白百合女子大学ウェルネスセンター:「重度訪問介護利用者の大学等修学支援事業」の認定障害学生と3年間の取り組み

「新ノーマライゼーション」2020年12月号

白百合女子大学ウェルネスセンター 総務部管財課 障害学生支援担当
宮林聰光(みつばやしあきみつ)

白百合女子大学とウェルネスセンターの紹介

白百合女子大学(以下、本学)は、フランスのシャルトル聖パウロ修道女会を母体にもつカトリック大学です。本学は1965年に調布市にキャンパスを構え、同時に短大から大学に改組され現在に至ります。

ウェルネスセンター(以下、センター)は、2017年4月に健康相談室、学生相談室、学生寮を統括する組織として発足しました。同時に、体や心に悩みをもつ学生や障害のある学生たちの相談窓口機能も担当しています。発足より丸2年かけて関係する規程、マニュアル、ガイドライン、各種様式類を整備し、その一方で個別に学生と時間をかけて面談し、支援や配慮についての連携や専門委員会での情報共有など、教職員との連携を積極的に展開しています。

重度障害者の受け入れ

センターが発足してすぐ、2017年秋に本学大学院文学研究科フランス語フランス文学専攻(以下、仏文専攻)教員から、「重度の障害のある車いすの学生さん(以下、Mさん)が、来春大学院に入学する予定である」ことを唐突に聞くこととなりました(※障害は、上下肢障害と高次脳機能障害の重複障害でした)。

その時点では、まだマニュアルも様式も何もなく、とにかく話を聞くために、入学前に一度打ち合わせをすることだけが決まりました。それまでも身体障害の学生の受け入れはあったものの、支援や配慮内容の公的な記録は残っていませんでした。

Mさん入学直前の2018年3月20日に、事前打ち合わせをすることになりました。Mさんと全国障害学生支援センター代表のTさんが来学しました。私たちは、そこではじめて「重度訪問介護利用者の大学等修学支援事業」(以下、修学支援事業)のお話を聞き、「Mさんはこの事業の要件に該当するので、認定に向けて力を貸してほしい」とTさんから強く依頼されました。幸いにも本学は修学支援事業の組織要件を満たしていたので、何とかご期待に応えようとセンター所属の教職員一丸となってこの日から動き始めました。

入学後

大学院仏文専攻の専攻主任教員と、早速情報を共有しました。Mさんの当初からの懸案事項であった、3~4年でじっくり学ぶという点も、専攻主任教員には事情も含めてご快諾いただきました。

ここからは、すぐに入学、授業となります。とりあえず、1.介助者の待機場所確保、2.授業の録音や板書の撮影許可、3.本人に時間割を送付、4.入学式は車いす専用場所で参加、5.その週の授業で早速課題が出たので、学内パソコンを使い印刷、6.指導教員を決める橋渡し、7.教務にその届出を行い、8.事前に図書館担当者と電話やメールのやり取りを行い、希望する本を図書館受付まで持ってきておく段取り、9.健康相談室の看護師との面談と医療情報共有の橋渡し、まで、センターでフォローしました。

一方、本学ではすべての手続きや連絡事項をメールで行うため、個人のID(メール)とパスワードを使用することになります。Mさんと、学内共有スペースにある学生さんが専用で使えるパソコンに何度も一緒に行き、パスワード登録のほか、イントラ、メール、緊急連絡先の登録など、Mさんが大学からの情報を収集できるように支援しました。Mさんがとても頑張ってくれたことが、その後の順調な履修や支援につながったように思います。

授業当日の朝に、トラブルでMさんから私あてにSOSメールなどもありました。仏文専攻の事務職員が教員に伝言をするなど、私たちとMさんの間に入っていただけたので、入れ違うことなく意思疎通ができたことも大きかったです。また、夏の猛暑日は通学すらも危険ですから、朝からメールをやり取りし、提出予定の課題をもらい、センターで印刷し、仏文専攻の事務職員から教員に渡してもらうといった臨時措置をしたことなど、良い思い出ばかりです。

その他のトピックスを、2つほどご紹介します。

調布市福祉健康部障害福祉課(以下、調布市)との打ち合わせ

2018年6月に調布市のご担当者様と、修学支援事業の認定について、大学側で検討及び予定している支援内容を一覧にして打ち合わせをしました。

Mさん本人、前述のTさん、支援事業所の代表様にも事前に原案を見てもらい、アドバイスもいただきました。支援関係者が多岐にわたるので、事前に意見交換しておくことは大事なことでした。

調布市のご担当者様は、本学の取組内容を前向きに受け止めてくれ、無事にMさんは認定されました。

この後も年度末に報告と翌年度計画の提出には、調布市をMさんと2人で定期訪問しています。

2020年度は遠隔授業となったため修学支援事業が使えなくなりましたが、調布市のご担当者様には介助時間数の相談にものっていただきました。特に、遠隔授業は、授業前後に教員や履修学生からメールで届く資料の印刷をする必要がありました。Mさんは上下肢障害があるため、その印刷物をプリンターから取り、机上に並べる作業が非常に煩雑になっていることが前期終了時点の定期のやり取りでわかりました。そのため後期からは、その印刷にかかる時間にも介助の方にいてもらうようにするなど、調布市のご担当者様には、授業前後に介助が必要となることにご理解をいただき、自宅での授業受講に関わる介助時間の調整にもご尽力いただきました。

前期後期の履修情報交換と定期面談のドッキング

日本学生支援機構様(以下、JASSO)が、無料で障害学生支援担当者向けの研修をいくつも開講しています。これをできる限り受講し、その中で「支援学生との定期面談」が重要であることを学びました。

Mさんに対しては、前期後期の履修を考える時期(年2回)、履修についての情報交換を定期面談と兼ねる形で実施しました。これは非常に有意義で、2年目からは面談というより「最近どう?」という、友人のような会話になっていったことが印象深かったです。この定期面談により、信頼関係が徐々に築かれていきました。

その他、この面談から端を発した学内奨学金の受給手続きもセンターでフォローしました。

おわりに

障害学生支援は、担当者の人間力・臨機応変力・現場力(フットワーク)が非常に問われる業務であることを痛感しています。JASSOの研修はもちろん役に立ちましたが、同じ障害名でもみなさんそれぞれが個別の悩みを抱えています。

障害学生支援担当者は、障害学生に対する気づきや理解のために、日々の生活の中で特に人間力を高める努力が重要で、日常生活や余暇活動も支援能力向上の機会となります。

一方、センターとしては、教職員との連携、委員会活動を通じて、学内理解が進んできたことや障害学生支援の大まかな流れが作れたことは大きな収穫であったといえます。

今年の遠隔授業は通学の心配がないので、ともすれば障害学生支援担当者は遠隔授業の方が楽でいいと思うかもしれません。ですが、私たちは少しでも通学を再開してもらい、また学内でMさんと直接お話をしたいと強く願っています。

入学時、Mさんは手の力がほぼ入らないためパソコン操作に苦労していましたが、毎週の課題提出を経て、今はキーボード操作にだいぶ慣れてきました。

私たちは、本年度末に無事にMさんが修士課程を卒業できることを、楽しみにしています。

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