電話リレーサービスの使い方を学び、自分の意思で社会とつながりを作るきっかけに

「新ノーマライゼーション」2020年11月号

全国ろう重複障害者施設連絡協議会 会長
渡邊健二(わたなべけんじ)

1997年に設立した『全国ろう重複障害者施設協議会』は、主として聴覚障害に加えて知的障害・精神障害等さまざまな障害のある人々が利用する施設が相互に連携と親睦を図り、ろう重複障害者福祉業務の向上に寄与することを目的として施設間の協力体制を確立し、聴覚・ろう重複障害者福祉充実のための運動を展開しています。

北海道から沖縄まで60事業所が加盟し、利用者1700名が在籍しておりますが、電話リレーサービスが利用者の暮らしにどのような影響をもたらすか、また当協議会として期待することや今後の課題を述べます。

利用者の多くは聴覚障害と他の障害を併せもつ人々で、彼らのコミュニケーション手段は多い順でいうと手話が66.8%、身振りが11.9%、筆談が4.8%で、次に指さし、触手話等となっています(2020年当協議会基礎データ調査)。

コミュニケーションや理解に困難がある利用者で携帯電話を保有している方は多くありませんが、スマートフォンを保有している利用者にとっては電話リレーサービスができることにより社会参加が一層進むと思われます。今まで病院やお店などの予約を施設の職員等にお願いしていたことを、電話リレーサービスを利用して自らで行うようになるでしょう。

いくつかの施設で携帯電話を保有している利用者の方々に伺いました。

30代の女性利用者は「メール内容を家族に勝手に見られるし、行きたいお店の予約をしたくても自分では電話ができないからプライベートが筒抜けで嫌だ」とのことです。20代の男性利用者はパソコンでインターネットを楽しんでいますが、「ガラケーだし電話が必要な予約は家族や施設職員にお願いするから必要ない」と電話リレーサービスを使う考えがないようです。また60代の女性利用者は「携帯電話を持ったことがない。興味津々だけど文章も話すのも苦手で使い方がわからない」と消極的な意見もありました。

連絡やコミュニケーションツールとして利用できることは喜ばしいですが、携帯電話を持たない人や通訳介助が必要なろう重複の人にとって、電話リレーサービスを利用することは、まだ多くの社会的制約があると思います。

今後はそのような利用者に対して、電話リレーサービスについての情報提供や使い方の説明をしたり、携帯ショップで聴覚・ろう重複障害者向けのスマホ教室を開催したりすることによって、一人の人間として仕事も活動も自由に行動ができるようになり当事者が自分の意思で社会とのつながりを作ることができるのではないかと期待しています。

一方で、利用者がスマホなどを保有することにより、通話料や通信料、端末代金などの関連支出が大きくなることが予想されます。

また、実際に一般の人の場合にも起きているように、利用者が電話リレーサービスで同じ人に必要以上に何回も電話をかけたり、高額な商品を注文したりするというようなことが起こるのではないかと危惧されます。もちろん悪質な勧誘や特殊詐欺(オレオレ詐欺、架空請求詐欺等)の被害に遭うなど、トラブルに巻き込まれる可能性もあります。

トラブルから聴覚・ろう重複障害者の身を守る法的な仕組みを構築し、電話リレーサービスの利用時のマナーも含めた学習教育を行い、トラブルが起こりにくい環境を整えることが今後の課題と考えます。

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