障がいのあるなしにかかわらず平等に成長の機会あり~株式会社カシマの合理的配慮の取り組み~

「新ノーマライゼーション」2020年12月号

株式会社カシマ 代表取締役
米田一夫(よねだかずお)

事業内容

株式会社カシマは、株式会社ノーリツのグループ会社であり、主にお風呂のお湯を沸かすなど、ご家庭内へ温かなお湯を提供する給湯器に使用される金属部品をプレス板金・溶接・組立・加工を受け持っているメーカーです。「新しい幸せをわかしつづける企業」として運営しており、社員数は68名で、うち障がいのある社員数は15名です。内訳は精神障がい7名、知的障がい6名、聴覚障がい1名、高次脳機能障がい1名となっております。

障がい者雇用の経緯

2010年水戸高等特別支援学校様より現場実習のご相談をいただき、実習生として受け入れるところからスタートしました。所感として「繰り返し作業を持続する能力は高く、素直で実直である」「作業スピードは少し遅いが、慣れることで解決できそうだ」との思いから即決で採用を決定し、障がい者雇用へと舵を切り、今年で10年目を迎えるまでになりました。

採用までの流れ

当社は採用面接時に第三者(当人の特性を理解されている先生方、支援員の皆様)を交え、応募者の個性・特性を理解することからはじめ、実際に作業をしていただく職場を中心に工場を視察してもらい、その後徹底的にヒアリングを行い本人の感触を確認していきます。会社側で採用可否の判断が難しい場合、本人の意思も聞きながら実習の延長を行うなど、最終的にはさまざまな評価と判断により採用の決定を行います。

合理的配慮

1.「見える化」「手順化」「繰り返し化」

正しい作業をしてもらうための工夫として、写真付きの作業手順書を作成しています。作業手順書は、作業の内容、順序、注意ポイント、加工後の品質確認ポイントなどについて写真を多用し、誰でも目で見て分かるように工夫した標準書に仕上げていきます。これを基に作業の順序を守り、各ポイントをチェックし、繰り返し作業することで標準作業を習得できます。品質の判断基準は写真を見ることによって理解できるため、作業が停滞せず進められます。会話の苦手な障がいのある社員にも安心して作業をしてもらえるよう、さまざまな工夫を凝らしています(写真1)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

2.完成品のストア(棚)の製作と「背番号化」

お客様からの注文に対して、完成品を倉庫から取り出すピッキング作業は、1,500以上の総点数から選択する必要があり、長年の経験、記憶力と個人の力量にほぼ頼っており、専任者しか作業できず他の社員に教えることもできないのが現状でした。部品の品番は6桁(例:411940)と桁数が多く、品名も類似する部品(例:消音器HZK、消音器HZMなど)が複数あることから誤出荷を多数発生させ、お客様にご迷惑をおかけしたこともありました。これらの難しい作業を簡易化し、障害のあるなしににかかわらず作業ができるように「目で見て分かる」「作業の順序を決める」「繰り返し作業ができる」環境とする必要がありました。まず、6桁の品番を4桁の「背番号」として採番し直しました。これをお客様とも共有し、注文書にも反映してもらいました。このことで「背番号」だけを見て判断するピッキング作業が可能となり、非常に簡単でミスもなくなりました。あわせて部品の定置化、投入口と取出口を区別し先入先出ができる部品棚を製作、部品ごとの間口(コンビニのジュース棚のイメージ)に番地として「背番号」を表示し、番号順に棚を並べました。この改善により、障がいのある社員でも間違いなくピッキング作業ができるようになりました(写真2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

3.本人の得手/不得手を見極めた配置転換

作業をしてもらう中で不得手であるが故に「スピードが遅い」「不良品を作ってしまう」「休みがちになる」等さまざまな事象が起きます。上手くできない理由は「やりづらさ」「難しさの感触/感覚」であり、それらは人それぞれ違い、それを克服するためには我々スタッフが真因を見つけなければなりません。まず本人と話し合い、「作業環境」「道具」「作業ポイント」「作業配分」の改善にチャレンジします。すると徐々に得手/不得手が見えてきます。それらのチャレンジも報われなかった場合、不得手作業と判断し、得手(向いているのでは)と思われる作業を探し本人と話し合い、合意の上で配置転換を行い新たな作業に取り組んでもらいます。次の部署で作業の上達が見受けられた時にマッチング成功と判断します。

これらは、障がいのある社員本人、一緒に改善を進めたリーダー共々成功体験として、次へのモチベーションアップ、さらに「働きがい」へと繋がります。

4.社内行事(レクリエーション)

社内では、3月霞ケ浦・北浦地域清掃大作戦ボランティア活動、4月花見をしながらのバーベキュー、かすみがうらマラソン大会での給水ボランティアとバーベキュー、6月ノーリツグループの運動会、7月有志による社員旅行、8月サマーフェスティバル(暑気払い)、12月忘年会など、社員同士が仕事以外でもコミュニケーションを深めるための行事を積極的に行っております(写真3)。その他に障がいのある社員に対して約3か月に一度行っている部門長とのランチ会は、ざっくばらんな雑談から困りごとや悩みごとを聞く機会になっています(写真4)。食後には必ずアンケート用紙を配り、ランチ会で話せなかったことや感想を記入してもらい、彼らが普段思っていることを引き出す活動をしています。社内で手助けできることは改善を含めて即対応し、解決できない問題は支援機関等に相談しています。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3・4はウェブには掲載しておりません。

支援体制

役員をはじめ総務を管轄する部門長には「障害者職業生活相談員」「企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)」の資格を取得してもらい、障がいの特性について理解を深め、個人の能力差を埋める配慮ができる体制づくりをしています。また、障害者就業・生活支援センター、グループホームの職員様と常に連携し、問題があればご家庭への連絡、学校への相談、場合によっては市町村障害福祉課様に協力をお願いし、問題解決に努めています。

今後の課題

今後、障がい程度が進み、作業能力が衰えることが考えられます。通院している方、薬を服用している方も今のところ全員問題ありませんが、健康状態については上司、同僚が目配りをしていく必要があります。障がいが進み作業能力が低下し、配置転換等で解決できなくなった場合に新たな職場を作り出す必要があると考えています。

いずれ、定年を迎えることになりますが、その後も違った側面からサポートができる体制を会社として考えていき、一生涯、彼らと少しでも繋がりが持てるようなカシマであり続けたいのが経営者としての想いです。

今後も、思いやりがあり、配慮のできる人材を育成し、障がいのあるなしにかかわらず「社員が生き活きと働き続けられる会社」を目指し努力してまいります。

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