韓国の新しい障害認定制度の概要

李美貞(Director of Research Institute For Together Life OKEDONGMU)

韓国政府の建物の外観写真

1.新しい障害認定制度の導入の背景

韓国では新しい障害認定制度が2019年7月から導入された。新しい障害認定制度は、1981年に制定された障害者福祉法(当時の名称は身体障碍者法)により1988年に始まった障害認定制度の問題を改善するために作られた。既存の障害認定制度は医学検査の結果をもとに障害等級を1から6まで数字を付けて示し、障害等級は福祉サービスを決める基準になってきた。

しかし、障害等級制度は障害者個人のニーズや生活の状況を反映せず、画一的に福祉サービスを提供することから障害者の不満が強くなってきた。そこで、韓国政府は2014年から障害等級制度の廃止を向け、障害認定制度を全般的に見直す計画を立て、関係分野専門家や障害者団体を集め新しい障害認定制度の改善方針を討論した。

2.新しい障害認定制度の内容

2013年から2019年初めまでモデル事業を重ね、2019年7月に新しい障害認定制度がスタートした。新しい障害認定制度の特徴は大きく次の3つである。一つ目は、6段階の障害等級を2段階の障害程度に単純化すること、二つ目は、今まで障害等級と繋がっていた障害福祉サービスを分離し、障害福祉サービスを提供するための尺度(サービス支援総合調査)を作ること、三つ目は、福祉サービスを提供する体系を変えることであった。

1)障害等級を障害程度に単純化

韓国における障害者の定義は障害者福祉法により規定されている。障害者福祉法第2条によると「障害者」とは身体的・精神的な障害により長い時間にわたって日常生活や社会生活に相当な制約を受けている者と規定されており、障害類型は15種類ある。

障害等級は今まで1から6まで6つの段階で重さを示したが、障害福祉法施行規則によると新しい障害認定制度では障害程度を「障害程度が重い障害」と「障害程度が重くない障害」の2段階に分けた。そして、混乱を防ぐため、既存の障害等級の1級から3級までは障害程度が重い障害、4級から6級までは障害程度が重くない障害に移行させた。また、重複障害については障害程度が重くない障害が2つ以上ある場合は障害が重い障害として認めることにした。ただし、肢体障害と脳病変障害が同じ部位に重複した場合、また、知的障害と自閉症障害が重複した場合は例外にした。

2)サービス支援総合調査

障害等級と障害福祉サービスを分離し、障害福祉サービスの量や対象を決める 「サービス支援総合調査」という新しい尺度を作った。サービス支援総合調査は障害者が日常生活や社会生活を営むために必要なサービスの総量を計る内容に構成されており、国際生活機能分類((International Classification of Functioning, Disability and Health;ICF)のコードを活用したものである。

サービス支援総合調査の内容は、機能制限領域(X1)、社会活動領域(X2)、生活環境領域(X3)に区分される。機能制限領域(X1)はADL関連8項目、認知・行動の特性に関して8項目、社会活動領域(X2)は社会活動関連2項目、生活環境領域(X3)は世帯の特性に関して3項目、住居環境に関して2項目など総32項目で構成されている。サービス支援総合調査の結果は機能制限(X1)と社会活動(X2)及び生活環境(X3)ごとに合計が点数として表示され、それを計算式に入れると個人に必要なサービスの量が表われる。計算式は機能制限(X1)と社会活動(X2)及び生活環境(X3)が相関関係をもつように設計された。すなわち、同じ機能制限でも社会環境が良くないほど、支援されるサービスの量も多くなる。

さらに、機能制限(X1)は特定の機能を評価するのではなく、人間に現れる身体的・精神的・認知行動的な問題をすべて調査し、どのくらい支援が必要なのか判定するように作られている。このようなサービス支援総合調査を通じて支援を受ける最大のサービス量は1日16時間である。さらに、出産、自立の準備、保護者の一時不在など一時的に支援が必要な場合は特別支援給付として時間が追加される。

韓国はサービス支援総合調査を制度化するため、2017年12月に障害者福祉法を改正し、サービス支援総合調査に関する内容(第32条4)を新設した。また、障害者福祉法第32条4の2は、サービス支援総合調査の調査内容を規定している。さらに、保健福祉部告示(第2019-119号)は、サービス支援調査の内容や点数算定方法を規定するとともに、サービス支援調査の改善のために保健福祉部に「告示改正専門委員会」を設置するよう明記している。

それに合わせて、障害者福祉サービスと関係がある「社会保障給付の利用・提供及び受給権者の発掘に関する法律」、「障害者活動支援に関する法律」、「障害者・老人等のための補助機器支援及び活用促進に関する法律」などが改正された。このような制度整備の後、2019年7月からサービス支援総合調査がはじまった。 サービス支援総合調査は、活動支援サービスの利用、補助機器の支給、施設の入所サービス、緊急安全サービス、昼間活動のサービスに優先的に適用される。

3)福祉サービスの提供する体系

障害等級制度が障害程度に代わるとともにサービスの支援尺度も新しく出来ため、サービスの提供体系も大きく変わることになった。これまでは、障害福祉サービスを希望する人は病院の診断書と障害者登録の申請書を邑面洞(日本の町村)に設置されている住民センターに提出し、その結果によってサービスを受けることができた。障害者は自ら障害者登録をし、等級をもらい、必要な福祉サービスを探す必要があった。そのため情報が手に入る人は多くのサービスを受けられるが、情報が手に入らない人はサービスを受けることができなかった。情報の格差がサービスの質や量に影響を与えている状況であった。

この問題を改善するために新しい障害認定制度では福祉サービスの支援体系を変えた。障害者登録や等級をもらう過程は同じだが、福祉サービスを受ける過程での情報の格差を解消するため、邑面洞の機能を強化した。邑面洞は、障害福祉サービスを受けるため邑面洞を訪問する障害者や障害者福祉サービスが受ける必要があるとみられる人を対象に初期相談をし、ニーズに合わせてサービスを提供する体系に代わった。初期相談でサービス希望を受けると、公的給付(基礎生活保護(日本の生活保護のようなもの))の対象者、活動支援などの対象者、深層相談の対象者にわけ、それぞれのサービスを提供している。特に邑面洞には「探して行く福祉専担チーム」が設置され、ケース管理も行っている。

3. 新しい障害認定制度の導入における経過措置

韓国政府は2019年7月から始まった新しい障害認定制度では、2020年には移動支援に関するサービス、2022年には所得・雇用支援に関するサービスにもサービス支援総合調査を拡大し、適用する計画である。

しかし、今まで慣れて来た障害等級制度がなくなり、福祉現場に大きな混乱もあり、サービスの総量が低下した障害者からの強い反発も予測され、韓国政府は2019年6月24日に「障害者サービス支援総合調査の内容及び点数算定の方法に関する告示」を作った。障害者福祉法施行規則による保健福祉部告示(第2019-119号)では、障害者団体の要求事項、サービス支援総合調査票の運営状況などの改善を検討するため、保健福祉部に「告示改正専門委員会」を設置することを明記した。

「告示改正専門委員会」は保健福祉部と障害者団体の関係者10人以内で構成され、障害者当事者は5人以上にすることが決められている。「告示改正専門委員会」では制度の改善事項を検討するとともに、告示の実施から1年以内に告示を改正し、3年ことに告示の改正事項を検討することが明記されている。 新しい障害認定制度が施行され、半年に経つため、サービス支援総合調査の運営状況などをの検討を行っており、今も新しい障害認定制度の見直し続けている状況である。

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