家を借りる時の支援~メインストリーム協会の取り組み~

「新ノーマライゼーション」2021年2月号

メインストリーム協会 スタッフ
数矢雄(かずやたけし)

私たちが活動しているメインストリーム協会は、兵庫県西宮市にある自立生活センターです。自立生活センターは、全国に約200か所以上あり、主に重度障害者の地域での自立生活をサポートするために介助サービスの提供、自立生活プログラム(ILP)、権利擁護活動、相談業務などを行っています。各センターはそれぞれ独自の特徴がありますが、メインストリーム協会は主に身体障害者を対象とし、自立生活センターの基本業務に加え、障害者のイメージを変える活動や海外支援を行って、どんなに重い障害があっても入所施設や親元ではなく地域で当たり前に暮らせる社会を目指して活動をしています。

私は脳性まひという障害をもつ車椅子ユーザーで、今年で32歳になります。自立生活センターで活動して8年目です。私の先輩たちが自立生活運動をして身体障害者が地域で自立生活を送れるように重度訪問介護などの制度が使えるようになったり、多くの駅などにエレベーターが付いてどこでもアクセスできる環境ができてきましたが、まだまだ現状では重度障害者たちは入所施設や親元で暮らすことが良いというイメージが世の中にあります。そのような中で、私たちは施設や親元から離れ地域にこだわり自立生活をする意味をより一層考え、活動をしていくことが必要になってきました。

図1 具体的な自立までの流れ(一例)
図1 具体的な自立までの流れ(一例)拡大図・テキスト

自立生活センターの役割で最も大切なのが、重度障害者の自立をサポートすることです。自立を希望してから地域で自立生活ができるまでの流れは、メインストリーム協会では一例として図1のように基本的には進めていきますが、それぞれのケースに合わせて期間や方法を変えてプログラムを組んでいきます。メインストリーム協会をはじめとする自立生活センターは、主に賃貸住宅に住んで自立生活をしていくことを目指してサポートする形をとっています。しかしながら、この賃貸住宅を探して住むことは重度障害者には大きなハードルになっています。そこで私たちは、自立生活体験ルームの提供と家探しに関する相談や助言を組み合わせた支援を行っています。自立生活体験ルームは、メインストリーム協会の事務所の3階にあり、自立の前に介助者を使って生活のお試し(自立体験)ができたり、本格的に自立生活をすることが決まるとこの体験ルームに一時的に住んで賃貸住宅などを探していけるような環境をつくっています(図2、図3)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図2・3はウェブには掲載しておりません。

次に家探しについて詳しく説明しますと、ハード面とソフト面のハードルの解消が最大のポイントとなってきます。例えば、本人が理想とする住宅が見つかっても、そもそもエレベーターやスロープなどの設備が整っていない場合や、不動産屋さんの障害者に対する理解がなく断られる場合、もう一つは家賃が予算に合わない場合の3つの大きなハードルがあります。1つ目のバリアフリー面の問題は、階段しかない所は避けて選んだり、市町村の制度を使ってある程度クリアにしていくことができます。具体的には、西宮市では住宅改修(床の底上げやお風呂の改修など大規模に改修する場合)にかかる費用の助成と日常生活用具(簡易型スロープ、手すりなど)の購入にかかる費用の助成が使えます(図4)。次に不動産屋さんと大家さんの理解ですが、障害者が家を借りて「もしも火事になったら大変」「車椅子等で部屋を傷付けたら面倒」「地域住民から苦情などがありそう」などさまざまな悪いイメージを持たれることが多くあります。これは障害者に対する無理解が原因となっていることが多いので、私たちは家探しをしている当事者と不動産屋さんの間に入り自立生活の理念や障害者のこと、問題があった時の対処法などを一つ一つ確認していく作業をしています。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図4はウェブには掲載しておりません。

自立生活を送る際の重度障害者の収入については、障害年金と特別障害者手当と生活保護費とを組み合わせています。特に生活保護費に関しては住宅扶助が含まれていて、西宮市の場合は1か月約5万5,000円(土地価格等で変動あり)が支給されていますが、その額を超えた分は障害年金などで補わなければいけません。例えば、呼吸器ユーザーなどの重度障害者は入浴の時に2人介助になり、広めの部屋やお風呂が必要になってくるのですが、ある程度広い賃貸住宅を借りようとすると生活保護費の住宅扶助の額を超えてしまい、その他の生活費に響く恐れがあり、自分がしたい生活を送るのが難しくなってしまいます。そのため家賃と収入のバランスも考えながら探す必要があるので、重度障害者の家探しは慎重にならざるを得ません。それらのバランスも、メインストリーム協会の障害者スタッフが相談にのり一緒に考えてサポートしながら家探しをしています。加えてメインストリーム協会が行っている家探しの工夫としては、不動産屋さんとの関係づくりがあります。複数の不動産屋さんをあたって家探しをしていくよりも、いくつかの不動産屋さんに私たちの自立生活スタイルなどについて時間をかけて伝えておいたほうが、家探しをするのも住宅改装などの交渉をするのもスムーズになるメリットがあります。

以上、メインストリーム協会が取り組んでいる家を借りる際のサポートの現状と課題を述べてきました。私たちの希望は、生活保護費に頼ることなく障害年金などで自立生活に必要な収入を得られる社会保障や、バリアフリーで誰でも住みやすい賃貸住宅が多くあれば良いですが、今すぐには変わらない現状もあります。しかし一方で、私たちが住んで活動している西宮の不動産屋さん、大家さんや管理会社及び地域住民に対してアプローチして、私たちが大事にしていることや重度障害者が施設ではなく地域で自立生活を送っていることを伝えていくことが、私たち自立生活センターの重要な役割であると考えています。

まずは、西宮市をどんなに重い障害があっても入所施設や親元ではなく地域で当たり前に暮らせる環境にしていくこと。そして今までの障害者のイメージを変えていくためにどのように周りに伝えていくかを常に考えて行動していくことで制度やバリアフリーがもっと良くなり、最終的に西宮市での取り組みが社会全体へと広がっていくために、これからも活動していきたいと思います。

menu