聴覚障害者等の電話の利用の円滑化に関する法律の解説

「新ノーマライゼーション」2020年11月号

総務省総合通信基盤局電気通信事業部事業政策課 課長補佐
甚田桂(じんだかつら)

1.はじめに

令和2年6月12日に公布された聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律(令和2年法律第53号。以下「本法律」という。)は、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化を図るため、国等の責務及び総務大臣による基本方針の策定について定めるとともに、聴覚障害者等の電話による意思疎通を手話等により仲介する電話リレーサービスの提供の業務を行う者の指定に関する制度及び当該指定を受けた者の当該業務に要する費用に充てるための交付金に関する制度を創設する等の措置を講ずるものです。

本法律は公布の日(令和2年6月12日)から起算して9月を超えない範囲内(令和3年3月11日迄)において政令で定める日から施行することとしています。本稿では法の施行に先だって、本法律の概要、現在及び今後の取組についてご説明申し上げます。

2.法律の概要

(1)定義

本法律は、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化を目的とするものであり、その主たる手段として「電話リレーサービス」に関する制度の創設等の各種措置を講じています。

「電話リレーサービス」については、上述のとおり、手話通訳者が通訳オペレータとなって手話又は文字と音声を通訳することにより、聴覚障害者等とその他の者(耳の聴こえる人、緊急通報受理機関等)の意思疎通を仲介する仕組みであり、その内容を定義しています。

図1 電話リレーサービス拡大図・テキスト

(2)基本方針

聴覚障害者等による電話の利用の円滑化を図るためには、多様な関係主体が相互に連携・協力することが不可欠です。そのため、関係主体の責務を規定した上で、それらの関係主体が、電話の利用の円滑化の意義や本法律で定める制度の趣旨を共有し、連携する必要があることから、総務大臣が策定する基本方針により、これを明確化することとしました。

なお、この基本方針を定める場合にあっては、あらかじめ、聴覚障害者等その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、厚生労働大臣に協議することが定められております。

(3)指定法人

総務大臣は、電話リレーサービス提供業務を適正かつ確実に実施することができる一般社団法人又は一般財団法人を、その申請により、「電話リレーサービス提供機関」(以下「提供機関」という。)として全国を通じて一個に限り指定することができることとするとともに、所要の業務規律を設けることとしました。

また、電話リレーサービス提供業務に要する費用に充てるための交付金を提供機関に交付することとし、当該交付金に係る負担金については、総務省令で定める基準を超える電話提供事業者に納付を義務付けることとしました。その際、総務大臣は、負担金を徴収し提供機関に交付金を交付する業務を適正かつ確実に実施できる一般社団法人又は一般財団法人を、その申請により、「電話リレーサービス支援機関」(以下「支援機関」という。)として全国を通じて一個に限り指定することができることとするとともに、所要の業務規律を設けることとしました。

(4)交付金

提供機関が電話リレーサービス提供業務を行うに当たり、電話リレーサービスの利用料金は、耳の聴こえる人の電話料金と同等の水準とすることを想定しているため、提供機関は、通訳オペレータの人件費をはじめとするコストを十分に回収できず、その収支は赤字となることが想定されます。

このような前提に立ち、電話リレーサービスの適切かつ確実な提供を確保するため、支援機関は提供機関の業務に要する費用に充てるため、交付金の交付を行うこととしました。

なお、交付金の額については、提供機関の電話リレーサービス提供業務に要する費用の予想額及び電話リレーサービス提供業務により生ずる収益の予想額等に基づいて算定を行った上で、電話リレーサービス支援業務諮問委員会の議を経て、総務大臣に交付金の額及び交付方法を申請し、認可を受けることとしました。

図2拡大図・テキスト

(5)負担金

提供機関が、本法律に基づく交付金の交付を受けて電話リレーサービスを提供することは、聴覚障害者等による電話の円滑な利用を可能とし、これまで以上に聴覚障害者等と耳の聴こえる人との間の通話を容易なものとすることにより、電話の役務の利便性を高めることとなるため、電話提供事業者は、新規の電話利用者の獲得や既存の電話利用者の通話量の増加等による利益を受けることになります。このため、受益者負担の考え方に立って、電話リレーサービスの提供業務に要する費用に充てられる交付金の原資となる負担金については、電話提供事業者に負担させることとしました。

(6)電話リレーサービス支援業務諮問委員会

電話リレーサービス提供業務に要する費用については、特定電話提供事業者等の負担を軽減する観点から、可能な限り効率化が図られるべきである一方、支援機関が電話リレーサービス支援業務を適正かつ確実に実施する上で十分な費用が適切に交付されることが重要です。

このため、交付金の額及び交付方法、負担金の額及び徴収方法等について総務大臣による認可に係らしめているところでありますが、当該認可の申請に先立って、これらの内容を、専門的知識を有する者が客観的・中立的な立場から事前に審議することで、より適正性を担保できると考えられます。

このため、支援機関に電話リレーサービス支援業務諮問委員会を置き、同委員会は、支援機関の代表者の諮問に応じ、交付金の額を調査審議し、意見を支援機関の代表者に述べることができることとしました。また、同委員会の構成員については、電話提供事業者及び聴覚障害者等の福祉に関して高い識見を有する者その他の学識経験者であって総務大臣の認可を受けて支援機関の代表者が任命した者とすることとしました。

3.現在及び今後の取組

総務省では現在、本法律を施行するため、その施行に関する事項を定める、聴覚障害者等の電話の利用の円滑化に関する法律施行規則(総務省令)や基本方針等の制定に係る手続きを行っております。基本方針の策定に当たっては、聴覚障害者等その他の関係者の意見を聞くためのヒアリングを令和2年9月10日に実施しました。そして、同年9月から10月にかけて、基本方針を含む省令及び告示を制定するため、行政手続法に規定されている意見公募手続きを行いました。

今後本法律や基本方針等の関係法令が施行されたのち、法令に基づき、提供機関や支援機関の指定や、交付金の額等の認可等、サービス開始のための所要の手続きを進める他、総務省その他の関係者による周知広報を行い、令和3年度中に公共インフラとしての電話リレーサービスの提供が開始されることを目指して、取組を進めていくこととしております。

4.おわりに

本法律が、聴覚障害者等の自立した日常生活及び社会生活の確保に寄与し、もって公共の福祉の増進に資することを期待しております。

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