行政の動き-バリアフリー法の改正について

「新ノーマライゼーション」2021年3月号

国土交通省総合政策局安心生活政策課 企画係長
三浦美郷(みうらみさと)

1.バリアフリー法改正の背景

我が国においては、平成18年に制定された高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号。以下「バリアフリー法」という。)に基づき、公共交通機関、公共施設、建築物のハード面のバリアフリー化は一定程度進展してきたものの、車椅子使用者の乗車方法に関する公共交通事業者の習熟度向上や、鉄道等の優先席、車椅子使用者用駐車施設等の適正な利用に関する国民への広報啓発など、ソフト面の対策が課題となっています。

こうした中、東京オリンピック・パラリンピック競技大会は、そのレガシーとしての「真の共生社会」の実現に向けた機運を醸成する絶好の機会であり、地方公共団体、学校その他の関係者と連携しつつ、ハード・ソフト両面のバリアフリーを推進するための仕組みを構築することが必要となっています。

このため、ハード対策に加え、移動等円滑化の観点からの「心のバリアフリー」に関する施策などソフト対策を強化するバリアフリー法の改正法案を、令和2年2月に第201回通常国会に提出し、同年5月に成立したところであり、本年4月1日に全面施行することとなっています。

2.バリアフリー法改正の概要

1.公共交通事業者など施設設置管理者におけるソフト対策の取組強化

(1)公共交通事業者等に対するソフト基準適合義務の創設

公共交通機関において、車椅子使用者の乗車方法に関して公共交通事業者の習熟が十分でない等の理由により、高齢者、障害者等が円滑に利用できない等の事案が発生しています。

このため、公共交通事業者等に対し、現行のハード基準への適合義務に加え、バリアフリー化された旅客施設や車両等を使用した役務の提供の方法に関するソフト基準の遵守を新たに義務付けることとしており、関係省令において、具体的な内容として主に以下の基準を定めています。

なお、ソフト基準の遵守は、平成14年5月15日の旧交通バリアフリー法施行以降に新設・大規模改良又は新規供用された旅客施設及び車両等については義務、それ以前に整備された旅客施設及び車両等については努力義務となります。

1.職員等がバリアフリー設備を用いて、高齢者、障害者等が当該設備を円滑に利用するために必要となる役務の提供を行うこと(例:乗降用のスロープ板等)

2.バリアフリー設備それ自体を用いて、運行情報の提供や適切な照度の確保などの役務の提供を行うこと(例:運行情報提供設備、照明設備等)

3.バリアフリー設備を用いた役務の提供に際しソフト基準が遵守されるよう、必要な体制を確保すること

公共交通事業者等に対しては、ガイドライン等を通じソフト基準の内容を十分に周知することとしており、高齢者、障害者等を含む誰もが安心して公共交通機関を利用できる環境を実現すべく、国土交通省として円滑な運用に努めていくこととしています。

(2)交通結節点における移動等円滑化に関する協議への応諾義務の創設

ターミナル駅等の交通結節点においては、高齢者、障害者等に分かりやすい情報提供やスムーズな移動支援などを事業者間で協力して取り組むことが必要であり、平成30年のバリアフリー法改正時の附帯決議においても、交通結節点における移動の連続性を確保するため、接遇を含めた関係者の連携が十分に図られるよう、必要な措置を講じることが求められているところです。

このため、高齢者、障害者等である旅客の乗継ぎを円滑に行うために、公共交通事業者等が相互に協力して移動等円滑化のための取組を行うことを努力義務とすることともに、事業者間の協議への応諾を義務付けることとしています。

(3)障害者等へのサービス提供について国が認定する観光施設の情報提供の促進

一般的に、観光旅客は訪問する土地について不案内なことが多く、十分な情報を持ち合わせていない中で、特に、高齢者、障害者等が旅行をする場合、事前にホテル、レストラン等に関するバリアフリー情報を収集したいというニーズに対応した情報提供のあり方が課題となっています。

