患者さんと家族の想いに寄り添う~早良病院における合理的配慮の取り組み~

「新ノーマライゼーション」2020年12月号

早良病院 医療ソーシャルワーカー
中川美幸(なかがわみゆき)

1.早良病院の概要

早良病院(以下、当院)は、福岡市の西、かつて炭鉱で栄えた場所にあります。当院のすぐそばには、初詣や桜の名所である愛宕神社があり、自然環境にも恵まれています。加えて、現在、当院の周りは、昔からの住宅や商店が残る地域と、新しい集合住宅を含む住宅地や巨大ショッピングモールがある地域が混在しています。このような場所にある当院の歴史は古く、大正時代に早良炭鉱付属診療所として誕生し、戦後事業所病院として再出発しました。そして時代と共にかたちを変え、現在は地域医療を中心とした150床の病院として運営されています。当院は、設立以来、病む人の立場に立ち、病気をもった人を全人的に診ることを大切にしながら、地域医療に貢献できる病院であり続けたいと考えています。

2.当院としての合理的配慮に対する取り組み

当院を受診される患者さんの多くは、何らかの障害をおもちの方か、ご高齢の方がその多くを占めています。まず、当院として早くから取り組んでいることの1つは、外来フロアの待合の椅子の整備です。どのようなことかというと、座面の高さの違う椅子を数種類用意し、外来の椅子すべてを変更しました。これは、以前、よく外来の患者さんが椅子に座ったものの、一人で立ち上がることができず、職員に「お願いします。立たせてください」と声を掛けられる場面が多かったことから、対応したことです。このように椅子の高さを変えたことにより、患者さんがご自身で、立ち上がりがしやすい椅子を利用されて、職員に声をかけることなく立ち上がりができるようになりました。患者さんからも「自分で自由に動けるようになったので、よかった」と評判も上々です。

また、外来フロアには、地域連携室の看護師が立ち、車の乗降に介助が必要な方のお手伝いや院内での移動の介助、受診手続きのサポートなどを行っています。

3.医療ソーシャルワーカーとしての合理的配慮への取り組み

ここからは、医療ソーシャルワーカーとしての合理的配慮への取り組みについてご紹介させていただきます。

(1)聴覚に障害のある方への配慮

聴覚障害がある患者さんにはもちろん、耳の聞こえにくさをおもちの患者さんに対して、私たち医療ソーシャルワーカーは相手の方に口元が見えるように対面し、ゆっくり、はっきり話をするよう心がけています。また、筆談も用いて、相手の理解を確認しながら面接を行っています。

このように、ゆっくり、はっきり、相手の理解を確認しながら、わかりやすい言葉(できる限り、横文字を使わないなど)で話す、ということは、聴覚に障害のある方だけに限って行っていることではなく、どの患者さんやご家族とお話しする場合でも、私たち医療ソーシャルワーカーが心がけていることのひとつです。

(2)入院前面接で心がけていること

当院では、入院前にご家族と(必要に応じて)ご本人に面接をさせていただきます。入院前の面接は、多くの病院でも取り組んでいらっしゃると思いますが、当院では、ご本人にお会いする場合には、直接入院先の病院に出向き、ご本人の現時点での意向を伺うことを行っています。また、必ず最後に、ご本人やご家族に「言い忘れたことや、私たちが聞いておいたほうがよいことがありませんか」とお尋ねをしています。このようにお尋ねすると多くの方は、しばらく考えて、「うちの母親は難聴なので、右から話しかけてください」や性同一性障害の方からは「(男性の名前なので)本名の下の名前は呼ばないでほしい」などと教えていただけます。このように教えていただいた情報を事前に多職種と共有することで、早良病院に入院された瞬間から、その方に合わせた対応が、病院としてできるよう心がけています。

(3)その他に面接で心がけていること

(1)の聴覚に障害のある方への配慮でも述べたように、私たち医療ソーシャルワーカーが患者さんやご家族と面接を行う際に、心がけていることが他にもいくつかあります。

まず、1つ目は面接の途中で、こちらの話すスピードや声の大きさなどを「このくらいでよいですか」と患者さんやご家族に尋ねています。高齢者だからといって、大きな声が聞き取りやすいとは限りません。また、若い方でも、その方の障害の状態によっては、こちらの話すスピードをいつもよりゆっくりと話したほうがよい方もいらっしゃるからです。

次に、情報を伝える時には、わかりやすく話すことを心がけています。医療ソーシャルワーカーは、患者さんを支援する中で、社会資源などの情報提供を行うことがあります。そのような場面では、説明の内容を書いたり、図表を用いたりしながら、簡単にわかりやすく伝える努力をしています。医療ソーシャルワーカーは、伝えたいことと伝わることは別であることを忘れずに、「わかりにくいと思いますが、話を続けていいですか」と、相手の理解を確認することを行いながら情報提供を行っています。

ほかには、相手の面子を潰さないことも心がけています。これは具体的に、面接の中で「でも」「なぜ」「前にもいいましたよね」という言葉は使わないことを意識し、面接するということです。

このように、コミュニケーションにおける合理的配慮は、障害のある方だけにとどまらず、すべての方に対する対応といえるのではないでしょうか。

今後も、私たち医療ソーシャルワーカーは謙虚に学び続け、よりその方に合うコミュニケーション能力を高めていきたいと考えています。


【参考文献】

ピーター・ディヤング/インスー・キム・バーグ著(2016)「解決のための面接技法第4版―ソリューション・フォーカスト・アプローチの手引き』金剛出版

日本医療ソーシャルワーク学会編(2018)「医療ソーシャルワーク実践テキスト」日総研

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