電話リレーサービス~文字オペレーターの役割と養成について~

「新ノーマライゼーション」2020年11月号

特定非営利活動法人全国要約筆記問題研究会 理事長
山岡千惠子(やまおかちえこ)

2021年度中に電話リレーサービスが開始されるようになります。聴覚障害者と離れた相手がリアルタイムで双方向のやり取りができることは大きなメリットがあります。聴覚障害者が安心して利用でき、一人ひとりのニーズに応えられる公共インフラ構築のため、文字オペレーターの役割を考えてみます。

1.文字オペレーターの役割とは

2019年12月6日、総務省から「公共インフラとしての電話リレーサービスの実現に向けて~電話リレーサービスに係るワーキンググループ 報告~」が公表されました。この中で、手話オペレーター、文字オペレーターは通訳の位置づけで捉えられています。

文字オペレーターは、相手の音声情報を文字に変換し、聴覚障害者に伝えることで双方向のコミュニケーションを成立させます。聴覚障害者が利用する点で、単なる音声の文字変換作業ではなく、支援の側面を伴うと考えられます。文字オペレーターは、短時間のやり取りで、利用者の聞こえや読み書きの能力の程度などを把握し、一人ひとりの状況に応じた通訳を行う必要があります。それには、聴覚障害者の心理や生活文化の知識、音声言語と文字言語の特性などの知識に加え、通訳として守秘義務や倫理観も求められます。こうした知識や技術が十分でなければ、聴覚障害者と相手双方に誤解を生じさせ、混乱を招くことにもなります。聴覚障害者が安心して依頼できないばかりか、聴覚障害者への誤った認識が社会に広まる懸念さえあります。文字オペレーターには聴覚障害者支援の視点が必要といえます。

2.要約筆記者の位置づけ

要約筆記事業は、長い間、ボランティアとして中途失聴、難聴者支援を行ってきましたが、2000年に第二種社会福祉事業に入りました。

障害者総合支援法では意思疎通支援事業従事者として位置づけられており、厚生労働省から通知された84時間を必須とした「要約筆記者養成カリキュラム」で、都道府県を中心に養成が実施されています。修了者は、全国統一要約筆記者認定試験に合格し、都道府県、市町村に登録して派遣に応じます。

つまり、要約筆記者は、聴覚障害者を支援する通訳として一定の専門的な知識と技術を有しているといえます。

3.要約筆記者の活用

先に述べたように、文字オペレーター業務で重要なのは、聴覚障害者と相手の間で、双方向のコミュニケーションを成立させることです。これは、要約筆記者が行っている業務と相似関係にあるといえます。

そこで、全国要約筆記問題研究会(全要研)では聴覚障害者情報提供施設職員である会員の協力を得て、文字オペレーターに必要な専門的な知識や技術内容を洗い出しました。その結果、全国統一要約筆記者認定試験合格者を対象に、10時間から12時間程度の研修時間で効果的、効率的な養成が可能との結論に至りました。要約筆記者養成は都道府県の必須事業として全国で実施されています。パソコンコースの受講者が一定数いることから、要約筆記者として登録後、希望者に文字オペレーター養成研修を実施すれば、電話リレーサービスでも継続的に人材確保ができ、事業の安定化につながります。

4.サービス充実に向けて

ほとんどの中途失聴者、難聴者は自ら発話し、補聴器や人工内耳等で音声情報を入手しています。聞き取りは不十分なため、要約筆記等の文字情報で補完して情報を確実なものにします。

現在の電話リレーサービスは手話と文字だけです。音声で対話しつつ、文字オペレーターが補完する方法も加えれば、中途失聴者、難聴者が使いやすくなります。文字情報の利用方法を熟知する要約筆記者なら、一人ひとりに合わせた文字化の対応も可能です。

要約筆記者の知識、技術、経験値を生かすことは、既存の社会資源の有効活用です。全要研は多方面への働きかけを継続し、要約筆記者の活用を実現したいと考えています。

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