このため、高齢者、障害者等へのサービス提供について、国が認定する観光施設(宿泊施設や飲食店等)の情報提供を促進する仕組みを創設したところです。

2.国民に向けた広報啓発の取組推進

(1)優先席、車椅子使用者用駐車施設等の適正な利用の推進

一般的な施設を利用することができる方が車椅子使用者用トイレ・駐車施設等のバリアフリー化された施設を利用することで、真に必要とする高齢者、障害者等がこれらの施設を利用できない、又は長時間待たされる等の課題が発生しています。

このため、国等及び施設設置管理者は、これら「高齢者障害者等用施設等」について、利用者の適正な配慮についての広報活動、啓発活動等を行うよう努めなければならないこととしています(ポスターの掲示や車内放送での呼びかけを想定)。さらに、国民に対しても、国等及び施設設置管理者の取組に呼応して、適正な配慮を行う責務が規定されたところです。

「高齢者障害者等用施設等」の具体的な内容としては、関係省令において、以下の施設及び設備を定めています。さらに、これらの施設及び設備についてどのような配慮が求められるのかという指針について、バリアフリー法に基づき主務大臣が定める基本方針において示しています。

1.車椅子使用者用便房等
2.車椅子使用者用駐車施設等
3.旅客施設のバリアフリー経路上のエレベーター
4.車両等の車椅子スペース
5.車両等の優先席

(2)市町村等による「心のバリアフリー」の推進

移動等円滑化の実現に当たっては、ハード整備に加え、事業者や住民、一般の利用者等の移動等円滑化の促進に関する理解や協力、いわゆる「心のバリアフリー」が不可欠です。

このため、主務大臣が定める基本方針や市町村が作成する移動等円滑化促進方針(マスタープラン)の記載事項に移動等円滑化の促進に関する国民の理解の増進と協力の確保に関する事項を追加することとしています。

また、市町村が作成する移動等円滑化基本構想に係る事業の類型として、学校と連携して実施する教育活動や住民等への啓発活動の実施に関する事業(教育啓発特定事業。住民や児童に対するバリアフリー教室の開催や、公共交通事業者等の従業員を対象とした接遇研修の実施等を想定。)を追加することとし、ハード・ソフト一体となった基本構想の作成に取り組む市町村に対しては、基本構想の作成経費を補助することとしています。なお、今回創設する教育啓発特定事業は、学校と連携して実施する内容を含むことから、主務大臣に文部科学大臣を追加することとしました。(令和2年6月施行)

3.バリアフリー基準適合義務の対象拡大

今般の法改正はソフト対策の強化に主眼を置いていますが、ハード面のバリアフリー化についても更に進めることが必要であることから、公立小中学校や、バスタ新宿のようなバス等の旅客の乗降のための道路施設(「旅客特定車両停留施設」)について、バリアフリー基準の適合義務の対象とするための規定の整備を行っています。

4.新たなバリアフリー整備目標の策定など今後の対応

これまで、各種施設等の整備目標を定めたバリアフリー法基本方針に基づき、関係者が連携してバリアフリー化に取り組んできたところですが、令和2年度末での10年間の目標期間終了を受け、地方部のバリアフリー化や心のバリアフリーの推進など、ハード・ソフト両面でのバリアフリー化をより一層推進する観点から、令和3年度から5年間の新たなバリアフリー整備目標を策定いたしました。

また、1.~3.等の改正の内容を受け、今後、国土交通省においては、ハード整備を引き続き推進するとともに、教育啓発特定事業を含む基本構想等の策定を促進するほか、新型コロナウイルス感染症を踏まえた交通事業者の接遇向上に向けた取組や車椅子使用者用トイレ等の適正利用のキャンペーンを実施するなど、心のバリアフリーの推進を中心としたソフト対策の更なる強化を図ってまいります。

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