視覚障害教育の専門性を活かした盲学校のセンター的機能の取り組み

「新ノーマライゼーション」2021年4月号

山梨県立盲学校 Eye愛ひとみ相談支援センター
薬袋愛(みないあい)

1.学校及びセンター的機能の概要

本校は、山梨県内で唯一の盲学校です。在籍幼児児童生徒数は23名で小規模の学校ですが、視覚障害教育の専門性を活かして、センター的機能を果たしています。校内組織に「Eye愛ひとみ相談支援センター」という分掌を設け、学校内外の幼児児童生徒の指導・支援や成人の相談・支援を行っています。分掌員は6名でセンター的機能の専任はおらず、全員が学部等に所属して担任を持っています。実際の支援については、全職員が関わる「全校体制」で行っているのが本校の大きな特徴です。支援活動には「教育相談活動」と「啓発支援活動」の2種類があります。

2.教育相談活動

(1)Eye愛ひとみ相談

本校では、県内在住の目や見え方に何らかの不安を感じる方やその関係者の相談に応じています。年齢は問わず、また相談の内容も教育のみに限定せず、広く受け入れています。相談内容によっては関係機関を紹介したり、在籍の学校等と連携したりすることもあります。初回の相談の結果、継続的な視覚障害教育が必要な方には、年齢やニーズによって以下の継続的な支援を行います。

(2)継続教育相談あいあい教室

0歳から就学前の視覚に障害のある乳幼児を対象に、週1回・月1回など定期的な個別指導を行っています。視覚の実態や発達の様子を丁寧に把握し、必要に応じて関係機関と連携しながら、実態に合わせて指導内容を計画します。指導においては、あそびをベースにした活動の中で「見ること・触ることを楽しむ」「手指を使って確かめて楽しむ」ことを大切にし、保有感覚や手指の巧緻性を高め、視覚のみに頼らない手段で基礎的な概念を習得できるように関わります。また、就学後の学習を見据え、視覚補助具を使いこなす練習等も行っています。あいあい教室は個別指導であるため、集団活動や保護者の学習活動の機会として、年に2回「親子学習会」を開催しています。楽しく活動し、ともに学びあう中で、視覚障害のある子どもや保護者同士の繋がりを深めています。

(3)小・中学校弱視教育支援

地域の学校で学ぶ視覚障害のある小中学生に対しては、在籍校が指導・支援の主体となり、学びを支えていくことが大切です。しかし、本県では弱視学級は対象児の学区の学校に通級指導教室ではなく特別支援学級として設置され、その学校の先生が担任となるため、視覚障害教育の免許を有する教員が弱視学級の担任になることは極めて稀です。また、通常学級で学ぶ弱視児もいます。そのため本校では、視覚障害児への直接指導ではなく、在籍する小中学校への学校支援・教員支援を中心として関わっています。

1校に対し本校教員1名が担当となり、月に1回程度、訪問支援を行います。弱視児の担任は1年で代わりやすい傾向にあるため、途切れのない支援のために、支援には共通フォーマットを使用しています。弱視児が円滑な学校生活を送る上で、指導者が把握しておくべき視覚の実態や、合理的配慮として行うべき学習環境の調整、弱視児本人が見えにくさを改善克服する力をつけるための「自立活動」の指導資料や、本校による支援の記録をすべてひとまとめにした『弱視教育支援の記録 ひとみ』を作成し、活用しています。

『ひとみ』は全38ページの冊子形式で、「視覚状況」「文字環境」「教科指導の配慮」「自立活動」等の11項目についてそれぞれ記録と解説ページがあり、補足資料も加えた構成となっています。地域の担任が記載責任者となり、盲学校担当者がそのサポートを行います。

月に1回の訪問日には、最適文字サイズを知るための検査を弱視学級担任と一緒に行って拡大教科書の文字サイズを決定したり、黒板を見るための視覚補助具「単眼鏡」の指導の様子を見学して指導助言や到達度評価を一緒に行ったりし、それらをすべて『ひとみ』に記録します。最も支援依頼の多い「自立活動」の指導内容や評価方法を記載しているため、訪問のない日でも、日常的な学習の中で活かしてもらっています。

地域で学ぶ弱視児は全員が「その学校でただ一人の視覚障害児」という環境で学んでいます。同じ障害のある友達と学びあう機会を提供するため、県内の視覚障害児在籍校で作る「山梨県弱視教育連絡協議会」を設置し、年に2回「合同学習会」を実施しています。本校が会場となるため、視覚障害教育のために整えられた最新の支援機器や施設設備を体験してもらう機会ともなっています。また、担任が集まる「研究協議会」も年に2回開催し、情報交換を行っています。

(4)その他の相談事業

県の専門家活用事業により本校に外部専門家として視能訓練士2名、歩行訓練士1名が勤務しています。また、心理士や作業療法士等、他校に配置された専門家を活用する体制も整っています。専門家とともに相談にあたることで、より視覚の実態に即した支援を行うことが可能となっています。

また、令和2年度より、山梨大学医学部附属眼科ロービジョン外来との協働を開始しました。病院で眼科医師や視能訓練士と協働し相談にあたることで、医療や教育、福祉等の垣根を超えて、視覚障害児者のニーズに直接応えることのできる新しい支援の形が実現しました。また、視覚障害のある当事者教員が参加することで、ピアサポートが実施でき、相談者から大変好評を得ています。

3.啓発支援活動

(1)サマースクール

「サマースクール」は、毎年7月の週休日に開催している行事です。県内で広く参加希望を募り、実施しています。参加者は、実態ごとに数グループに分かれて活動します。視覚障害当事者の体験活動のほか、晴眼者を対象とした「めかくしカフェ」等の啓発体験もあります。グループ活動以外に、「視覚障害スポーツ体験」や「機器展示会」も開催しています。

(2)研修協力

視覚障害教育の理解や啓発に関わる研修について、依頼があるたびに随時対応しています。

(3)その他の啓発支援活動

視覚障害児の教育は早期からの関わりが大切ですが、弱視は発見されにくく、見えにくさに長い間気づかれないこともあります。そこで、少しでも多くの視覚障害児が早期から専門的な支援を受けられるよう、啓発チラシを作成しました。毎年、3歳児での発見を目指して、幼稚園保育園等の協力を得、年少クラスの家庭に配布をしています。また、市町村や眼科医院にも配布しています。

おわりに

本校に初めて相談に訪れる方は皆、不安そうな表情を浮かべています。でも、相談を重ねるにつれ、できることが増えたり、見通しがもてるようになったりすることで、表情が和らいでいきます。私たちが支援活動で大事にしていることは、本人や保護者の気持ちに寄り添い、受け止め、共感することです。そして一緒に考え、一緒に成長を喜びあうことです。これからも教育と支援を学校の両輪として、全校体制で協力しあいながら、視覚障害教育の専門性を高め、在籍児への教育や地域支援に力を発揮していきたいと考えています。

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