新幹線のバリアフリー対策検討会
※ここでは、新幹線のバリアフリー対策検討会が令和2年8月28日にとりまとめた「新幹線の新たなバリアフリー対策について」のうち、紙面の制約上、具体的な対策について記載した部分のみを紹介することといたします(とりまとめの全体版はhttps://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001361005.pdfを、国土交通省鉄道局の取組はhttps://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk7_000018.htmlを、ご参照ください)。
新幹線のバリアフリー対策を抜本的に見直し、世界最高水準のバリアフリー環境を有する高速鉄道の実現のため、車椅子用フリースペースの導入をはじめとした、ハード対策・ソフト対策が連携した取り組みを、可及的速やかに実施します。
隣の座席への移乗が困難な方、保護者の付き添いや介助が必要な方など様々な障害の状態に対応し、障害のある方が一般の方と同様にグループで快適に乗車できるよう、車椅子用フリースペースを一般客室に設けます。
世界最高水準のバリアフリー環境の実現に当たっては、車椅子使用者がグループで快適に移動や旅行を楽しむための車椅子スペースの数が極めて重要な要素となります。そこで、海外の高速鉄道の事例等を参考にしながら、車椅子用フリースペース内と多目的室内に配置する車椅子スペースの総数を、提供座席数に応じて以下のように設定します。
表 車椅子スペース数の考え方(グリーン車を除く)
1編成あたりの座席数 | 車椅子スペース数 | 備考 |
---|---|---|
1000席を超える場合 | 総席数の0.5%※1)以上 | 多目的室を含む |
500~1000席 | 5席以上 | |
500席未満 | 4席以上 |
以下の具体的な要件を基本として、鉄道事業者において、車両の構造や利用状況などを踏まえて車椅子用フリースペースのレイアウト等を決定します。
1.少なくとも2人以上の方が車椅子に乗ったまま窓際で車窓を楽しめること
2.車椅子用フリースペースの通路は、乗客やワゴン等の通行に支障のない通路幅を確保すること
3.ストレッチャー式車椅子を含む大型の車椅子※2)の方が2人以上で利用可能なこと
4.車椅子使用者の移乗用席を2席以上(座席数500席未満は1席以上)、それに隣接※3)して介助者もしくは同伴者の席を2席以上(座席数500席未満は1席以上)設けること
既存の車椅子対応座席について車椅子用フリースペースの整備を待たず、一部システムにおいて、ウェブ上での予約・購入を試行的に実施し、使い勝手のよいシステムの導入に向けて、利用実態や利便性等の検証を行います。
車椅子用フリースペースの整備に伴い、座席を伴わない車椅子スペースのみを指定する指定席特急券の予約・販売を行うこととし、また、ウェブ上でも予約・購入手続きが可能なものとします。
車椅子用フリースペースの床面には、車椅子の所在位置を示すマーキング等の改善を図っていくとともに、コンセント、テーブルなどの付属品を設置する場合は、車椅子使用者の快適性を十分考慮します。また、客室ドアセンサーの検知範囲についても、既に一部の新幹線で導入されているような車椅子使用者の居心地に配慮したものとします。
現在の車椅子対応座席の予約・販売方法を改善し、車椅子使用者の新幹線における利用環境をさらに向上させるべく、以下の対策を講じます。
待ち時間の短縮を図るため、介助要員の配備が比較的充実し、かつ設備や環境の整備が整っていると予め確認できる新幹線主要駅間から関係部署の承認を待たずに発券できるようフローの一部を見直します。
また、発券後から乗車までの所要時間についても、引き続き、利用の繁閑に応じた係員の配置や駅における乗車までのプロセスの改善等により、所要時間が短縮できるよう改善を図っていきます。
中間とりまとめを受け、本年5月より全新幹線において、車椅子対応座席のウェブ申し込みができるように改善が図られました。引き続き、申込期限の短縮等によりさらなる利便性の向上を図ります。
今後、特に新型新幹線車両へのフルモデルチェンジのタイミングなど中長期的な検討課題として、以下の事項について検討を行います。
現在でも一部の新幹線にはグリーン車に車椅子スペースが設けられていますが、今回の車椅子用フリースペース(普通車両)の利用状況等を踏まえつつ、座席種別ごと(グリーン車や普通車自由席等)への車椅子用フリースペースの拡充を検討します※4)。
車椅子使用者の意向も踏まえながら、授乳室の整備など車椅子使用者にとっても利便性の高い多目的室の利用環境や介助者と共に使用できる車椅子対応トイレなど車内設備の仕様等について検討します。
国においては、本とりまとめを踏まえて、東京オリンピック・パラリンピックにあわせて車椅子用フリースペースを備えた世界最高水準の新しい新幹線が導入されるよう、移動等円滑化基準やガイドラインを速やかに改正します。鉄道事業者は、改正された移動等円滑化基準やガイドラインに従い、この新しい新幹線の早期整備に努めるとともに、利用者の利便性の向上に努めます。
本とりまとめにあたっては、障害者団体と鉄道事業者(実務担当者を含む)との間で頻繁な打ち合わせが行われるなど良好なコミュニケーションのもとで様々な検討が行われました。今後とも、本とりまとめに掲げた対策の早期、且つ、着実な実現に向けて、引き続き、WG等を活用して定期的な意見交換の場を設け、障害者団体、鉄道事業者双方の意思疎通を図るとともに、意見交換を通じて得られた障害者団体の意向等について、新型車両の設計時にできる限り反映させます。
車椅子使用者が快適に移動や旅を楽しむためには、一般客の理解と協力が極めて重要です(例えば、繁忙期に車椅子用フリースペースから複数の車椅子使用者が円滑に降車するための一般客の配慮など)。そこで、国を中心とした関係者が連携のうえで、車椅子用フリースペース導入の背景など新幹線の新たなバリアフリー対策の意義について、広く国民に向けた情報発信に努めるとともに、真の共生社会の実現に向けて、車椅子使用者のみならず、様々な障害を有する方々が快適に移動や旅を楽しむことのできる環境整備に向けた意識の醸成を図ります。
一部の鉄道事業者においては、客室ドアセンサーの検知範囲の改良など車椅子使用者に配慮した設備改良が進められています。鉄道事業者においては、引き続き、車椅子用フリースペースの導入等に向けて、コンセント、テーブルなど車椅子使用者にとって使いやすい設備の仕様等を検討するとともに、その成果について他の鉄道事業者との共有を進めます。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機として行われた新幹線におけるバリアフリー対策の抜本的見直しは、障害者団体と鉄道事業者等における、度重なる真摯な議論により、ここにとりまとめることができました。
今後は、世界各地から多くの方々が訪れる東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向け、車椅子用フリースペースの導入をはじめとして、真の共生社会を象徴し、牽引する、世界最高水準のバリアフリー環境を有する高速鉄道を実現し、この新幹線の素晴らしさを一人でも多くの方が実感できるよう、関係者が一丸となって取り組んでいくことといたします。
※1)国際パラリンピック委員会「アクセシビリティガイド(2013年6月)」による競技会場における車椅子座席の割合(一般の大会)
※2)大型の車椅子とは、リクライニング等で1,200mmを超える長さとなる車椅子(最大2,000mmを想定)
※3)車両の構造上の理由等により「隣接」とすることが困難な場合は、「近接」も可とする。
※4)車両ドア幅や車椅子対応トイレの配置、駅ホームドアのレイアウト変更等の検討をあわせて行う。