視覚障害のある人たちが使っている情報支援機器

「新ノーマライゼーション」2021年3月号

株式会社ラビット 代表取締役
荒川明宏(あらかわあきひろ)

視覚障害者にとって情報支援機器はとても重要です。なぜなら、目が見えない、見えにくいことにより、文字を読むこと、書くことに大きな壁が存在するからです。そのため、日常生活でも、仕事でも視覚障害者は情報支援機器の大きな恩恵を受けています。

これらの視覚障害者向け情報支援機器の歴史は、コンピュータそのものの歴史と緊密な関係を持っています。その理由は、情報処理にはコンピュータが必須なためです。

不自由な読み書きの中で改善されたのは、書くことからです。それまで、仮名タイプ、英文タイプで活字を入力していた視覚障害者は、1980年代半ば「AOK点字日本語ワープロ」(高知システム開発)の誕生により、音声を頼りに漢字仮名交じり文が書けるようになりました。

当時は、ローマ字を漢字に変換するのではなく、漢字のコードを覚えやすい点字記号に組み合わせ漢字仮名交じり文を書いていました。つまり、漢字に一致した点字の符号をすべて覚える必要があったわけです。

そして、パソコンの発展とともに、漢字のコードを覚えなくてもよい仮名漢字変換ができるようになり、ブラインドタッチさえ習得すれば、漢字仮名交じり文が書ける時代へと進みました。

1990年代半ば、パソコンもBASICの時代からMS-DOSを経て、Windowsの時代へと進みます。このWindowsの時代により実現したのが、「読む」ことです。

パソコンにスキャナを取り付け、OCR技術を用いて文字の形を認識し、活字を読み上げるというものです。複雑な段組のものは読むことが難しいですが、文庫本など段組が複雑ではないものに関しては、それなりに実用的に使えます。とはいっても、読めないものも多く存在します。

家に送られて来る郵便物は数多く存在します。誰かに見てもらおうと思い、大切に保管しておいたら実は不要なチラシだったということは多くあります。この読書器を活用すると、自分にとって必要なものか、不要なものかといった印刷物の仕分けに活用することができます。

2000年代に入ると、活字読み上げ装置として専用機が誕生します。パソコンとスキャナの組み合わせが今までは必要でしたが、一体型でパソコンの操作を意識することなく使えるのが利点です。これにより、パソコン等の機器が苦手な人でも手軽に活字の読み上げが可能となりました。

一方、書く方ではWindowsの誕生により、今まで必須だった音声装置が不要となり、一般の人と同じようにノートパソコンで書くことが可能となりました。Windowsの音声化ソフトにより、Windowsの操作、Word、Excelが操作可能となり、書くことについても大きな変化が生じました。

また、携帯電話が普及することにより、視覚障害者もパソコンのメールに加えて、ショートメッセージを送ることが可能となり、仕事だけではなく、日常生活にも便利に使われるようになりました。

視覚障害者にとって大きく生活を一変させたのは、スマートフォンの誕生です。2015年頃から視覚障害者も少しずつスマートフォンを使うようになりました。その当時の使い方は限定的で、電話、メールの他に音楽を楽しむといった用途が大きかったと思います。

しかし、2018年に入ると、スマートフォンのカメラで撮影した結果を文字認識して、音声で読み上げができるようになり、これまでの据え置き型の活字読み上げ装置とは異なり、簡単に持ち運びできる便利なものへと変わりました。

さらにスマートフォンは電話だけではない便利な機能があります。LINEなどビデオ通話を活用することにより、近くに目が見える人がいなくても遠くの人の目をカメラ越しで活用できるようになりました。簡単な書類の読み上げ、落としてしまったものの探索、近くにどんな店があるかなど、さまざまに利用されています。

そして、2019年には眼鏡型AI文字認識装置「オーカム」が発売となりました。2021年の現在では、エンジェルアイ、エンビジョングラスをはじめ、さまざまな眼鏡型AI文字認識装置が発売になっています。

これら眼鏡型の商品の特徴は、最新技術であるAIを活用しているところです。そして「眼鏡型」のため、自然に使用することが可能です。街中などで看板などを読ませようとしてスマートフォンを向けたら、その前に人がいたらどうなるでしょう? そんなことを考えると、うかつに外出先でスマホに読ませるのも気がとがめます。

眼鏡型であればそのような心配はありません。機種によっては、少し離れた看板や商品のバーコードなどを読ませることも可能です。また、そのままカメラを通して別な人に通話を行い、現在眼鏡に映っているものを相手のスマホの画面に表示させることができるものもあります。このようにAIが活用されることにより、視覚障害者の生活は大きく変わろうとしています。

また、スマホとBluetoothやWi-Fiの組み合わせにより実現できることもあります。音声が出ないエアコンの操作や体重、血圧の確認など、見ることができない視覚障害者でも、スマホの音を頼りにさまざまな情報に自らアクセスすることが可能になっています。

上記のようにコンピュータやAIの発達により、視覚障害者の活字に関する読み書きは大きく変化してきました。

一方、形や大きさ、機能は多少変わりますが、大きくは変わらない商品もあります。それは点字ディスプレイです。点字ディスプレイは点字の本を読むだけではなく、活字などの情報を機械に転送するだけで自動的に点訳を行い、読むことが可能です。音声は非常に早く聞き流せるというメリットがあります。

数字や固有名詞などしっかり確認しながら覚えたい場合には点字が便利です。また、点字ディスプレイではさまざまな検索や自分のコメントなど点字で簡単に付け加えることができます。仕事や学習に欠かすことができないのが点字ディスプレイです。今後はAIカメラで認識した結果を点字でも素早く確認できる、そんな時代になっていくのではないでしょうか。

新しいことを習得するには学習が必要です。「機械が苦手だから」と考えるとせっかくの学習効果も下がってしまいます。機械はちょっと融通の利かない「お友だち」と考え、楽しく便利にお付き合いしましょう。

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