電話リレーサービスの利用で変わるろう者の暮らし

「新ノーマライゼーション」2020年11月号

一般財団法人全日本ろうあ連盟理事
小椋武夫(おぐらたけお)

わが国における「電話」とは、電気・水道等と同様に、日常生活には欠かせないインフラであり、100年以上の長きにわたって、人々の命や生活を守るツールとして、社会の大切な役割を担ってきました。

その一方で、「電話」は音声による伝達を主としており、手話言語や文字で情報を伝えたり受けたりすることはできませんでした。そのため、きこえない人は生活において「電話」を利用することができず、緊急通報にも制限が生じることから、遭難や事故が起きた際に通報できずに命を落とすこともありました。

「電話リレーサービス」は、きこえない、きこえにくい人が自分のことばである手話言語や文字できこえる人とつながることができる仕組みです。30年前から世界各国では公的インフラとして「電話リレーサービス」がすでに導入されており、G7主要国では日本だけが未導入でした。

全日本ろうあ連盟は日本財団とともに、2016年から「電話リレーサービス」の制度化への検討や啓発に向けて取り組み、省庁に働きかけた結果、「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律」が国会に上程され、2020年6月12日に公布されました。

2021年度中にも公的な「電話リレーサービス」がスタートし、きこえる人と同じように電話をいつでもすぐにかけたり受けられたりすることができるようになります。「電話リレーサービス」で、きこえない人の生活がどのように変わるか一例を表にしてみました。

「電話リレーサービス」で、きこえない人の生活が変わること(一例)

  【出来事】 【従来】 【電話リレーサービス活用でこう変わる】
子供が高熱を出して、病院と学校に今すぐ連絡する必要がある 救急車も病院への電話も学校への連絡も困難で、結局近くの人かFAXで病院に連絡も、反応が遅く、学校は無断欠席に。 すぐに診療が受けられた。学校の担任の先生に子供の様子を細かく説明できてよかった。
宿泊予定のホテルに到着が遅れることを連絡したい 急な仕事や予定で到着が遅れるだけなのに無断キャンセルに。また、宿泊できても夕食が終了していることも。 到着時間と夕食時間の変更を連絡でき、ゆっくりホテルで夕食をとることができた。
運転中に車が故障して立ち往生、ロードサービスに連絡したい メールでの連絡ではいつ返事が来るのか不安。交通の妨げにもなり周囲に迷惑をかけてしまう。 故障した車の状態も説明でき、何分後に来てもらえるかもわかって安心して待てる。
カバンを電車に置き忘れたので、届けられているか確認したい 駅の窓口はメールできずすぐに確認できない。お金もないから帰れない。 駅でカバンを預かってくれていることがわかった。貴重品も入っているから安心した。
テレビショッピングの商品が欲しいが、函面には電話番号だけ 欲しい商品があるのに注文ができない。限定品や特別割引商品は早く注文しないと売切れて購入できない。 売り切れになる前に欲しい商品を注文できた。安く購入できる。
メールやFAXがない高齢者へも電話で連絡がとりたい 離れて暮らすおばあちゃんに連絡ができない。直接話して元気か確認したい。 久しぶりに直接連絡できて喜んでくれた。家に遊びに来る約束もできた。
FAXだけでは相手に届いているのか不安 注文は送信先ではしっかり受け取っているのか、いつ返事がくるのかわからず不安。 注文が受理されたことがすぐに確認できて安心。仕事も早く進められる。

病院や宿泊施設の利用、交通機関の手配・対応、買い物対応、FAXのない高齢者などへの連絡、業務での注文等の利用など、生活のあらゆる場面できこえない、きこえにくい人も「電話」ができることで、日常生活が豊かになるだけでなく、緊急通報も可能になります。

しかしながら、この法律はまだ成立したばかりであり、これから制度をどのように充実させていくか、きこえない人々の声を届けていくことが重要です。

加えて、国民に広く「電話リレーサービス」の存在を広め、きこえる人ときこえない、きこえにくい人双方が円滑なやりとりができるようにしていくことも大切な取り組みになります。

また、きこえない私たちも、「電話」を使うことに慣れ、「電話リレーサービス」をより使いやすいものにするために「電話」の使い方やマナーに関する学習を重ね、「電話」を活用できる力をつけていくことが必要になります。

私たちは、きこえない当事者団体として、これらの課題の解決に取り組み、「電話リレーサービス」が公的インフラとして円滑に実施されるよう、活動していきます。

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