地域発~人をつなぐ地域をつなぐ-復興からの自立へ「NPOしんせい」の新たな取り組み

「新ノーマライゼーション」2021年3月号

NPO法人しんせい 理事長
富永美保(とみながみほ)

福島復興

2011年3月11日、東日本大震災・原発事故発災。放射能の影響を受けた双葉8町村を中心とした12万人もの福島県民が故郷を離れ避難生活を余儀なくされました。当時、原発事故により福島が抱えた課題はあまりにも大きく、一団体や一個人で課題を解決することはとうてい不可能な状況でした。そこで、被災した障がい者団体を支援するため、21の障がい者団体等が集まりJDF被災地障がい者支援センターふくしま(以下、JDFふくしま)を立ち上げました。

しんせいは、JDFふくしま(2016年3月活動終了)の交流サロン(避難する障がい者の集いの場)として2011年10月に活動をスタート。当初は交流を中心に活動していましたが、「毎日無理をしておしゃべりすることが辛い。避難前のように仕事がしたい。自分の役割がほしい」などの声が多く聴かれ、2013年からはサロン活動を縮小し、就労に力を入れるようになりました。その頃、避難先で福祉事業所を再開した仲間たちも「新しい土地で仕事がみつからず、工賃の支払いが難しい」と私たちと同じ悩みを抱えており、しんせいが事務局を務め「障がいのある方々の仕事が福島復興の一助となるように」と13の障がい福祉事業所が協働で仕事をつくるプロジェクトを立ち上げました。幸いにも企業、NGO/NPO、市民など、社会のさまざまな立場のみなさまから惜しみない協力をいただき、福島の現状を伝える物語を添えて販売する「魔法のお菓子ぽるぼろんプロジェクト」や小さな福祉事業所の孤立を防ぎミシンの技術を学ぶ「ミシンの学校プロジェクト」を立ち上げることができました。このプロジェクトは同じ課題を持つ13の福祉事業所との連携に留まらず、企業やNGO/NPO、市民の力が加わったことで、それぞれが持つ専門性や資源をダイナミックに活用した復興事業として福島復興の一翼を担うことができました。福島復興に対する社会的関心も薄れていった2018年、協働プロジェクトはその役割を終え発展的解散となりましたが、福祉の垣根を超えて社会のさまざまな方々と「協働で仕事をつくる」という特別な経験ができたことはたいへん幸運なことでした。このプロジェクト以降、さまざまな立場の団体と力を合わせて事業をつくる「協働」がしんせいの基本のスタイルとなっています。

復興事業からの自立

「故郷に帰っても病院がない、利用できる福祉事業所がない、故郷に戻ることで孤立が深まる」などの理由から故郷に帰ることが難しい障がい者11名が今もしんせいで働いています。彼らが避難先(郡山市)で、末永く安心して暮らしていくためにも、しんせいは復興に依存した事業から自立していかねばなりません。2019年、「いつか故郷に帰って、また農業の仕事に就きたい」という彼らの夢もかなえたいと思い、私たちは地域の遊休農地を借りて農園を立ち上げました。農園を立ち上げたことで「地縁」をやっと手にすることができました。今後は、地域農家の課題でもある「破棄してきた規格外野菜を使った加工品づくり」や地域の交流人口増加のため「障がいをもつ方々がホスト役を務める交流会」なども地域の農家と協働で実施していく予定です。

東日本大震災・原発事故から10年、振り返れば、私たちは双葉郡から避難した障がい者の「孤立」と常に向き合い続けてきました。「障がい者の孤立」は、大きな災害の中でより顕著にあぶり出されたものでしたが、平時においてもなかなか乗り越えられない課題ではないでしょうか。しんせいで働く障がい者がこの地に根を降ろし、地域に必要とされる存在となるにはまだまだ時間がかかりそうです。

menu