野の受賞団体:スリランカの眼提供協会(表彰理由:50年以上にわたり40か国以上の人びとの視力回復に携わり、顕著な実績をあげてきたこと)
・革新的取組みで受賞したのは、エクアドルのマリア・フェルナンダ・エスピノサ前国連総会議長(表彰理由:障害者の人権の国際的推進のために革新的な取組みをしてきたこと)

各受賞者には、ハイディ・ザン(Zhang)RI会長などからメダルと一緒に20万ドルの賞金が授与された。

2.RI世界障害開発基金およびアフリカ基金による障害関連プロジェクト助成

RI世界障害開発基金およびアフリカ基金は、中国のRI加盟団体である中国障害者連合会(CDPF)を通して中国政府からの寄付金500万ドルを基金に、アフリカ以外の各地域における障害関連プロジェクトおよびアフリカを対象とした障害関連プロジェクトを支援するために2016年に創設されたもの。助成対象となる障害関連プロジェクトの分野は、リハビリテーション、権利擁護、教育、雇用、福祉機器、アクセシビリティ、データ収集および研究など。同基金の審査委員会の委員は、RI会長、事務局長、財務担当役員、各地域担当副会長から構成される。

2016年から2018年までの3年間に全体で18のプロジェクトを支援している。これらのプロジェクトは、RI加盟団体単独か、あるいはRI加盟団体が他の団体と共同で企画・実施されたもので、基金からの助成期間は原則として1年で、助成の限度額は、20万ドルとされる。

2019年には第4回目の助成プロジェクトの公募(応募期間は、2019年9月1日~10月15日)が行われ、現在その審査が行われている。

同基金の助成対象となったプロジェクトの実施状況および成果のモニタリングおよびフォローアップは、これまでのところ主として香港のRI加盟団体に所属する障害分野の専門家によって行われているが、日本の関係者の協力が期待されている。実施済みのプロジェクトの成果を含む詳細については、近日中にRIのウェブサイトで公表されることになっている。

すでに実施された、または現在実施中のプロジェクトは、つぎのとおり。

(1)世界障害基金による助成プロジェクト
・障害児のインクルーシブ教育の推進(ネパール)
・障害のある女性のネットワーク構築(ブラジル)
・障害者のインクルーシブ教育モデルづくり(レバノン)
・障害のある女性の能力構築:権利擁護(インド)
・障害者のIT訓練(中国)(実施済み)
・アクセシブルICTおよびウェブベースの職業技能に関するワークショップ(マカオ)(実施済み)
・リハサービスの向上と拡大(タンザニア)

(2)アフリカ基金
・インクルーシブ雇用(南アフリカ)
・インクルーシブ教育の擁護(モザンビーク)

3.RI専門委員会の見直しに向けて作業グループの設置

RIには福祉機器(ICTA)、社会、保健機能、政策・サービス、教育、労働及び雇用および余暇・レクリエーション・身体活動の7つの専門委員会が設置されている。今回モスクワでの総会にあわせてひらかれたのは、社会委員会(10月30日(水)午前。参加者4名)と、労働及び雇用委員会のみである。後者は、ロシアのRI加盟団体である、全ロシア障害者協会と合同で「各国における国連障害者権利条約の実施状況」に関するセミナー(第1部:ロシアにおける取組み、第2部:米国、ドイツ、フィンランドおよびインドにおける同条約第27条労働及び雇用の実施状況)(10月30日(水)午後。参加者約30名。ロシア語と英語の同時通訳つき)を開催している。

他の委員会が開かれなかったのは、総会に参加したRI加盟団体関係者が全体で約50名ときわめて限られたことと、委員会の会場がいくつかにわかれており、かつ、案内の表示がなく、かなりわかりにくかったことなどによる。

こうした専門委員会の開催状況を踏まえ、専門委員会のあり方を検討するためのタスクフォース(そのメンバーは、各専門委員会委員長および事務局長から構成。座長は、事務局長)の設置が役員会で決まった。同タスクフォースは、来年9月、デンマークのオークス市で開催される第24回RI世界会議に合わせて開かれる総会までに改善案をとりまとめ、同総会に諮ることとなる。

4.第24回RI世界会議の開催

同世界会議の概要は、つぎのとおり。
・開催時期:2020年9月8日(火)~10日(木)
・開催地:デンマーク・オーフス市
・メインテーマ:社会を動かす
・登録料:早期登録(2020年3月15日まで) 740米ドル

2020年3月16日以降 880米ドル
・発表要旨提出期限:2020年1月15日
・同世界会議ウェブサイト:www.riworldcongress2020.com
(参考)1988年9月、第16回RI世界会議が東京(会場は、新宿の京王プラザホテル)で開催されている。

5.RI創設100周年記念誌の編纂と記念式典の企画

1922年に、前身組織である国際肢体不自由児協会として立ち上げられたRIが、2022年に創設100周年を迎えることから、記念誌の編纂および記念式典などを企画するため、2017年に100周年委員会(委員長は、スーザン・パーカー財務担当役員)が設置された。記念誌はハードコピーではなく、ウェブ上での公開を予定しているため、入手可能な資料(映像も含む。)を最大限収集するとともに、生存している歴代の会長、副会長、次席副会長、事務局長、各専門委員会委員長、各国の国内事務局長など、これまでRI活動(国際障害者年(1981年)、国連障害者の十年(1983年~1992年)、アジア太平洋障害者の十年(第1次~第3次、1993年~2022年)、米州障害者差別撤廃条約(1999年)、アラブ障害者の十年(2004年~2013年)、アフリカ障害者の十年(2000年~2009年)、国連障害者権利条約アドホック委員会(第1回~第8回、2002年~2006年)等での関連活動なども含む。)にかかわってきた関係者による証言なども幅広く集めることが目論まれている。

一方、100周年記念式典については、ハイディ・ザン現RI会長の要望などを踏まえ、2022年中に中国での開催が計画されている。その具体的な日時、場所および内容は、中国のRI加盟団体である、中国障害者連合会関係者とも協議しながら決められることになる。

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