電話リレーサービスに期待すること

「新ノーマライゼーション」2020年11月号

一般社団法人日本手話通訳士協会 副会長
高井洋(たかいひろし)

「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律」が成立し、2021年度中に電話リレーサービスの提供が開始されるようになります。これも長年の全日本ろうあ連盟をはじめ関係団体の取り組みのおかげによるものだと思います。

日本手話通訳士協会としても、手話オペレーター(以下「オペレーター」という)を含め手話通訳者の役割の大きさを感じ、現任の手話通訳者が研鑽を積める環境を作っていかなくてはと考えています。

電話リレーサービスの制度は、聞こえない人にとっても聞こえる人にとっても使いやすく、より評価の高い制度になってほしいという思いから、期待することと課題をお伝えしたいと思います。

当然のことながらオペレーターの評価は、制度全体の評価に大きく影響します。オペレーターの質の向上に向けて、オペレーターが安心して業務に取り組めるよう下記の点がその留意点となると考えます。

正規雇用による働き方

日本の手話通訳制度は長い間、手話通訳者の熱意で支えられてきた歴史的背景があります。身分保障は、日本の手話通訳制度の全体の課題ではありますが、まずはオペレーターに対して、安定した身分を確保し、24時間365日安定したサービスが提供できる体制を用意する必要があります。熱意だけで継続できる業務とは思えないからです。よって、オペレーターの正規雇用を前提とし、業務に従事できるようにすることが求められます。

安全衛生

現在の手話通訳制度においても、手話通訳者の健康問題は重要な課題としてあります。労働災害の上肢障害の発症例の上肢の反復動作の多い作業として手話通訳作業があげられていることに留意する必要があります。24時間365日を支える手話通訳者の健康問題は重要であり、この問題解決なくしては制度として成り立ちません。

現任研修体制

これからオペレーターを担う人は、手話通訳士、または一定の評価を得た手話通訳者が担うべきと考えます。しかし、現在の手話通訳者養成では電話リレーサービスに特化した学習がありませんでした。これまで日本財団で行ってきた電話リレーサービスにおける諸課題を研修に生かし、より質の良いサービスにすることが重要です。

以上のことを、サービス提供事業所の責任で行われることを願います。また、このことがオペレーターのガイドラインに盛り込まれることが大切です。

聴覚障害者のニーズ

今まで行われていたモデル事業は聴覚障害者を主な対象としていたので、聴覚障害者のニーズに基づいてサービスを提供していましたが、これからは聞こえる人も使えるようになります(聞こえる人から聞こえない人に電話ができるようになります)。電話利用の経験が乏しい聴覚障害者と聞こえる人をつなぐサービスとして発展させるために、聴覚障害者に対して電話利用についての丁寧な説明と、あわせて社会に向けてこの制度をPRしていくことがより効果的であると考えます。

サービス提供機関に求めること

提供機関の事業所評価を高めるためには、より良質なオペレーターが必要となります。先述したように、オペレーターの正規雇用や安全衛生、資質向上のための事業所による研修、オペレーター自らが学べる環境の整備などを進めることにより、質の高いサービスを提供できると期待しています。

最後に

情報通信機器の発展により聞こえない人が多くの機会を得て、力を発揮していくことは喜ばしいことです。しかし、電話リレーサービスがすべてを網羅するものではなく、手話通訳制度と電話リレーサービスの双方の充実が、聞こえない人の生活には欠かせないのです。聞こえない方々の社会生活が充実していくことを願っています。

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