地域発~人をつなぐ地域をつなぐ-「ぼうさい甲子園」で特別支援学校初のグランプリを受賞~宮城県立支援学校女川高等学園の総合防災訓練の取り組み~

「新ノーマライゼーション」2021年4月号

宮城県立支援学校女川高等学園 主任寄宿舎指導員
森英行(もりひでゆき)
前 国立障害者リハビリテーションセンター研究所・長野保健医療大学
北村弥生(きたむらやよい)

2016年4月、宮城県立支援学校女川高等学園は、東日本大震災で甚大な被害のあった宮城県女川町に開校しました。軽度の知的障害がある生徒が職業教育を中心に学び、地域の事業所などで実習を重ね職業的な自立を目指します。また、県内で唯一3年間の全寮制であることも特徴です。防災教育では、開校当初より地域との連携と全寮制の特徴を生かした実践を目標にしています。

発想の転換

「自分たちで避難訓練を企画できますか?」

質問に対する1期生の返事は「できる/できない」ではなく「面白そう」でした。やらない理由はありません。全寮制の学校ですが、卒業後、ほとんどの生徒が地元に戻ります。地域の自助共助を寄宿舎生活でシミュレーションするために『自主防災組織を兼ねた自治会』を創設しました。県内のいくつかの町内会を見本にして、組織内の各班の名称も、将来、聞き馴染みのあるものになるように「給食給水班」「救護班」など、実際に使用されている名称にしました。生徒個々が役割を持ち、定期的な防災活動や訓練の企画を通して、防災を考えるきっかけを生徒自身がつくり出せる環境の構築を目指しました。

総合防災訓練

2017年より、毎年9月に「総合防災訓練」を実施しています。これは、発災後の共助を体験する訓練で、自治会が企画運営します。例えば、救護訓練は救護班が、避難所運営訓練は総務班が、炊き出し訓練は給食給水班が運営します。訓練に向けては各班が防災情報を調べ、他の生徒に学んでほしい内容を精査し、訓練方法を検討します。当日は、担当する班員以外の生徒・教職員が被災者役となる体験型の訓練といえます。その中でも避難所運営訓練は、HUG(避難所運営ゲーム)を参考に訓練方法を検討しました。HUGや防災用品・アプリなどに関する知見は、学校評議員から紹介された研究者から得ました。2018年からは、地域の社会福祉協議会・町内会関係者・行政区長などにも参加していただき、さらに特殊教育学会での発表、タイ教育省特別支援教育課が主催する全国の特別支援学校代表者を対象とした研修での実演、東京の地域活動研修での生徒による実演へと広がりを見せました。

コロナ禍

2020年度の総合防災訓練は、実施が不安視されましたが、入学時から訓練を重ねてきた3年生が発した「今年の総合防災訓練はできますか?」の一言で実施の決意が固まりました。コロナ禍でも災害は起こりうるもので、どう対処をすべきなのか。近年多発する豪雨災害について、何に留意すべきなのかなど「新時代の防災活動について考えよう!」というテーマを掲げて、総合防災訓練の準備がスタートしました。豪雨時の避難行動には何が必要か【安全点検班】。浸水時の移動の危険性は何か【環境整備班】。コロナ禍における避難所運営の留意点は【総務班・救護班】。感染リスクを減らす配食方法は【給食給水班】。地域への情報発信の方法とは【広報班】。生徒たちは各班の3年生を中心に訓練への課題意識を持ちつつ、マスク着用、手指消毒、換気などの感染症対策を徹底しながら事前の準備を進めました。また、感染拡大・不調者発生等に備えた代替計画も準備して当日を迎えました。残念ながら、地域の皆様の安全を考慮し、今回の訓練への参加案内は断念しました。これまでの地域とのつながりを維持し、今後の新しい関係構築に向けて、学校の取組を紹介するパンフレットを作成して地域に配布したことは、コロナ禍における新しい視点だったと思います。

まとめ

これらの取り組みは、「1.17防災未来賞ぼうさい甲子園(兵庫県・毎日新聞社等主催)」において、2017・2018年度の落選、2019年度の特別支援学校部門奨励賞を経て、2020年度グランプリを受賞するに至りました。開校以来の取組を継続し、生徒一人ひとりが役割を自覚し、誰かと相談し、知識と経験を共有しようと動いた結果だと思います。在学中の経験を自信に変え、災害が起きてしまった時に、自分を救い、誰かを助ける役割を担ってほしい、地域社会を構成する一員として自覚を持って暮らしてほしいと願っています。

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