聴覚特別支援学校におけるセンター的機能について

「新ノーマライゼーション」2021年4月号

東京都立大塚ろう学校
乳幼児教育相談担当
神谷瑠美(かみやるみ)
特別支援教育コーディネーター
黒田有貴(くろだゆうき)

はじめに

大塚ろう学校は、東京都豊島区にある、創立90年を越える聴覚障害特別支援学校です。幼稚部・小学部が設置されており、大塚本校と城東(江東区)・城南(大田区)・永福(杉並区)の3つの分教室があります。約200名の幼児・児童が在籍しています。

本校のセンター的機能を担うものとして、「『きこえとことば』相談支援センター」が設置されています。1.聴覚障害教育に関する情報の発信2.聴覚障害教育についての理解・啓発、研修3.聴覚障害のある乳幼児と保護者への支援4.就学・入学相談及び進路指導に関する事業の企画・実施に携わっています。

1.乳幼児教育相談について

0歳から就学前までのお子さんとご家族への継続的な支援と、関連機関との連携を行っているのが乳幼児教育相談(以下「乳相」と表記)です。相談件数は毎年増加傾向にあり、昨年度は231件の相談に対応しました。

赤ちゃんに聴覚障害がある、またはあるかもしれないと心配される保護者に寄り添い、「聴覚障害に関する情報提供」「聴覚管理」「親子のコミュニケーション支援」「お子さんの言葉の芽生えへの支援」を中心に子育て全般についての相談を受けています。支援形態には、個別相談のほか、「親子の活動」「保護者の学び」「内外との連携」があります。

(1)親子の活動

1.グループ活動(0~2歳児) …親子での楽しい体験を通して、お子さんとの関わり方、ことばの育み方などについて学ぶことができます。また、懇談会の時間を設け、保護者同士の交流も大切にしています。

2.個別支援(0~5歳児) …親子と担当の三者で、課題遊びやお子さんの好きな遊びを通して行います。聴覚管理や進路相談など、一人ひとりのお子さんに合わせて支援しています。

(2)保護者の学び

「補聴器・人工内耳について」「難聴疑似体験」「手話講座」「先輩保護者の話」「聴覚障害のある当事者の話」など、さまざまなテーマでの講座を実施しています。

(3)内外との連携

【医療・保健機関との連携】

お子さんを紹介していただくとともに、ケース会等で情報を共有しより良い支援について検討しています。医師や言語聴覚士を保護者講座や研修会の講師としてお迎えすることもあります。

《特色のある取り組み1:関連機関研修会》

保健師をはじめ医療・保健関係の方々を対象に、毎年行っています。「新生児聴覚スクリーニング」または「1歳6か月児及び3歳児聴覚健診」というテーマを隔年で扱い、講演のほか学校見学、協議会を実施しています。早期支援の重要性や、相談児が本校でどのように支援を受けているのかを知っていただくことで、早期からの紹介や支援開始につなげています。

【教育・保育・療育機関との連携】

難聴のお子さんを担当されている幼稚園や保育園の先生方との連携に努めています。「聴覚障害への理解」や「難聴児への適切かつ合理的な配慮」について、周囲の大人が共通理解を図った上でお子さんに関われるよう、来校、電話等でのケース相談、乳相担当が園に訪問しての参観やケース会等を行っています。

《特色のある取り組み2:地域支援研修会》

園の先生方を対象にした「地域支援研修会」を毎年実施し、講演・校内見学・情報交換会を行っています。現場の先生方にとっては、難聴児への具体的な支援を知り、同じ課題について情報交換できる機会となっています。

2.学齢期の相談-在籍校と連携した支援について

東京都内には、難聴・言語障害通級指導学級は、45区市町村の小学校80校、中学校14校に設置され、通常の学級に在籍している聴覚障害のある児童・生徒の支援を担っています。しかしながら、小・中学校の特別支援学級や特別支援学校には、聴覚障害を併せ有する児童生徒が在籍し、補聴器や人工内耳を装用しているケースも多く、聴覚障害に関する専門的な支援が必要とされています。

聞こえない・聞こえにくい児童・生徒には、学校生活における周囲の理解とそれぞれのお子さんの実態に寄り添った総合的な支援が必要です。本校では相談の依頼があると、在籍校と連携し、主として教育相談と巡回相談を実施しています。

(1)『きこえとことば』の教育相談会

本校では、年間20件程度、保護者や教育委員会の相談員などから、来校や電話などによる教育相談を受けています。長期休業中には「『きこえとことば』の教育相談会」を開催し、ホームページ等でも呼び掛けています。

この相談会では、都内の小・中学校、高等学校に在籍する聴覚障害のある児童・生徒を対象として、コミュニケーションの悩みや配慮などへの助言、補聴機器についての相談、聴力測定などを行っています。肢体不自由や知的障害など他の障害を併せ有している方からの相談が多いです。

在籍校と連携して支援をしていくため、申し込みは、在籍校を通すようにお願いしています。相談会は、在籍校の担任の先生などにも同席していただく良い機会だと考えています。本人・保護者・在籍校と聴覚障害特別支援学校の四者が同席し、家庭や学校で困っている具体的な課題を共有することができるからです。相談会を経て、教室の座席位置の見直しや日常の教材・コミュニケーションの工夫に活かしていただくことができました。

(2)巡回相談

在籍している小学校や特別支援学校の授業や学校生活の様子を見せていただき、支援・助言もしています。

学校や教室の環境を騒音計で計測したり、教員や友達同士のコミュニケーションの様子などを確認したりしています。また、お子さんの補聴器の音を先生に聞いていただいたり、オージオグラム(聴力図)を使って聞こえの様子について説明したりすることもあります。中等度難聴の児童に「補聴器を装用していなくても、聞こえているのではないか」と考えていた担任の先生に、補聴器の役割や必要性を知っていただくことができました。

結びに

乳幼児教育相談では、日々の相談業務を通して、新生児聴覚検査で「要再検査」となった親子が、確定診断が出るまでの「曖昧な状況」におかれている期間も含め、相談先として寄り添い支援していくことの必要性を痛感しています。そのためにも、産院や耳鼻科等の関係機関とも連携し、生後すぐからの支援体制を構築し、地域に開かれた相談機関として力を発揮していくことが課題です。

また、学齢期の相談では、小・中学校までは通級を利用していた生徒が、高校進学後に支援が途切れるケースがあります。高等学校等にも聞こえにくいことへの支援の必要性等について理解啓発を行い、連携できるようにしていくことが課題です。

今後とも、聴覚障害特別支援学校としてセンター的機能を発揮できるよう努めてまいります。

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