盲ろう者が使っている情報支援機器

「新ノーマライゼーション」2021年3月号

社会福祉法人全国盲ろう者協会
庵悟(いおりさとる)

国において、急ピッチで「デジタル化」が進められようとしている中、盲ろう者が取り残されることなく、自力で必要な情報を入手したり、遠く離れた相手と自由にやりとりができるようにすることが喫緊の課題となっています。

そこで、盲ろう者の情報アクセスの現状と課題に触れながら、現在使われている情報支援機器について紹介します。

1.盲ろう者の情報アクセス

(1)見えるか聞こえるかが前提の情報入手の手段

テレビ、ラジオ、電話、FAX、新聞等の一般的な情報入手手段は、見えるか聞こえるかが前提となっています。そのため、20数年ほど前までは、盲ろう者が自力で情報入手できる手段がほとんどなく、人的なサポートがなければ、情報入手もリアルタイムのコミュニケーションもできませんでした。

(2)デジタル化による情報アクセスの可能性

実は、ずっと以前から、盲ろう者が情報アクセスするためにはデジタル化は必須であることが分かっていました。

例えば、文字情報が電子化(デジタル化)したことによって、紙に書かれている文字情報等が点字や拡大文字、音声として取り出せるようになっています。

また、これらがメールやチャット等で瞬時にやり取りできるようになったことで、盲ろう者が自力でさまざまな情報にアクセスできる可能性が広がってきています。

(3)盲ろう者の情報機器へのアクセス方法

見え方・聞こえ方の状態により、盲ろう者がパソコン等の情報機器にアクセスする方法は、次のように異なっています。

1.全盲ろうおよび全盲難聴

主に点字ディスプレイによりパソコン等にアクセスします。

2.弱視ろうおよび弱視難聴

主に拡大画面によりパソコンやタブレット等にアクセスします。

3.一部の全盲難聴および弱視難聴

音声を利用します。

2.触覚活用の情報支援機器

(1)スクリーンリーダーの点字出力機能の装備

1998年のWindows98の登場により、画面音声化ソフト「スクリーンリーダー」の機能が強化され、点字出力機能が装備されるようになりました。そして、盲ろう者への点字ディスプレイの福祉用具の給付制度(原則として視覚障害と聴覚障害いずれも身体障害者手帳の等級が2級以上の者に支給されます)が整いました。

点字ディスプレイの出現により、テレビ、ラジオ、新聞等の代わりにインターネット上のニュースなどの最新の情報に触覚のみでアクセスすることが可能となりました。

また、電話、FAX、手紙等の代わりに自力で遠く離れた人と連絡を取ったり、自分の意思を直接他者に伝えることができるようになりました。

(2)点字用携帯端末の登場

2006年、パソコンを使わず点字機のみでメールやインターネットにアクセスできる持ち運び可能な「点字PDA」(エクストラ)が発売されました。これにより、自宅等固定環境のみならず外出先でも、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末等の代わりに触覚のみで情報にアクセスできるようになりました。

(3)盲ろう者が利用できるスクリーンリーダー

PC-Talker、JAWS for Windows、NVDA等、国内で入手できるスクリーンリーダーは点字表示に対応しています。

ただ、スクリーンリーダーは、そもそも点字表示のみで利用することを前提に開発されていないため、漢字誤変換等盲ろう者にとっては利用しにくいことが多いのが課題です。

(4)よく使われている機器

1.ブレイルメモシリーズ

パソコンとつないでインターネットによる情報取得やメールのやりとりができるものとして使われてきました。単体でもメモをとったり、点字データを読むことができます。

進化してくる中で、パソコンとBluetoothで接続できたり、スマートフォンと接続できるようになってきています。近年は、パソコンに加え「BMスマートターミナル」というアプリを使って、アンドロイドのスマートフォンにBluetooth接続し、メール、ホームページ、SNS等、一般の人が用いるコンテンツにもアクセスが可能になってきています。

現在、最も新しい機種としては、「ブレイルメモスマートAir16」(349,800円(税込)、ケージーエス)があります。

2.ブレイルセンスシリーズ

単体でインターネットやメールができるものです。

人気のあるのは、カメラ機能がついたブレイルセンスポラリス日本語版(599,000円(非課税)、エクストラ)がありますが、メール送信されたものが一部の機種のタブレット等には文字化けしてしまうという問題があるので改善が求められます。

3.視覚活用の情報支援機器

(1)拡大読書器

新聞、雑誌、郵便物等の文字の大きさや色、背景色を変えられます。据え置き型と携帯型があります。

「よむべえスマイル」(198,000円(非課税)※本体のみの価格、アメディア)は、新聞等をスキャナーで読み取って、文字拡大だけでなく、音声読み上げもしてくれますので人気が高いものです。

(2)タブレット端末

iPadはかなり細かい視覚サポートが標準搭載されているため、メールやインターネットだけでなくLINEやフェイスブックの画面表示が見やすく、多くの弱視の盲ろう者に使われています。

4.聴覚活用の情報支援機器

(1)音声読み上げ機能の活用

パソコンではPC-Talker、スマートフォンやタブレット端末ではiPhone/iPadのVoiceOverがよく使われています。

また、メーラーとして、それ自体で、拡大文字だけでなく音声読み上げ機能がついている「VoicePopper」や「MyMail」がよく使われています。

(2)補聴援助システム

補聴器や人工内耳を使用している盲ろう者が聞きづらい文字情報を上記の音声読み上げ機器を使って聞く時、その音を聞きやすくするために、パソコン等のイヤホンジャックに補助援助システムのマイクをつないで聞く方法があります。

デジタル式補聴援助システム「ロジャーペン」(ただし、単体では使えず受信機が必要。フォナックジャパン)は、人気があります。

5.今後、情報支援機器に期待すること

現状ではここで紹介した情報支援機器を使いこなしている盲ろう者はほんのひと握りです。盲ろう者が情報支援機器を使えるようになるには、指導者を養成し、それぞれの盲ろう者の障害の程度やコミュニケーション方法に応じた支援体制の充実を図る必要があります。

また、これらの情報支援機器の多くは高価であり、補装具費や日常生活用具補助金の支給上限額が低く抑えられているため、盲ろう者には超過分は重い自己負担となっています。

国において、こうした課題をクリアすべく盲ろう者の情報支援機器の開発および普及のためのシステムづくりを切に望みます。

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