聞こえにくさをもつ人たちに役立つ情報支援機器

「新ノーマライゼーション」2021年3月号

一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会
小川光彦(おがわみつひこ)

1.聞こえにくさをもつ人の状況

JapanTrak 2018(日本補聴器工業会)のデータによれば、国内に聞こえにくさをもつ人は全人口の11.3%、1,400万人以上いるとみられます。そのうち補聴器所有率は14.4%、約200万人。残りの1,200万人以上が、聞こえにくいが補聴器を使用していない方だと推測されます。補聴器や人工内耳等を全く使用しない重度の聴覚障害者は数万人とみられています。

また、年齢別では高齢になるほど増える傾向があります。65~74歳の方の18.0%、75歳以上の43.7%が聞こえにくさを自覚しています。

一般的に聴覚障害をもつ期間が長く、重度の方ほど、聞こえにくさを改善するための補聴・情報支援機器を活用している割合が高くなります。逆に高齢等で次第に聞こえにくくなった方の場合、不便を感じたり困ったりしても、改善のための情報に至らない方、積極的に改善しようとしない方が多い傾向があります。

これら多様な状況にある方がそれぞれに、「よりよく聴きたい」「見て解決したい」というニーズをお持ちです。本稿では、筆者の視点で効果があると思われる機器を取り上げます。

2.よりよく聴きたい

(1)裸耳(らじ)で聞きたい

1.テレビ

加齢性難聴者は聞こえにくくなると、テレビの音を大きくしてしまいがちで、周囲の家族にもうるさがられることがあります。ヘッドホンやイヤホンを使えば本人だけがよく聞こえますが、スピーカーの音が聞こえなくなってしまうことが多く、この場合テレビを周囲の方と一緒に楽しめません。

イヤホン等を使うことに抵抗を感じる方もいます。また、テレビ本体から離れるほど、言葉を聞き分けにくい現象が起きやすくなります。

そんな場合に裸耳で聞きたいという方にお勧めしたいのは、テレビ用ワイヤレススピーカーシステムを使う方法です。手元で聴くことのできるスピーカーには多様な製品がありますが、ワイヤレスで、見ているテレビの音量・音質操作が手元で行えるものがお勧めです。機器操作の不得手な方にはボタンの少ない、シンプルな製品が好まれます。イヤホン等もあれば、受験生がいるご家庭にも便利です。

写真1の製品は、テレビから30m離れて使用可能です。テレビ本体のRCA出力を使用すれば、テレビのスピーカーのボリュームに影響せずに使うことができます。例えばテレビは無音にして、手元のスピーカーの音だけを聞くこともできるので、外への音漏れを少なくできます。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

2.電話

難聴が進むと電話の聞き取りが困難になります。60dB以下の中等度難聴の方であれば、裸耳でも電話可能な市販製品があります。音が大きめの受話器やボリューム増大機能付きの電話を選ぶとよいでしょう。

従来からある電話の受話器を使いたい場合は、受話音量を増幅するアンプ製品が便利です。写真2の自立コム社の「テレアンプIII」は、良耳側が約80dBくらいまでの高度難聴者でも、裸耳で使える場合があります。電話機本体と受話器の間に接続したまま使います。ボリュームつまみを聞きやすい音量に合わせて使うので、操作が簡単です。ビジネスホンやFAX兼用機の受話器等、使える範囲が広いですが、試し聞きしてから購入することをお勧めします。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

(2)補聴器・人工内耳で聴きたい

1.ヒアリングループ(磁気ループ)

高度・重度難聴者向けの補聴器や人工内耳には、Tモード・MTモード等の名称で磁気コイルが用意されていることがあります。元々は電話の受話部分から磁気が出ている場合に、相手の音声を補聴器の磁気コイルで明瞭に聞く仕組みですが、この機能を活用すれば、目的の音声を周囲の雑音に影響されずに聞くことができます。昭和30年代から補聴器等に使われ続けているシステムですので、補聴器を購入する際には押さえておきたい機能です。

タイループやシルエットコイル等、これらの補聴器でヘッドホンのように使える便利な製品もあります。詳しくは専門の補聴器販売店でお尋ねください。

2.各種無線システム

補聴器や人工内耳では、近年各メーカーでそれぞれ無線通信機能を充実させています。マイクからの音、テレビや電話機、スマートフォンからの音など、ワイヤレスで直接補聴器・人工内耳に音が届く快適さ、高い効果があります。メーカーによりさまざまなバリエーションがあり、価格もまちまちなので、詳しくは専門の補聴器販売店等にお尋ねください。

3.見て理解したい

(1)テレビ番組等の字幕

現在市販されているデジタル放送対応テレビ・ワンセグテレビのほとんどの機種に、字幕機能があります。リモコン等で字幕ボタンを押すだけで、字幕放送番組の字幕を無料で見ることができます。

その他DVD、オンライン番組配信サービス、動画共有サービス等、さまざまなメディアでも字幕が付く機会が増えつつあるのはうれしいことです。

(2)音声認識

スマホには聴覚障害者でも情報活用できるさまざまな視覚的サービスがあり、とても役立ちます。

特に近年はスマホ等にダウンロードして使用できる音声認識アプリの活用が広がっています。各種ありますが、よく使われているのはUDトーク、こえとら等でしょう。スマホに向けて話された音声を、文字で表示するものです。認識精度は話者の滑舌や騒音環境、電波状況等に左右されることが多いので、各自の責任でご使用ください。

特にUDトークは長時間の連続使用に適しています。詳細はサイトでご確認ください。

UDトーク https://udtalk.jp/

こえとら https://www.koetra.jp/

また、音声認識専用の製品も登場しています。ソースネクスト社の製品「タブレットmimi」(写真3)は、ボタンを押して話し手の近くに置いておくだけで、音声を文字表示します。タブレットの形をしていますが、iPadのような多機能ではなく、機能が音声認識に絞られています。必要なボタン操作が少なく、とても使いやすい製品です。写真は筆者が病院窓口で使用した時の表示結果です。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3はウェブには掲載しておりません。

認識精度は音声認識アプリと同様、使用環境に左右されることが多いので、各自の責任でご使用ください。金額は2年間のSIM使用料金も含まれています。通信料金はかかりません。

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